公子、熊親父を冷凍する
朝日とともに目が覚める。
俺の部屋だ。
「何がどうなったんだ?」
「セリム様! 良かった、目が覚めて」
マリの声がする。部屋の隅に待機していたらしく、目覚めた俺にすぐ駆け寄ってきた。
「公爵様と喧嘩中に、突然お倒れになって、丸1日、目を覚まされなかったんですよ」
そうか。魔力切れで倒れて、そのまま寝ていたのか。
「朝食をお持ちしますね。食べたら、鍛錬場に来られるようにと、公爵様から」
行きたくないなぁ。
朝食後に、鍛錬場という城内の広い更地に向かうと、中央に父が1人で立っていた。
何か、闘志のオーラみたいなものが見える気がする。
どんだけ張り切ってるんだよ。
「昨日の失態、俺が許さなければ、お前は死んでいた」
「はい」
「2度目のチャンスをやろう。慈悲だ」
慈 悲 …… 。
「行くぞ」
剣を持った父が飛び掛かってくる。結界で受けると、跳び上がって、上空から火魔法を撃ってきた。
「身体強化」
避ける、避ける……。全部を結界で受けたら魔力が切れる。避けられるものは避けないと。
「逃げるな!」
俺がいくつも飛んでくるファイアーボールの処理に追われている隙に、父は極大魔法の準備を並行していたらしい。巨大な赤黒い炎の塊が出現していた。
「喰らえ!」
待て。俺と父親の位置関係、父から見れば、俺の背後に城がある。俺が避けたら、あの魔法は城に向かう。城では何人もの文官や使用人が働いている。
避けられない。
「氷壁結界!」
結界で炎の塊を受け止めた。すごいエネルギーだ。氷の結界で炎を包み込むようにして、エネルギーを打ち消していった。
炎が消滅する。
「ほう。なかなかやるようになったな」
上機嫌の父を見る俺の周囲は冷気に包まれていた。
父の足元が凍る。鍛錬場の地面が凍て付き、父の身体も氷に覆われた。
「何やってんだ! 一つ間違ったら、城が崩れて大事故だったぞ!!!」
俺は大声で父親を怒鳴りつけた。
氷漬けの父は氷像のようになっているが、死んではいない。魔力を使えば抜け出せるだろう。
しばらくして、氷が割れて父が出てきた。
「セリム、強くなったな」
父は満足したらしい。闘志のオーラが消えていた。
「数週間前に、教会から使者が来てな。お前に治癒魔法の素質があるから、教会で引き取りたいと言ってきた」
「はあ?」
公爵家の長子を引き取るって、何考えてんだ、教会は。
「もちろん断った。何か態度が悪かったから、威圧して追い払った。だが、しつこかったぞ。お前が一昨日帰ってこなかった時、真っ先に教会を疑った。もう少しで教会に、ファイアーボールを撃ちに行くところだった」
それは……。あの極大魔法を教会に撃ち込むのか。教会だったら別に良いような……。
俺の知らない間に、街の教会が命拾いしていた。
「それで、お前は本当に治癒魔法が使えるのか?」
「軽い傷程度なら治せます」
治癒魔法が使えるかに、「はい」と答えると、嘘をついたと<システム>が反応して、経験値を50引いてくる。俺が使えるのは、魔法じゃなくて<スキル>だから。この辺に気を付けて喋るのにも慣れたな。
「城を抜け出していたのは、街の者を治療するためか?」
「そうです」
「偽善だ。治癒魔法で治せる病など、身体強化が使えれば自己回復できる。それもできない弱者を治して、
「治癒の熟練を積むには、数をこなさなければなりません。そうする内に、いずれは身体強化で治せない大怪我まで治せるようになるでしょう」
「欠損部位の再生のことか。戦士には腕や脚を失って戦えなくなる者も居るが……。そんな高等魔術の使い手、現在この国にはいないぞ?」
「私は、公爵家の長子です」
「ふむ。自信があるのだな」
ハッタリだが、<システム>が嘘だと反応しないのを見ると、いずれは可能なのかもしれない。レベル10ごとに、何か<スキル>を覚えるみたいだから。
「好きにしろ。今のお前を、お前より弱い家庭教師や城の者たちの考えで縛っても仕方あるまい」
どうやら、全力でバトルしたことで、交渉に成功したらしい。これで、より自由に動けるようになった。
* * *
父に認められたことで自由度が上がった。家庭教師のスケジュールなど、俺の指示で変更しやすくなったのだ。それなら、今の授業時間は削って、新たに薬学・医学あたりを学んでおきたい。
「医学知識が全くないまま<治癒スキル>を使うのは危険だ」
一昨日のローラの治療で痛感した。
<治癒スキル>は<システム>が自動でやってくれるので、俺は何もせず魔力を提供しているだけだ。だが、何も知らないまま<スキル>を使うのは良くない。
「<簡易治療>は身体強化で自分の怪我を治している経験があったから、平気で使えた。だが、<免疫操作>、あれはヤバい」
アマンダが水枕を持ってくるまで、病人の熱を冷ますということすら浮かばなかった。大至急勉強した方がいい。
「一応、この分野を専門にしているのは、教会なんだよなぁ」
あの教会に所属するのは絶対に嫌だ。城内で伝手のある者に頼んで、家庭教師として誰か招けないかだけ、聞いてみよう。
「それと、手に入る書籍は全部取り寄せる。薬師なら教会と関係なくやっている人もいるから、薬師の家庭教師も探すかな」
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