公子、新スキルを覚える

《 病人の体力を支援しました 経験値が上がります 経験値が+100されました 》

《 病人の体力を支援しました 経験値が上がります 経験値が+100されました 》

《 病人の体力を支援しました 経験値が上がります 経験値が+100されました 》

…………

………


 ゾフィに<体力支援>を始めて、1カ月が経った。

 はじめのうちは、1日1回体力を回復しても、すぐに疲れる様子だったが、徐々に元気になっていき、2日に1度回復すればよくなり、やがて、ここ3日ほどは、回復の必要ない状態になった。


「ねえ、ゾフィ。アンタ、もう治ったんじゃないかい?」


 治療に向かうと、ゾフィは店の前で、元気そうにほうきを持っていた。


「ええ、アマンダさんもそう思います? 私も、もう自分が病気という気がしないんです」


 彼女の顔色は良くなり、肌や髪に艶がでてきた。


「俺の<スキル>で、病気の原因は取り除けないぞ」

「そりゃ、アンタ。人間にはもとから、病気への抵抗力があるんだ。体力さえあれば、自分で病気をやっつけたんじゃないかい?」

「ああ、なるほど」


 病気なんてかかったことがないから、気付かなかった。そういうものなのか。


「そうね。お蔭で治ったみたい。ありがとう、お兄さん」


《 病気を完治させました 経験値が上がります 経験値が+1000されました 》

《 現在のレベル:19 現在の経験値:1200/2000 》


「ああ。本当に完治しているみたいだ。良かったな、ゾフィ」


 ゾフィの瞳に涙が浮かぶ。彼女は店の中に駆け込んでいった。祖父に話すようだ。


「ゲレルナ病を治せるとはね。それなら……」

「他にも病気の知り合いがいるのか、アマンダ?」

「まあね。アンタが体力回復だけだなんて言うから、希望を持たせて、病気を長引かせても悪いし、黙っていたけど。治る可能性があるなら、治してやりたいじゃないか」

「いいだろう。ただし、病気に打ち勝ったのはゾフィだ。俺は<体力支援>しただけ。必ず治せるとは限らないぞ」

「希望があるだけいいよ。まあ、紹介するのは私じゃない」


 そう言うと、アマンダは店の中に入っていった。


「アマンダ婆さん、兄さんも。ありがとう。ゾフィが、もう治ったって……」

「湿っぽいねぇ。そんなことより、明日、いつもの集会は開くのかい?」


 礼を言いながら泣き出すヨハンに、お構いなしにアマンダが尋ねた。


「ああ、そうだなぁ。うちだけ治ったなんて、言っていいものかと思っていたけど、でも、そうか……」


 ヨハンがチラリと俺の方を見る。


「兄さん、明日の休日、ここで集会があるんだ。ゲレルナ病患者家族の会とでも言えばいいのかね。病人を抱えた家の者が集まって、愚痴を言い合ったりするような、陰気くさい集会さ」

「ほう」

「それで、その明日の会で、ゾフィが治ったって話になったら、『どうやって治した?』って、皆聞いてくると思うんだ。それで……、ただでさえ無償で治してもらっておいて、こんなこと言っていいのか分からないけど……」

「ああ、その集会に来る家族のところの病人も、同じように<体力支援>してくれと言うんだな。いいぞ」


 <体力支援>スキルを使えば経験値を貰えるし、熟練も入る。勿論やらせてもらおう。


「……兄さん。儂は、この年まで生きて、兄さんみたいな聖人に初めて会ったよ。ありがとう……、ありがとう……」


 ヨハンは目頭を押さえて、涙声で繰り返し俺に礼を言った。聖人か。何だか<求道者>っぽくなってきたな。




 次の日。昼食をとって、すぐに街へ出かける。

 ヨハンたちは店で昼を一緒に食べているらしいので、俺は少し遅れて行く。先に、ある程度説明しておいてくれるらしい。


 店に入ると、知らない男女が数名集まっていた。今日は彼らの家族、6名にこれから会いに行く。


「説明されただろうが、俺がやるのは<体力支援>だ。治るかどうかは、患者の抵抗力次第だと思っておいてくれ」

「分かっている。それでも、頼む」

「それじゃあ、この店から近い順に回ろう」


 患者家族たちと、付き添いのヨハン、アマンダと一緒に病人の家に向かった。


《 病人の体力を支援しました 経験値が上がります 経験値が+100されました 》


 最初に向かったのは若い男の家で、彼の母親を看た。次が、中年夫婦の娘、その次は若い女の父親だった。


《 病人の体力を支援しました 経験値が上がります 経験値が+100されました 》

《 病人の体力を支援しました 経験値が上がります 経験値が+100されました 》

《 新着メッセージがあります 》

《 新しいスキルを獲得しました 》

《 現在のレベル:20 現在の経験値:0/2100 》


 途中でレベルが20になり、新しい<スキル>を手に入れた。

 次の病人の家に向かう道で、歩きながら<システム>画面を確認する。


《 メッセージ:未読1件 》

《  免疫操作スキルを獲得しました New! 》

《   免疫操作スキルは、相手の免疫を操作し、免疫で抵抗可能な病気を治します。免疫操作を開始すると、相手の体調が急速に変化し、体力を消耗します。体力支援・簡易治療との併用が必要です。 》


《 スキル 》

《  治癒 》

《   簡易治療…小さな切り傷やすり傷を治す 》

《   体力支援…闘病中の相手に体力の支援をする 》

《   免疫操作…免疫で抵抗可能な病気を治す 》


 今まさに使えそうな<スキル>が手に入った。使ってみたいが、今日は6人看ないといけないから、予定を崩すと悪い。最後の1人に、使ってもいいか聞いてみよう。

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