公子、教会に目をつけられる

「お前たち、怪我をしている者はいないのか?」


 昨日の空き地の子どもたちに、再び会いにきていた。


「怪我人はいないよ。昨日ゴンベイさんが全部治したから。僕らだって、毎日怪我するほどマヌケじゃないよ」


 昨日も最初に話しかけてきた男の子が答えてくれた。


「治療の練習をしたいの? ゴンベイさん」

「そんなところだ」


 治療スキルは使うほど熟練がたまる。レベルだけでなく熟練も上げたい。


「だったら、街をまわって他の子どものたまり場を探したら? 区画ごとに縄張りみたいになってて、僕はよその縄張りには入れないけど。ゴンベイさんなら関係なく回ればいいよ」

「そうか。行ってみる」



 街をぶらぶらと歩き回ると、確かに、遊んでいる子どもの一団を何か所か見つけられた。平民の子どもは群れるらしい。探しやすくていいな。


《 子どもの怪我を治療しました 経験値が上がります 経験値が+100されました 》

《 子どもの怪我を治療しました 経験値が上がります 経験値が+100されました 》

…………

………


 10人ほど治療したところで、<ステータス>を確認した。


《 セリム・ベルクマン 男 15歳 》

《 求道者Lv: 7 次のレベルまでの経験値:90/700 》

《 MP: 3220 / 7691 治癒スキル熟練: 137 》


「MPの減りが昨日より少なくなった。熟練が上がると消費魔力が減るというので当たりだな」


 <治癒スキル>は、いずれ使えるものになるはずだ。レベル上げも熟練上げも頑張ろう。




 3日後、


《 子どもの怪我を治療しました 経験値が上がります 経験値が+100されました 》

《 現在のレベル:9 現在の経験値:610/1000 》


 もう少しでレベル10だ。


 子どもの怪我は、全部治したあと数日して見に行くと、1人、2人、新しい怪我を作っていた。いくつか子どものグループがいる場所を覚えて、それを治療して回った。


「貴方ですね、最近、この辺りで治癒の真似事をしているというのは」


 子どもに囲まれて話をしていると、高圧的な声で呼び止められた。

 振り返ると、修道服を着た中年女性が数名立っていた。


「治癒魔法は教会が扱う神聖なものです。貴方は教会の所属ではありませんね」


 横柄な態度で女が喋る。周りにいた子どもたちが、不愉快そうな目で彼女を見ていた。


「教会なんて、治癒魔法を使えても、お金持ちの治療しかしないのに……」


 教会の悪評ってすごかったんだな。子どもにまで嫌われているとは。よく城に来て、慈善事業で貧しい人の治療をするための寄付が必要とか言っていたのに。あれは何だったんだ。


「ついて来なさい。特別に洗礼を受けさせてあげます。治癒術士なら、教会での地位も手に入りますよ」


 従うのがさも当然のように言われた。だが、


「断る!」


 俺に命令するな。俺を誰だと思ってるんだ、公爵家の長子だぞ。お忍びだから身分は明かせないが。


「何と無礼な。教会の権威を何だと思っているのです!」

「無礼なのはそちらだ。去れ!」


 俺は氷魔法と風魔法を使って、女たちを冷気で取り囲んだ。

 ゾクッとするはずだ。人間相手に暴力を振るうと、<システム>がどう反応するか恐い。おどして退散させよう。


「……これは、この者は強い魔導士です。ここで争うのは、まずい……」


 後ろにいた別の女が進言すると、偉そうな女たちは舌打ちして去って行った。



 魔法を使ってしまった。周りにいた子どもたちをおびえさせただろうか。


「兄ちゃんすげぇ。スカッとしたぁ」


 子どもたちは大はしゃぎだった。


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