公子、村に到着する

 そうこうしている内に、目的の村に到着した。ここで1泊し、翌朝、討伐対象を駆除する。


 村の入り口で、体格の良い女村長と騎士の格好をした中年の男が、出迎えてくれた。


「ようこそ、公子。来ていただき感謝します」


 女村長が俺に挨拶すると、隣の男も頭を下げた。


「今日明日と世話になる。敵について、詳しく聞きたい」

「はい。先日からゴブリンの被害が続いており、村の西にゴブリンの集落が作られているのを発見しました。統率しているのがホブゴブリンで、他に、魔法が使える個体が複数いる群れになっていたので、援軍を要請いたしました。まさか公子に来ていただけるとは、感激しております」


 そう言って、村長は再び深く頭を下げた。


「隣にいるのは騎士か?」

「はい。村に駐在している唯一の騎士です。普段、この辺の魔物には、彼と村人で協力して対処しております」

「なるほど」


 下級騎士1人じゃ、ホブゴブリンを含む群れの相手は危険か。


 森に囲まれた村で、魔物の危険は常にあるから、村人たちはある程度戦い慣れている。

 この村長の体格ががっしりしているのも、その表れだろう。

 だから、村を守ってこられたのだが、自分たちで勝てないと思ったら、すぐに援軍を求められるように、ネットワークも出来ている。

 公爵領の行政がきちんと働いていて、俺は嬉しいよ。


 案内されて、村長の家に通された。

 村に宿屋はないので、ここで宿泊する。


 広い応接室で、お茶とお菓子を出されてくつろぐ。

 気を遣って、村の関係者は部屋から出ているので、側近候補たちがわいわい楽しそうにお喋りしていた。


「少し出てくる」


 <デイリークエスト>をやらなきゃいけない。

 俺は村長のところに向かった。


「ゴブリン以外に、村で困っていることはないか?」

「そうですね。普段、弱い魔物は騎士様と村人で駆除していますが、やはり危険なので大変です」

「そうか」


 やっぱり、どこでも魔物の問題が1番大きいよなぁ。


「あとは、魔物を追い払うのに怪我をする者が出て、農作業に支障が出ることも」

「ふむ」


 治癒魔法の使えない俺じゃ、役に立てない問題だ。

 治癒魔法が使えるのはごく少数で、そのほとんどを教会が管理している。こんな地方の村に、治癒術士が来ることはまず無い。

 ただ、身体強化の魔法を使えると、自己治癒力を強化することが出来るので、魔力が高ければ、切り傷などすぐ治るし、感染症の病気にもかからない。さすがに腕を切り落とされて再生するとかは無理だけど。それは、治癒術士でも、出来るのは教会の本山がある聖王国に一握りじゃなかろうか。


「参考になる話を聞かせてもらった。礼を言う。……ところで、俺は付与魔法にっているんだが、村に壊れた魔道具などはないか?」

「え? それは、いくつもありますが……。厨房のコンロの1つが壊れて、ゴブリンのせいで行商人から新しいのが届かず。他に、行商人の口車に乗って買ってしまった農作業用の魔道具が、すぐ壊れて修理するのも悔しく、そのままにしてあります」

「そうか。では、早速直そう」

「え? 公子が?」


 俺は村長の部屋を出て、厨房に向かった。



「遠征で来られた貴族様ですか? ご飯はもう少しお待ちいただかないと……え? 公子!? 何で……」


 厨房に入る俺を止めようとしたコックを、村長が慌てて制す。

 村長の家の厨房には、コンロの魔道具が2つと、炭火のオーブンがあった。

 俺は、使っていない方のコンロの外装を外した。


「使い込んでいるな。魔法式の文字のほとんどがかすれてる。」


 魔道具の文字は、魔力を通すごとに、じょじょに薄れて消える。それが、魔道具故障の主な原因だ。


「これだけ文字が薄くなるまで動いていたなんて、長く使える良いコンロだったな」


 俺は魔法式の書かれたプレートを取り出し、用意しておいたインクで、かすれた文字をなぞりだした。全く見えなくなっている文字もあるが、この穴を考えて埋めるのが、パズルみたいで面白いのだ。


 30分程度で書き終えると、コンロの中にプレートを戻した。


「完成。これで使えるはず」


 試しに魔力を通すと、無事に動いた。


《 村人の魔道具を直しました 経験値が上がります 経験値が+100されました 》

《 現在のレベル:-47 現在の経験値:610/1000 》


《 デイリークエスト<一日一善>を達成しました 》

《 <祈り><一日一善>がともに達成されました クエスト報酬で経験値が上がります 》

《 経験値が+500されました 》

《 現在のレベル:-46 現在の経験値:110/1000 》


「おお、直ったんですか? これは有難い。お礼の気持ちを込めて、今日の夕食は期待していてください」


 村のコックはその言葉通り、張り切って料理を作ってくれた。


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