公子、側近候補に会う

「「「公子、おはようございます。」」」


 翌日早朝、城の前には、監督の剣士カティアと、俺と同年代の子どもが7人いた。

 子どもたちは全員、俺が王都の学園に入学するのに、ついてくる予定の者たちだ。


 俺は大貴族だから、王都で学生をするにしても、1人で通うなどありえない。最初から、神輿みこしの担ぎ手になる子分たちを、同学年に何人も入学させて、派閥を作るのだ。

 しかし、俺の入学の年には、王太子である王女と、他に2つの侯爵家の子女も入る予定だ。

 学園に入学するのに、伯爵以上の爵位持ちの子は試験無しだが、それ以下は試験がある。

 俺の側近候補の子どもたちは、この試験に通過しないといけないので、今は、個別に勉強中だ。結果、現在の俺は、同年代の側近候補とあまり一緒におらず、大人に囲まれて生活していた。


 今回の遠征は、その子どもたちも連れていく。将来長く一緒に戦うことになる者たちとの交流も、目的の1つだ。


「討伐対象はゴブリンでしょ? 公子、もっと強い敵と戦いましょうよ」


 ベルソン子爵家のギルベルトが話しかけてくる。

 今回の一行の中で、俺の次に身分が高いのがコイツだ。ベルソン家は公爵領の東の重要な砦を代々護っている。

 ギルベルトはいわゆる脳筋のうきんタイプ。強いが馬鹿なので、学園入学の筆記試験のために、猛勉強をさせられている。


「今回の遠征は、監督教師1名を除いて、全員が公子と同年代の子どもです。我々だけで目的地まで向かい、討伐を成功させて、1泊して帰ってくる、その流れの全てが勉強です」


 次に話に入ってきたのは、ヴァレリー・メルダース。王国の爵位は持たないが、代々公爵家の内政を担当する家の息子だ。メルダースは文官の家系だが、ギルベルトのような武闘派ばかりを、俺の周りにつけておくわけにいかない。だから、比較的魔法の才能のあったヴァレリーを、武官として育てて、王都に送る計画だ。

 ヴァレリーの入学には、武術の実技試験が心配で、こちらも今、必死で訓練している。彼は秘書のような仕事をさせるのに優秀な人材なので、是が非でも入学してもらわないと、俺が困る。


 ちなみに、ギルベルトは同い年で、ヴァレリーは1歳年上。王都の学園は、入学資格が15歳~18歳なので、俺に合わせて進学する。

 入学年齢に幅があるせいで、王太子と同学年になろうとする者が多くなって、試験がより過熱していた。


 この2人を筆頭に、王都では俺を支えてくれる予定だ。今日の遠征に参加する者の他にも、入学試験を50人くらいに受けさせるのだが、何人合格することやら。




 この世界で、魔物と人間は熾烈しれつな陣取り争いをしている。

 両者とも、マナをエネルギーとして、呼吸から取り込む。

 人間の多い都市部では、付近のマナが人間のものになっているので、魔物は発生することが出来ない。

 一方で、人のいない地域では、マナは魔物のものとなる。魔物はマナから自然発生する他、繁殖する場合もある。


 公爵家の領都付近では、魔物は発生しない。魔物退治の実戦を経験するには、地方に出向かなければならない。


 森の中の道を進む。

 比較的安全な道だが、道中、弱い魔物の襲撃はある。

 人々の集落を結ぶ道は、いちおう人の領域だが、弱い魔物は絶えず発生していた。

 荷物を運ぶ馬車1台を囲むように、少年たちが馬に乗って移動する。

 監督教師のカティアは荷馬車の御者をしていて、出てきた魔物の排除は、俺たちでやらなければならない。


「……コボルト3体か。ギルベルトなら大丈夫だ」

「ちょっと大将、さっきも俺にやらせて何もしなかったでしょ」


 文句を言いながらも、ギルベルトはあっさりと3体を切り捨てた。

 剣術の腕だけなら、俺よりギルベルトの方が上だ。


 道中、まだ俺は1匹も魔物を殺していない。

 代わりにギルベルトに倒させたが、<システム>の反応はなかった。


「もともと強い俺が倒すより、皆が実戦経験を積んで育つ方が良いだろう」


 もっともそうなことを言って、俺自身は戦わない。

 魔物殺しは、十中八九、<システム>にとってマイナス評価だ。損失は最小限にしておくつもりだ。

 今更コボルトを切っても、俺には何の訓練にもならないのも事実だし。


「そりゃそうでしょうけど、俺だって、コボルト程度倒すのは、面倒なだけなんですよ」

「では次は、俺とギルベルト以外の6人でやってもらう」


 残りの者たちを見回すと、皆、緊張した顔をしていた。

 俺やギルベルトが異常で、普通の14、5歳にとっては、コボルトも恐いものだ。



 しばらく行くと、また敵が現れた。


「グレーウルフ4体か。コボルトよりちょっと強いな。だが、予定通り行ってもらうぞ」


 少年たちは、恐る恐るグレーウルフに剣を向けた。

 俺は彼らに、力と速度の上がる補助魔法をかけてやった。


「やっさしー。俺が戦うときは、何もサポートなかったですよね、公子」


 軽口をたたくギルベルトの前で、他の少年たちは、順調にグレーウルフを倒していった。


「よし。皆、期待通りだ」


 上機嫌に俺は言う。

 魔物を殺した奴らに補助魔法を使っていたが、これにも、<システム>は反応しなかった。

 以前に予測した通り、配下の行動で経験値が動くことは、ほぼ無さそうだ。

 後は、俺が直接戦った場合を見るだけか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る