公子、魔道具を開発する

 さて、今日は月に1度の、付与魔法を教わる日だ。

 付与魔法は、専用の魔法式を書いて、魔道具を作る魔法だ。

 俺は月1で習っているが、たしなむ程度で良いと言われている。

 というのも、付与魔法には少しの魔力があれば良く、魔力の高い貴族にやらせるのは非効率だからだ。

 その分、頭脳勝負で、誰にでもできるわけではないけど。魔力は少ないが数学とかが得意だという人が向いているのが、付与魔法使いだ。


 この付与魔法の先生にも、<一日一善>で何か思いつかないか尋ねてみよう。


「一日一善? ふむ、なるほど。公子に相応しい行動でとなると、魔物退治か寄付か……」

「それ以外で」

「貧しい人のための魔道具を作るのは、いかがでしょう? 付与魔法を商売にしている人たちは、収入のために、貴族や金持ちの役に立つ道具から作っていきますから」

「弱者の役に立つ道具を開発するのか」

「はい。他者の視点に立った道具を設計するのは、勉強になりますよ。今日は、貧しい人のために、公子が思いつくものを作っていただきましょう」

「分かった」


 金のない奴にとって、使いやすい発明品か。商売にしにくいから、開発されていないけど、あったら嬉しいもの。

 難しいテーマだから、<一日一善>のために、毎日何か発明するというのは無理だな。でも、授業時間で考えられるならいいか。


 何にしよう……。城の使用人は、魔力で基準を満たした者しか採用されない。公爵家長男の俺の周りには、優秀な者しかいないのだ。弱者の視点に立とうにも、その弱者をよく知らないんだが……。


『使用人の居住棟の暖房は、薪を使う暖炉ですよ』


 ふと、マリが言っていたことを思い出した。


「作りたいものが浮かんだ。暖房の魔道具について教えてくれ」


 俺は先生に相談しながら、紙に魔法式を書いていった。




「薪の燃費を向上させる魔法陣だ。暖炉の下に敷いておくと、炎が周囲のマナを取り込みながら燃えるようになる。そうすることで、薪が従来の1.2~2倍程度、長持ちする。燃やすと発動するしくみで、魔力の消費は無い」


 俺の渡した設計図を見つめながら、先生はポカンと口を開けて、固まってしまった。


「これは……、暖房の魔道具の式の一部を流用されたのですね。効率の良い美しい式です。僅かな学習時間で、よくこんなものを思い付かれる。公子は素晴らしい才能をお持ちです。付与魔法のスペシャリストになってくださったら、どれだけの人々の生活が向上するか……」


 興奮した様子で語りだした先生は、最後に、少し残念そうな顔になった。

 付与魔法は楽しいが、俺が魔道具開発の専門家になることはありえない。


「俺にとっての付与魔法は趣味だ。戦うことが優先される。貴族の勤めだからな」


 公爵家の息子としての俺の価値は、戦闘能力で決まる。

 この世界では、人間の生活圏に侵入する魔物を排除し、魔物の領域を切り拓くことで、人々のための土地を確保している。

 魔物を倒せる強い奴が、貴族になる。貴族は、強くなければいけないのだ。

 <求道者>システムと相性が悪くて、困ってしまうよ。


「まあ、何にしろ、使えそうな設計図ができた。燃えにくい素材で職人に発注してみる。制作費は、手始めに俺の小遣いから50枚分を出そう」


《 領民の生活を向上させる魔道具を開発しました 経験値が上がります 経験値が+1000されました 》

《 現在のレベル:-49 現在の経験値:410/1000 》


《 デイリークエスト<一日一善>を達成しました 》

《 <祈り><一日一善>がともに達成されました クエスト報酬で経験値が上がります 》

《 経験値が+500されました 》

《 現在のレベル:-49 現在の経験値:910/1000 》


 一気に上がった!!!!

 これは美味しい。

 しかし、たまたま良いアイデアが浮かんだから、できたことだ。この調子で、毎日何か発明するというのは無理だ。

 設計図を書き終えた後に経験値が入ったから、アイデアを溜めておいて、<一日一善>を達成しにくい日に完成させよう。



 余談だが、この日作った魔道具は、俺が思っていた以上に、広く利用され、俺に対する悪評を払拭ふっしょくしてくれた。

 あまりに評価されたせいで、「こんなもの誰でも考えられる人気取りだ」と、やっかみの非難までされた。


 この他にも、俺はいくつかの魔道具を開発したが、最初に作ったこの魔道具が、一番普及することとなった。


 

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