公子、メイドのために暖房をつける
部屋に呼び寄せていたマリは、すぐに出て行かず、壁際に立っていた。
目を合わせると、彼女は気まずそうな顔をした。
「すみません。すぐに退出します。この部屋が暖かいので、つい居座ってしまいました」
部屋は、暖房の魔道具で暖めてあった。
魔道具は、使用者の魔力を吸収して発動する。
俺の部屋の暖房には、俺の豊富な魔力を使っているので、部屋中が快適な温度になっていた。
「暖かい…、ああ、そうか」
暖房の魔道具の術式自体は、専用のインクで書けばいいだけだ。道具を作るのは、それほど難しくない。公爵家の城ともなれば、魔道具はどこにでも設置されていた。
しかし、動力になる魔力は、人間が補充しないといけない。メイドの魔力では、あまり暖かくできないのか。
魔力量は遺伝の影響が強い。大貴族の魔力は、普通の人の数百倍あるとも言われている。主人が使いたい魔道具は、主人が直接起動し、使用人には任せない。その方が効果が高いから。
魔力は誰にでも少しはあり、使用人も自分の魔力で魔道具を使って仕事をしている。
特に、料理人は魔道具をたくさん使うので、魔力量が就職の条件となり、給料が良かったりする。
「マリも魔力の少ない方ではないだろう。うちのメイドの条件を満たしているんだし」
「はい。ただ、仕事でちょくちょく使うので、暖房にはそこまでまわせません」
「ふむ」
使用人の部屋の暖房までしてくれる主人はそうそういないから、使用人しか入らないエリアは寒いのかもしれない。
「使用人の居住棟の暖房は、薪を使う暖炉ですよ。こちらの本館では、煙や煤を出せないので、全て魔道具ですが」
「そうか。マリは今日、俺の部屋近くの控室で寝泊りか?」
使用人が生活する建物は、本館と別になっている。だが、夜中に主人に呼び出されるのに対応するため、少人数は本館に残っていた。
「はい」
「じゃあ、控室の暖房を見てみようか」
俺はマリと一緒に、使用人控室に行ってみた。
部屋には、マリの他に2人のメイドがいて、俺が来たのにびっくりしていた。
暖房の魔道具は使われていたが、注がれた魔力が少なく、無いよりマシという程度だった。
「はい。これくらいの温度が過ごしやすいだろ」
魔道具に俺の魔力を追加する。
「ついでにこの辺の廊下もやっておくか」
《 思いやりのある行動をしました 経験値が上がります 経験値が+100されました 》
《 現在のレベル:-51 現在の経験値:660/1000 》
《 デイリークエスト<一日一善>を達成しました 》
《 <祈り><一日一善>がともに達成されました クエスト報酬で経験値が上がります 》
《 経験値が+500されました 》
《 現在のレベル:-50 現在の経験値:160/1000 》
「よし!」
ギリギリだが、本日の<デイリークエスト>達成だ。
このまま、毎日暖房するだけでクリアできれば楽だなぁ。多分、そんなに甘くない気がするけど。
でも、経験値をもらえなくても、これくらいは毎晩、補充してやってもいいかな。
俺からすると大した手間でなく、相手にとっては有難いことだろうし。
《 見返りを求めない心があなたを成長させます 経験値が上がります 経験値が+300されました 》
《 現在のレベル:-50 現在の経験値:460/1000 》
お…おう。思考だけで経験値が貰えることもあるのか。
悪いことを考えただけでマイナスされたこともあるもんな。
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