公子、抜け道を考える

 翌日。

 起床してすぐ、朝日に向かって祈る。

 <デイリークエスト>の<祈り>を完了。


 その後、<一日一善>のつもりで、使用人にプレゼントを渡してみた。しかし、経験値が入らない。


「喜ばれていないのか?」


 いや、そもそも、プレゼント配りが、<求道者>として相応しい行動じゃないのかも。立派な聖人、仙人なんかが、周りの人に安いプレゼントを配っていたら変だ。

 昨日の、カティアにチョコレートをあげて得た経験値は、チョコレートを独り占めせずに、周りを気遣ったことへの評価と考えた方がしっくりくる。


「<一日一善>で何をするか、探さないとな」


 しかし、本日は昼過ぎまで、勉強と鍛錬で予定が埋まっていた。

 俺は貴族だが、14歳。親の命令は絶対で、拘束が厳しい。特に、俺はこの国の優秀な王太子と同い年で生まれてしまったため、張り合うように、教育が過熱していた。

 前世では、それを当たり前だと思いながら、ストレスで教師に当たり散らしていた。今世でもこのままだと、レベル上げの時間を作れなくなるかもしれない。その対策も必要だ。考えることが多いな。



 家庭教師からやっと解放された昼下がり、急いで、<一日一善>のクリアを目指す。


「街の孤児院に行ってみよう」


 教会での寄付は失敗したが、ちゃんと子供の面倒を見ている孤児院で寄付したらどうだろう。



 城から近い孤児院に向かい、院長と面会した。


「これで、子どもたちに美味い物を食べさせてくれ」


 院長に金貨を1枚渡してみた。


《 孤児院に寄付しました 経験値が上がります 経験値が+100されました 》

《 現在のレベル:-51 現在の経験値:370/1000 》


《 デイリークエスト<一日一善>を達成しました 》

《 <祈り><一日一善>がともに達成されました クエスト報酬で経験値が上がります 》

《 経験値が+500されました 》

《 現在のレベル:-51 現在の経験値:870/1000 》


 よし!


「ありがとうございます。ご寄付は有効に活用させていただきます」


 初老の院長は上品に、俺に向かって礼をした。


「子どもたちが幸せに暮らせるように支援したい。足りないものがあったら言ってくれ」

「そうですね。冬用の毛布が少なく、寒い思いをしている子がいます」

「分かった。手配する」


 これで、明日のデイリークエストの目途も立った。

 領都は広いから、孤児院などの福祉施設がいくつかある。その辺に寄付していけば、デイリークエストは何とかなるかもしれない。




 次の日は、さらに勉強の時間が長い日だった。


「街まで出て孤児院に寄るのは厳しいな」


 夜中におしかけるのも悪い。


「孤児院に毛布を贈りたい。手配してくれ」

「かしこまりました」


 使用人に頼んで、贈り物だけしてみる。

 <システム>は反応しない。


「贈り物だから、孤児院に届いたときに判定がくるかな」


 しばらく待ってみたが、何も起きなかった。


 日が暮れた頃に、お遣いを頼んだ使用人が帰ってきて、孤児院からのお礼の手紙を受け取った。


 <システム>に反応はない。


「どういうことだ? 家臣に命じて何かしても、俺の善行とカウントされないってことか?」


 <システム>は万能だと、無意識に思い込んでいた。

 でも、命令して、自分以外が動いた結果まで全部把握するなんて、人間だったら不可能だ。<システム>も完全ではないから、俺が直接実行したことだけを評価するように、制限しているのかもしれない。


「ってことは、俺が直接手を出さなければ、悪いことでもやり放題なのか?」


 悪さをする気はないが、抜け道があるのか、調べておこう。


「マリ、ちょっと来てくれ」


 ベルを鳴らしてメイドを呼ぶ。


「この木の枝を折ってみてくれ」


 部屋に置いてあった観葉植物を指して、マリに命じた。


「……は、はぁ」


 マリは素直なので、「変なことを言う主人だな」という思いがそのまま顔に出ていたが、命令通り枝を折ってくれた。


《 故意に植物を傷つけました 経験値が下がります 経験値が-10されました 》

《 現在のレベル:-51 現在の経験値:860/1000 》


 マリの行動で、俺の経験値が下がった。

 他人を抜け道に悪さをすることの予防は、一応、しているみたいだ。

 でも、もうちょっと考えたら、何か出来そうではあるけど……。


《 不正を考えました 経験値が下がります 経験値が-100されました 》

《 現在のレベル:-51 現在の経験値:760/1000 》


 思考に制限がかかる点が、一番厄介かもな。

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