第8話

車椅子から降りて、体の動かし方を思い出す。


「...よし。」


入り口から、外に出て建物の壁沿いに動く。つまり、外から見えないように。が、上の階から見られたら、すぐにバレてしまうため、近くにある、木陰に移動したい。


が、移動すると駐車場から見えないので、連絡をすればいいのだが、見られると、葵衣あおいまで巻き込んでしまうので、電話はしない。


すると駐車場に新しい車がきた。葵衣あおいは免許は持っていないため、タクシーで来るとノートに書いてあった。つまり、全く関係ない人か病院関係者か、裏切り者だろう。とか思っていたが...


「やぁ。水町みずまちくん。」


出てきたのは...紛れもない、かいさんだった。



タクシーを呼び、水町病院へ赴く。今日でやっと、かけるを助け出せる。と思っていたのだが...。


「お嬢ちゃん、本当にあの病院でいいのかい?」

「はい。あそこの水町病院です。」

「お嬢ちゃん...。あそこは水町病院...?って名前じゃないし、もう廃墟になっているんだよ。」

「へ...?そ...それ本当ですか!?」

「本当だよ。しかもあの病院変なことたくさんしていたらしいから、あまり行かない方がいいんじゃない?」

「いや、行きます。あそこで迷子になってしまった、友達を助けに行くんです。」

「...そうかい。」


そこで会話は途切れた。すごく中途半端なところで電話を切ったのがとても気にかかる。すぐにでも向かわなければ...。


「ほら嬢ちゃん。病院に着いたよ...。」

「はい。いくらですか」

「ん。七千円だね。」

「...はい。大丈夫でしょうか。」

「ひいふうみい......。はい。合ってるよ、ありがとねー。」

「はいー。」


そう言って、タクシーを降りた。名前の欄には茶郷さごう 弘文ひろふみと書いてあった。



会話を陰から盗み聞く。

「あの子の実験はどうなんですか。」

「いやー。相当時間かかっているんですが、そろそろできそうですよ。」

「特殊な臓器の生成でしたっけ。大丈夫なんですか?」

「あぁ。いろいろ不都合がありましたが、薬をしっかり飲んでここで過ごしていれば、生きていけるんじゃないかなと思っているんだ。」

「ふむ...。そうか。では肝心なその子はどこに?」

「...。それが、この病院から脱出してですね...。」

「じゃあ、もうここにはいないと?」

「は...はい...。」


そこまで聞いて、後ろの方で、葵衣あおいの声が聞こえた。


「大丈夫か!?」

「うん。大丈夫だ。そっちは?」

「いろいろあったが、なんとか大丈夫だ。歩けるか?」

「あぁ。...そういえば、どこに向かうんだ?」

「私の...いや。私たちの家だ。」

「あぁ。分かった。...移動手段は?」

「...電車にしよう。」


そして駅まで、走って行った。


...それを見た僕は、看護師に報告した。恨めしいから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る