第5話

疑問に思いながら、葵衣あおいの方の手紙を開ける。するとたった一言。


「逃げろ」


と書いてあった。2枚目には、電話番号と思われる数字が羅列してあった。


なるほど、これで呼び出して僕と会う口実、もしくは僕を外に出し、連れ出す。逃げろと書いたのは怖がらせるためだろう。


もちろん電話しない。どうしてか?それは単純明快。電話したくないからである。


ということで、なにも気にせず、その日を過ごす。


そうして、お風呂を済ませ、夕食を食べた。そうして寝ようとした時。


トイレを済ませて、部屋に帰ろうとした時、公共スペースにいる英橙えいと君に呼ばれた。


「よう。今時間ある?」

「...今から寝ようとしてたんだけど。」

「ごめん。じゃ、一戦だけ。お願いします。」


とオセロが置いてある席の反対側に誘導された。まぁ最近、やってなかったし、頭をスッキリさせたいから、やってやるか。


「どっち黒?」

「ジャンケンで決めようぜ。」

「ジャンケン...ポーン」

      「ポーン」


と言うことで、英橙えいと君に今日あったことを話しながらオセロを打つ。戦況はこちらが少し優勢と言う感じだ。


「そういえば聞いたか?院長の噂。」

「?...なにそれ?そんなのがあるの?」

「なに一つも信憑性のない話なんだがな、地下に実験施設があって、死んだ人を使って実験してるとか。」

「こえぇよ。そんなことしてるの?院長。」

「それだけじゃない。臓器売買とか、人身売買。他には、ここから異動になった看護師とかがいないんだ。つまり...?」

「うん。それ以上はいいや。はいチェックメイト。」

「な...なんだと。この俺が...。」

「...やっぱり院長がそんなことしてると思えないだよな。」

「ここに六年近く引き取ってもらっているから?」

「そう。自分に優しかった院長がそんな下賎なことをしていると思わないんだ。」

「やっぱ、そうだよなぁ...。...すまんな変な話して。」

「いやいいよ。じゃおやすみ。」

「おやすみなー。」


いや。一人きりになった部屋でオセロの盤面を見る。


「まさか、真っ黒にされるとは...。」


そんな感嘆の声を漏らしながらオセロを片付けて、さっきのことを思い出す。


かける、随分焦ってたなぁ。どうしたんだろ。」


そんなことを言いながら、部屋の電気を消し、部屋を出る。


そんな部屋から声が聞こえた。


「助けて...。」


声をかけず部屋の電気をつける。するとすみっこに小さな子どもを見つけた。


「君、名前は?」

「...み...ずま...ち......ゆ...いか。」


あまり怖がっていないが、躊躇っている気がする。というか水町って...?この病院の...


「はーい。そこまでー。唯香ゆいか持っていって。」

「...うん。」


そう言って、水町みずまち 唯香ゆいかはずるずると引きずっていく。


「さぁて。次は誰かな♪」


そんな声が誰もいない部屋に木霊した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る