第3話

...彼女は幼馴染、ひいらぎ朱音あかねの妹。葵衣あおいである。


...そして朱音あかねを殺した張本人である。


彼女を見て恐怖で身が竦んでいると、彼女はお構いなく病室に入ってくる。


「久しぶりだねぇ。お兄ちゃん。」

「.........。」

「ふふ。恐怖で体が動かないみたいだねぇ。そんなに怖がることないんだけどなぁ。」

「う...うるさい!この...人殺しが!!」

「うるさいのはそっちだよ。まぁでもそんな君も好きだよ。というより人殺しは納得いかないなぁ。」

「...は?あ...あの時突き落としたのはお前じゃねえか!」

「それは君に非があるでしょぉ。君が私を一番に見てくれなかったからだよ。」


慣れない声の大きさで声を出したからか喉が痛んで、呼吸もしずらい。

そんな時。大声を聞いて、香織かおりさんが扉を開けて入ってくる。


「大丈夫ですか!?かけるくん!?」


その時僕じゃない声が響く。


「多分...悪夢を見ていたんだと思います。それで私が起こしてしまって。それで気が動転してしまったんだと思います。ほら...汗もかいてしまっているし。」

「な..なるほど。」

「とりあえず冷静になるまで外で待っていますね。渡したいものがあったから来たんだけどなぁ。」


と外に出て行く葵衣あおい。それを横目に香織かおりさんはタオルを渡してきて、深呼吸してくださいーと言っている。


やがて、冷静になった僕は言った。


「初めて、かけるって呼んでくれたね。」

「それは...」


香織かおりさんは赤面した顔であたふたしている。


「そ...そうだ。あの女の子呼んできますね!」


と、随分な早口で言った後、そそくさと部屋から出ていった。


そのあとまた彼女。葵衣あおいが扉を開ける。今回持っているのは恐怖ではない。覚悟だ。


「それじゃあ。どこから話そうか。」

「まず、お前はなんでここにきたんだ。」

「さっきも思ったけどさぁ。お前じゃなくて、葵衣あおい。ちゃんとした名前があるんだからちゃんと呼んでよー。かけるくぅん。」

「...はいはい。じゃ、葵衣あおい。ここになんできたんだ?」

「それはこんな状態になった君を見にきたのもあるんだけど。」


人に名前で呼ばせておいて、自分だけ名前で呼ばないのはどうかと思ったが、呼ばれるだけ気持ち悪いので言うのはやめておいた。


「じゃ、なんで?」

「それはねぇ。」


と、持っているショルダーバッグを漁る。やがて見つけたのか、


「これを持ってきたんだよ。」


と、小さな箱を取り出して、僕に手渡してきた。


「なにこれ。」

「見てわからない?指輪。私と結婚して欲しいの。...って言いたいけどこれは私からのプレゼントではないの。」

「じゃ、これは...?」

「そう思っている通り。あの姉貴のプレゼント。」

「なんで指輪なんか...。」

「あぁ、あとこれ。手紙。姉貴の分と私のね。」

「...破ったりしなかったんだな。」

「私もそこまで鬼じゃないよ。まぁ、姉貴の気持ちはいつまでも伝わらず、私を選ぶのが、もう決まっているから。」

「あっそう。」

「むー。反応薄いなぁ。...あー、もしかして照れ隠しかー?可愛い奴めー。」

「うるさいなぁ。」

「...じゃ、私はこれで。可愛いかけるくんも見れたし。」

「はいはい。...またな。もうくんなよ。」

「バイバイ。またくるね。」


と扉を閉めていった。その時、怒気を含んだ暗い声で、


「あの看護師も対象かな。」


と聞こえた気がした。

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