第3話

さて、そんなわけで彼らは圭を助けに行くわけだけど…

ここからは圭の方に視点を切り替えてみようか


*********************************


「…あれ、ここどこ?」

気がついたら周りは真っ白い空間だった。

壁がないどこまでも真っ白い空間。


僕は…なんでここにいるんだっけ?


昨日、優希たちと帰って…。

それから…そうだ塾に行った。

帰り道に強い風が吹いて…。

目の前が真っ暗になったんだ。


「けど、そこからどうやって来たんだろう…?帰れるのかな…?」

そう言って数歩歩いたとき…

「おはよう」

どこからともなく声が聞こえた。

「君もここに選ばれたのかい?」

振り向くと一人の男が立っていた。

「君が神岡圭君だね」

そういってニコッと笑って言った。


「あの…あなたは…?あとここって…?」

「まぁまぁ、落ち着いて。僕は水木龍太郎。ここは…なんて説明しようかな…」

そう言って彼は考えながら圭の周りを歩いた。

「う~ん、楽園が一番近いのかな。この空間、今は何もないけどここにはなんでもあるんだ。それが欲しいと願ったら。ほら。」

気づいたら彼の右手にはパンがあった。

「うん、おいしい。君も何か願ってみな」

圭は半信半疑で願う。

「お、本かぁ。なんて題名だい?」

気づいたら目の前に本がおかれていた。

「これは…宮沢賢治の銀河鉄道の夜か。難しい本を読むね。」

「本を…読むのが好きなんだ…。すごい…」

圭は驚いていた。

「ね。他にももっと願ってみたら?お腹空いてるでしょ」

「う、うん」

圭は目を瞑る。

「お、いい匂いがしてきた。これは…」

「す、すごい」

白い机の上には今まで見たことのない豪華な料理の山。

「イメージしたものがざっくりしてたのかな、いろんなものが出てきちゃった」

「これ…食べていいの?」

「うん、もちろん」

圭は綺麗に盛り付けられたフライドチキンをほおばった。

肉汁が口の中に広がる。

「どう?おいしいかい?」

「…うん!」

どんどんかぶりつく圭。

「そう。よかったね」

楽しい!

圭は夢中で食べていた。


けど

「美味しかった…。けど帰らないと。おばあちゃんが待ってる」

圭の家には祖母がいた。いつも圭の面倒を見てくれている。

しかし、水木は何も聞こえてなさそうであった。

「あの、ごめんなさい。僕は帰らないと…」

「ごめん。それはできない」

水木はきっぱりそう言った。

「君は残念ながら帰ることはできない。ここは来ることはできるけど帰ることができないんだ」

「…えっ?」

圭は立ち尽くした。周りにあったものはいつの間にかすべて消えていた。


「ここはたしかに願えばいろんなものを出すことができる。けど今生きている人や物は無理なんだ。そして生きている人はここから出入りすることもできない」


圭は呆然としてしまった。

それじゃあ僕は…。


「逆に言えば亡くなってしまった人には会えるんだ、ここは。ほら、あそこを見てごらん」

水木に言われた方向を見た。

「えっ…?」

そこには懐かしい人がいた。

「お父さん…?お母さん…?お姉ちゃん…?」

お父さんは少し微笑みこちらを見ていた。

お母さんは少し涙目で「ごめんね」と言った。

お姉ちゃんは「圭、久しぶり」と言って手を振ってくれた。

「会いたかった…会いたかったよ…」

お母さんのその一言で圭は走り出していた。


7年前、家族で祖母の家に向かっているときに悲劇は起きた。

居眠り運転していたトラックと正面衝突したあの日。

お父さんは圧迫され即死。お母さんは頭から血を流し意識を失っていた。

お姉ちゃんは…

「大丈夫…?…そう、圭が無事でよかった」

そう言って目を瞑りもう覚ますことはなかった。


「感動の再会だ。ここは一旦、僕は引いておこうかな」

そう言って水木はすっと消えた。


圭はずっと泣いていた。

7年経っても忘れることはなかったこの感覚。

二度と会えないと思っていた家族。

ここから出たくない。そう思ってしまった。


「さて…この体もそろそろ限界だな」

水木は暗闇の中でそう言った。

「この体も、もう50年使っていたとはな。まぁ我もこれでまた新しく生まれ変わることができる。そろそろ力を失いかけてたからちょうどいい」

カァー カァー

烏の鳴き声が暗闇に響く。

「まぁ待て、お前たち。新しい体になったらこの体はやるし、また旅に出ようではないか」

そして水木はニヤッと笑った。

「さぁ。優希、彰良、澪。君たちは助けに来れるかな?この遊びは何度やっても面白い。なぁ、お前たち」


烏の鳴き声が大きくなる。


優希は目を覚ました。

いや、優希だけではない。

彰良も澪も目を覚ました。

汗をびっしょりかいていたが熱帯夜だからというわけではないことにはすぐ気づいた。

夏なのに寒気がすごい。

優希は気持ちを落ち着かせるためキッチンへ行き、水を飲んだ。


すでに深夜1時を過ぎていた。

そんな夏の夜。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る