其の四、音楽と経営

 まあ、でも、やつは始めから面白いやつで、お笑いをする為に生まれてきたような傑物だから悔しくもなかった。当然だって。だから養成所を卒業するまでは友達として付き合った。色々、語り合った。だから養成所を途中で止める事はなかった。


 でも、僕のそれは、所詮、素人に毛が生えたレベルでしかない、お笑いの才能だ。


 だから、


 卒業するのと同時に就職した。


 お笑いを、すっぱりと諦めた。


 もう夢を追うのは止めようと思った。どうせ珍しい才能だとかいっても器用貧乏な才能だとか、そういったもんだろうと結論づけた。いや、むしろ、生まれる前のヘンテコな記憶だから妄想だと片付けてしまった。そして、働いた。普通に。必死に。


 息抜きにと始めたギターが面白くなりバンドにも入ったけど……。


 そこでもボーカルの女の子の圧倒的な才能に気後れしちゃってさ。


 でも何故かライバル視されてなんて事もあった。


 それでも、所詮、ギターは趣味と割り切っていて、いくらかしてバンドを抜けた。


 そして働き続けた。


 慎ましく生きて幸せを感じる才能も、そこそこあったのか、仕事先で妻と出会って結婚した。子供もできて人並みでも幸福に生きた。そして、子供が大きくなって手を離れた時、思った。もう一度だけ夢を追ってみてもいいんじゃないかってさ。


 そう思ったら、なぜだか居ても立ってもいられなくなり何をしようかって悩んだ。


 必死で悩んだ挙げ句、ようやく見つけたものは、


 独立、起業だった。


 アプリを創る会社を興そうと、心に決めたんだ。


 経営の才能は、どうだろうか? と考えたんだ。


 そして、起業した。ずっと勤めてた会社の同僚を誘ってさ。同僚には経営の才能があったから彼と一緒にならば安心だとね。でね。僕には経営の才能も、そこそこあったのか、会社は瞬く間に大きくなった。もちろん元同僚の力も凄かったし……。


 そして元同僚は相棒になった。


 ビジネスパートナーってやつ。


 でも、ある時、例によって思ってしまったんだ。


 会社が、ここまで大きくなったのは相棒のおかげでしかない。僕は単にサポートしてきただけなんじゃないのか? ってさ。その話を彼にしたら、笑って、こう答えた。そのサポートこそが重要なんじゃないか、俺はお前がいないとダメだぞって。


 でも、どうしても僕は納得できなかった。自分の不甲斐なさにさ。


 むしろ、サポートがないとダメだぞ、とサポートだと認められた事が悲しかった。

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