其の三、溢れる才能
養成所での初日、オドオドとした、かなりヤバげな挙動不審な男と一緒になった。
いや、むしろ、その挙動不審さこそが、お笑いには、必要不可欠。
直感的に、そう感じてしまう。
だって、彼の全身はカクカクとした動きでロボットのようで、なぜか手足の先端に近い部分はウニョウニョとタコのように蠢く。もはや、この動きは笑いを取るべくして生まれたものだとさえ思えた。だから、この男とコンビを組もうと考えた。
「ようッ」
右手をあげてから軽いノリで彼へと話しかける。
「な、な、なに? 僕によう?」
どもり具合も、また面白いぞ。
将来の天才芸人を見つけたッ!
と思った僕は、たたみかける。
「コンビを組まない? その動きといい、そのしゃべり方といい、まさに、お笑いをする為に生まれてきたような奴だと思う。少なくとも君に才能を見たッ!」
なんて言って、おだててみる。
今度は全身が軟体動物のようにうねって逆に先端部分がカクカク。
本当に、こいつは人間なのか?
やっぱり笑える。間違いなく天才だぞ、こいつ。
「ダメかい? 僕とのコンビ?」
もう一度だけ彼に聞いてみる。
恥ずかしいのか、彼は、うつむいてから応える。
「ご、ご、ごめん。僕、ピンでやりたいんだ。ピンじゃないとダメなんだ。このオドオドした性格を直したいからさ。コンビだったら、絶対、相方に甘えちゃう……」
理由を聞いて、まあ、真剣なんだろうと思うよ。
けど、笑えてくるのはなぜだ?
やっぱり、こいつは天才だと強く、そう思った。
そんな、お笑いをする為に生まれてきたような男とコンビは組めなかった。だから僕もピンでいくと決めた。コンビを組むんだったら、こいつしかいないとしか考えられなかったから。そして、やつと友達になった。で、不思議だったんだけど……、
僕にもお笑いの才能がそこそこあったのか始めは養成所の誰よりも人を笑わせた。
その時、
もしかしたら、僕の才能は、お笑いだったのか?
なんて、勘違いもしたもんさ。
……あの小説の時と一緒でさ。
結論から言えば、僕は、ただの器用貧乏だった。お笑いも、すぐに頭打ち。笑いがとれなくなったんだ。ただ僕が笑いをとっていた時期、例のカクカクでウニョウニョが、僕には負けたくないと言ってきた。そしてライバル認定されてしまった。
もちろん、すぐに抜かされてさ。やつは養成所で一番の笑いをとるようになった。
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