其の二、作家と芸人

 僕も小説を書いている事は誰にも言っていない。


 もちろん、この子にも。だって、しょせんは下手の横好きだから。


「うん。ちょっと恥ずかしいけど、書いているよ」


 と、お互いが小説を書いていた事実を明かした。


 その後、お互いの小説を見せ合って読み合った。


 そして、彼女の中に小説を書く才能が眠っている事に気づいた。それも普通のレベルなんかじゃなく化け物レベルの才能がだ。しかも、彼女、曰く、僕にも小説を書く才能があるとの事だった。ヤバげな才能が眠っている彼女に言われたんだ。


 嬉しくなって、僕の珍しい才能は、もしか小説を書く才能か? なんて思ったよ。


 だからってわけじゃないけど、……僕らは公募に挑戦してみようと盛り上がった。


 そして、


 僕らの初めて送った小説が、互いとも受賞した。


 また喜んだ。飛び上がって。やっぱり、僕の才能は小説を書くというものだったと勘違いもしたさ。そして、絶対に君には負けないぞ、なんて彼女からライバル認定もされた。けど、それが勘違いだったと分かるのに、さほど時間を要しなかった。


 つまり、


 始めのうちは、小説を書く技術の習得が、彼女よりも僕の方が早かっただけの話。


 すぐに彼女に追い抜かれてさ。


 僕は才能の限界を感じて小説を書けなくなった。


 僕の小説を書く才能は、花ひらかなかったんだ。


 そして、


 作家の道にも醒めてしまった。


 もちろん彼女は引き留めてくれた。けど、勝てないと悟ってしまっていたから逆に疎ましかった。だから高校生になって違う学校になると会う事もなくなった。自然と疎遠になっていった。でも、これでいい。相手は未来の大文豪だからと納得した。


 そして、高校生の時は、これといって打ち込むものもなくなり、普通に過ごした。


 多分、小学生の頃から、ずっと書いていた小説に限界を感じて止めてしまった事がトラウマになっていたんだろうね。なにもする気になれなかった。夢に対して空しさを感じていた。当然、帰宅部で家に帰れば、ゲーム三昧の日々を送ったわけさ。


 そんな僕だけど高校を卒業する時が迫ってきた。


 まだ働きたくない。そんな思いが頭をよぎった。


 ただし、


 ゲーム三昧が祟って大学に行けるような学力もなかった。そんな時、見かけた、芸人養成所の広告。うん。現実逃避だったんだろうね。柏手を打って、これだ、なんて思ったよ。そして、入所試験と面接を無事に突破。お笑い芸人の養成所に入った。

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