花ひらかせたい

星埜銀杏

其の一、記憶と妄想

 …――君は、とても珍しい才能を持っているね。


 是非とも花ひらかせて欲しい。


 それが、花ひらけば、きっと幸せになれるから。


 僕にはヘンテコな記憶がある。


 それは妄想とも言えるものだ。


 生まれる前の記憶。


 どこだろうか、上手く表現できない不可思議な抽象画的な空間で珍しい才能があると言われたんだ。もちろん、それが、どんな才能なのかは教えてくれなかった。むしろ、教えない方が、幸せになれるとでも言いたそうな笑顔で誤魔化されたんだ。


 それを言ったのは、誰だかは記憶が曖昧だけど。


 もちろん、生まれる前の記憶だから単なる妄想なのかもしれない。


 ただね。


 ハッキリと覚えている分、妄想と片付けるのも、なんだか悲しい。


 だから、


 僕は僕が生きている間に、その珍しい才能とやらを見つけて花ひらかせたかった。


 あ、自己紹介が遅れちゃたね。


 僕は大川比呂〔おおかわ・ひろ〕。今まで生きて才能の片鱗も見られなかった男。


 そうなのだ。いまだに秘められた才能は花ひらいていないわけだ。


 お話の始まりは僕が中学生の頃までさかのぼる。


 ある日、スマホを、じっと見つめていた時……。


 公募ガイドONLINEのページを開いていた。


 そこは、文芸、写真などの公募情報を掲載しているサイト。珍しいところではネーミングなんて公募情報もある。小学校の頃から下手の横好きで小説モドキなんてものを書いていた、僕。そして、遂に意を決し、公募に挑戦しようと考えたわけだ。


 と、どこかから現れた謎の手によってスマホが、すっと奪われる。


 もしかして先生にバレたのか?


 と焦る。


 ウチの中学校はスマホの携帯は禁止だったから。


「あれれ、先生だと思ったのかね? あたしだよ」


 やっほ。


 同じクラスの女子。


「なんだよ、お前かよ。ビックリさせるなよ。てか、スマホ、返せ」


「一体、何を見ていたのかね? もしか、エロサイト? アハハ。あんたらしいわ」


 女の子は白い歯を魅せて笑う。


「てかさ。僕の顔を見て、いの一番でエロサイトとか言うな。変態顔に思われるだろうが。僕は、どう見ても人畜無害な凡人。エロサイトこそ、ほど遠いのが僕ッ!」


「まあ、そういうやつが、むっつりなんだけどね」


「うるさい。散れ散れ、この万年発情系女子がッ」


 そんな言葉も、どこ吹く風でスマホの画面をのぞき込む、女の子。


「およ?」


 どうやら公募情報が興味を引いたようで黙ってサイトを見続ける。


 いくらかの時、沈黙が僕らの間へと流れてくる。


「おおぅ」


 と、目を大きくさせる女の子。


「なるほど。こんなサイトがあったんだ。ふむむ。てか、あたし、実は小説を書いているのよ。もしかして、あんたも書いてたの? マジでかって感じなんだけど」

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