顛末

その後。

 俺は闘志に燃えた。

 何としてもあいつらを逮捕する。

 そうでなきゃ気が済まない。


 考えうる様々な手を講じ、アジト追求に全力を挙げた。

 時には尾行をつけたりもしたが、巻かれてアウト。

 なにか策を講じても、のらりくらりとかわされてしまった。


 更に始末の悪いことに・・・

 現金自体の回収もうまく進まなかった。

 案の定、海外銀行支店はそう簡単に情報を教えてくれなかったらしい。

 刑事さんの話によれば、銀行もグルである可能性も否定できないとのこと。




 俺の拠出した額は、すでに1000万円を超えていた。




 いつ頃からだろうか。

 太郎からの電話も、だんだん来なくなった。


 最初期は週一。

 そのうち二週間に一回くらい。

 だんだん少なくなって、実はもう最後の電話から3ヶ月以上経過していた。

 太郎はお金を返せたのだろうか・・・


 違う。そうじゃない。


 向こうから電話が来ない以上こちらからは手も足も出せない。

 これだけ長い間連絡が無いとなると、ついに感づかれたとでも考えるべきだろうか。

 よくわからないが、太郎からの連絡はそれっきり、今の今までない。




 ふと、確定申告の準備をしていたとき、1000万円をいい加減返して欲しくなった。

 刑事は”捜査費用から出す”等と言ったきり、連絡をとっていなかった。


 よし。電話で問い詰めてやろう。

 ここで問題が起こる。

 私は刑事さんに直接繋がる電話番号を知らなかった。


「あ・・・どうしよう」


 仕方がないので、とりあえず刑事さんが昔名乗った警察署の電話番号を調べてみた。


 黒電話の前に立ち、ダイヤルを回す。


「はい、こちら○×署です」

「あ、すみません、私、小山と申しますが・・・」

「はい?小山さん、ですか?」


 おかしいな。1000万円も出して協力してるのに・・・


「はい、そちらの特殊詐欺対策課の方に協力していた者なのですが・・・」

「特殊詐欺対策課?何ですか?その課は」

「え?」

「この署にはそんな課、置いてないのですが・・・」

「え、だって、・・・」


 私は言葉に詰まる。

 私は、あの刑事の名前を一度も聞かなかった。

 ”刑事さん”と呼べば事足りるから。

 刑事は警察手帳を持ってはいたが、私が直接中身を見たことは無かった。



 あぁ。終わった。俺は全てを悟り、その場にうなだれるように倒れ込む。


 そしてそっと受話器を戻す。


 悲しみと悔しさの混ざり合う複雑な心境のまま、目に溢れんばかりの涙を浮かべ、その日はそこから動くことが出来なかった。

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