追跡。

 あの日と同じ。

 銀行から諭吉を100人持ちだした。

 発信機の仕込まれたアタッシュケースを用意し、諭吉を入れる。

 ただし、今回は諭吉を入れた封筒にも小型発信機を仕込んだ。


 私の部屋でPC画面を覗き込む。

 これも前と同じ。


「この速さは・・・」

 電車だろう。これも同じ。


「あ、発信機が二手に分かれました」


 前回と違う。どうやら中身とケースは電車内で分かれたらしい。


「封筒の発信機を追います」


 すこしの間電車で移動した後、封筒は、ゆっくりどこかに向かっていた。

 アジトまでは徒歩なのだろうか。


「受け子の方はどうです?」

「前回とは違いますが、やはり郊外の住宅街に向かっているようです」


 そっちはまた確保して貰うとしよう。

 問題は指示役であろう現金を持ち逃げした奴の行方だ。


「どうですか封筒の方は」

「それがですね・・・」


 封筒の発信機は、しばらくの間動かなかった。座標から割り出した封筒の位置は、あろう事か海外銀行の支店だった。これでは現金の行方はわからないも同然だった。

 最悪監視カメラくらいなら見られるだろうが、追跡は無理とのこと。


 そして、もしも奴が封筒を持ち帰ってくれたら・・・なんていう淡い期待もあったが、当然無理。

 40分経っても動く気配が無いので、恐らくごみ箱にでも捨てたのだろう。


 受け子の方は逮捕されたが、結局現金の回数は出来ず。


 またしてもやられた。本当に狡猾な奴らだ。


 ところで、この手で得た金に税金はかかるのだろうか。

 毎年高額な納税をしている身からしたら、この上なく腹立たしい話だが。


 例によって、100万円が帰ってくるのには時間を要するとのこと。

 ああ、俺の諭吉さんが・・・


 いつか思い知らせてやる。


 窓の外は夕日で真っ赤に燃えていた。

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