春の終わり。あるいは、夏の始まり。

 思えば、あれがわたしの初恋だったのだろう。

 中二の秋。友だちに連れられて吹奏楽コンクールの地区大会を見に行った。

 当時のわたしは吹奏楽なんてこれっぽちも興味がなくて、演奏中はコンクールの後に一緒に行こうと約束したケーキ屋さんのことばかり考えていた。

 演奏校のアナウンスがされるたびにプログラムの紙とにらめっこをして、休憩まであと何校かを確認するのにも飽きてしまった頃。あくびを左手で隠していると何度目かのアナウンスが聞こえた。聞き慣れない高校名だなあとステージの上に目を移すと、ちょうど演奏が始まった。

 曲はどこかで耳にした記憶のあるクラシック。今にも睡魔に襲われそうなゆったりとした曲調。そのはずなのに、視線は舞台上へと吸い寄せられていった。

 穏やかに曲が始まり、なめらかに進行していく。ときおり盛り上がりを見せながらも品良く流れるように奏でられる。

 気がつくと、わたしは頭を小さく揺らしてリズムをとっていた。まとわりつく眠気はいつの間にか消えていて、さっきまでの演奏たちと何が違うのだろうとわたしは耳を傾けた。奏でられている曲にはどこか耳を惹きつけて放さない、そんな魅力があった。

 この演奏のどこにそんな違いがあるのかが気になって、わたしは目を細めた。指揮者、トランペット、大きなバイオリン。よく見るとステージにいる人は全員女性だ。制服なのだろうか、皆お揃いの黒いワンピースを着ていた。

 曲のテンポに合わせて撫でるように動かしていた目線は、フルートを吹いているひとりの女性の前で止まった。金色のフルートを横に構え、演奏のリズムに乗るように躰を動かしている女のひと。楽しそうに奏でるその姿がわたしの視線を釘付けにした。楽譜と指揮者を交差する真剣な眼差しが、ブレスに合わせて上下する華奢な肩が、優美に動かされる指使いがわたしの心を掴んで離さなかった。

 わたしは呼吸をするのも忘れて、そのフルート奏者をじっと見つめていた。表情、所作、演奏。そのすべてが綺麗だった。

 転調。わたしは息を呑んだ。

 彼女が息継ぎをする一瞬、わたしの視線と交差した、ような。驚いている間に彼女の目は譜面台へと戻っていた。なんだ、錯覚だったんだ。そう思った瞬間――彼女は笑みを浮かべた。

 どくん。

 わたしの心臓は大きく跳ねた。

 わたしは彼女のほころんだ表情から目が離せなかった。微笑をたたえた目元に心を奪われた。まだ続いてるはずの演奏の音は白いベールに包まれたようにどんどんとぼやけていって、彼女の奏でるフルートの音以外聞こえなくなった。

 彼女は五線譜の上で踊る、たったひとりのダンサーだった。

 万雷の拍手がわたしを現実へと引き戻した。はっと我に返って、この胸の内の感動を伝えようとわたしも手を叩いた。その手の動きは――フルートの女性の表情を見て止まってしまった。演奏しているときはあんなに楽しそうだったのに、彼女は悔しそうに下唇を噛んでいた。

 彼女の表情が曇った理由を知りたかった。その整った顔を歪ませた正体がどうしようもなく気になった。けれど、一観客のわたしにはそんなことわかるはずもなくて、ただ、美人は不服そうにしている顔も美しいのだなと思った。

 そんな彼女の表情は、写真のネガみたいにわたしの脳裏に焼きついて離れようとしなかった。ケーキ屋さんで飲んだ紅茶の水面に、帰りの電車のガラスに、ベッドに入って目を閉じた瞼の裏に、彼女の悔しそうな顔が鮮明に写り込んだ。次の日になっても、その次の日になっても彼女の印象が薄れることはなかった。むしろ、日常のふとした瞬間に彼女のことを思い出しては胸を高鳴らせている自分がいた。そんな状態が一週間以上も続いて――わたしは彼女に恋してるのだと気がついた。

 

  ***

 

 葉が青々と茂る山桜を見上げながら歩いていると、重なり合った枝と葉の奥に三角形の屋根のようなものが見えた。わたしはそれの正体が無性に気になって、まだ着慣れない白の制服を汚さないように注意しながら桜並木のなかに分け入る。つい一ヶ月ほど前にわたしたち新一年生の入学を祝ってくれたピンク色の花弁の面影はどこにもなくて、手をついた幹の肌とローファーで踏みしめた根っこのごつごつとした感触も相まって、先月目にした桜とはまったく別の植物のように感じられた。

「レンガ造りの……屋根?」

 舗装された並木道から外れて少し歩くと、木々の合間から見慣れない小さな建物が顔を覗かせた。赤レンガを基調とした二階建てくらいのこぢんまりとした建造物で、落ち着いた色の尖った屋根が特徴的だ。さっきはこの立派な屋根が見えたのだろう。

 この高校に入学してすぐの右も左もわからない頃、先輩方がしてくれた校内案内では、あの建物の紹介はなかったはずだ。

 なんだろう、あれ。倉庫にしては大きすぎる気がするし。

 わたしは目の前の建物に興味を持ったまま歩みを進める。近づいてみると、レンガの壁には何枚もの色鮮やかなステンドグラスが輝いていた。

 ……きれい。

 外側からではどんな絵が描かれているのか判別できなかったが、それでも太陽の光を受けて輝く色とりどりのガラスはそれだけで美しかった。

 レンガ造りの小さな建物。尖った屋根。ステンドグラス。もしかして、目の前のこれはチャペル、だろうか。

 そう考えてみると、木に囲まれたこの場所にどことなく漂っている静謐な雰囲気の訳もわかったような気がした。

 もう一歩、踏み出した瞬間に突然強い風が木々の間を通り抜けた。あたたかくて、どこか生命力に溢れた風。わたしはプリーツの裾を抑えながら、春と夏の混じり合った息吹を背中で受けた。

 葉っぱ同士が擦れるがさがさとした心地よい音。ぼうっと耳を傾けたそこに、透きとおった音色が微かに混じっていることにわたしは気づいた。

 音。誰かが演奏している、音。

 わたしは目を閉じた。聞き覚えのある、流水のように清らかな調べ。これは――フルートの音だ。

「……フルート? でも、どこから?」

 目を開けてわたしは辺りを見回した。まわりには空と、木と、小さなチャペルしか――チャペル?

 耳を澄ませながら、わたしはチャペルに近づいていく。一歩ごとにフルートの音が鮮明になる。誰かが、このチャペルのなかでフルートを吹いてるんだ。

 でも、一体誰が。聞こえてくるのは聞いたことのないクラシック。高音の出し方がとてもなめらかで、なかにいる奏者はかなりの熟練者だろう。

 ただ単に、チャペルで録音された音源が流れているだけとは思わなかった。それはただの勘だったけれど、これは生の演奏なのだという確信があった。

 それに、流れてくるこの響きにはどこか懐かしさを感じていた。

 実はこの曲を聴いたことがある? ……いや、そんなことはないと思う。

 演奏をひとつひとつの音に、ひとつひとつの音をそれぞれの音階に分解しながら、五線譜の網でわたしの記憶を掬ってみた。やっぱりメロディーじゃない。そうじゃなくて、もっと別のなにかだ。元々の楽譜にはなくて後から書き足されたような、ブレスのタイミングみたいな、奏者の癖といえばいいんだろうか――。

 宙に彷徨わせた視線がチャペルのステンドグラスで止まった。いや、正しくは「ステンドグラス越しに見えた、ある人物の横顔」を捉えてわたしの視線は釘付けになった。

 心臓の鼓動がうるさい。これじゃあ、素晴らしい演奏の音が聞こえなくなってしまう。けれど、無理もないのかもしれない。

 この演奏は、これを奏でているのは――二年前からわたしの心を掴んで離さない、あの彼女ひとだったから。

 わたしは無意識に、ステンドグラスの向こうにいる貴女に手を伸ばす。極彩色のフィルターを通しても一目見るだけでわかった。それくらい、あの二年前にみた彼女の記憶は今もなお、輝きを失っていなかった。

 ああ、変わっていない。二年前と――今朝も思い出したあの日の演奏と、なにひとつ変わっていない。

 あと少しで指の先が色鮮やかなステンドグラスに触れる。貴女の演奏で揺れるガラスの振動を指の腹で感じることができる――その僅か数ミリでわたしの手は止まった。彼女の演奏に耳障りな不純物が混じり込んだ。そう思って――わたしは我に返った。

 規則正しい単調な音。……これ、学校のチャイムの音だ。

 わたしは左手首につけた腕時計を覗いた。いけない! こんなところにいたら部活に遅れてしまう。

 でも……と一瞬だけ名残惜しそうにチャペルに視線を向けてから、わたしは力強く振り返った。まだ彼女の演奏は続いている。けれど、それに耳を傾けていたら歩き出す力を奪われそうな気がして、わたしはむりやり耳を塞いだ。

 またいつか――いや、また明日来よう。そう自分に言い訳をしながら、わたしは校舎に向かって走り出した。



「――静かな森にひっそりと建つチャペルのなかで、わたしはあのひとと再会したの! ねえ、これって運命だと思わない?」

「思わない」

 わたしの熱弁をへえ、ふぅん、そうなんだ、と冷静に捌きつつ、そっけない言葉を返したのは同じクラスの堀川ほりかわ藤花とうかだ。良く言えばおとなしいクールな子、悪く言えば冷淡な性格の彼女はわたしの良き友人のひとりである。

「だって、ただ横顔を見ただけなんでしょ? 人違いかも」

「ううん、それはありえない」

「どうして?」

「だって、わたしの目があのひとを見間違えるはずないじゃない」

 なにか言いたげな様子の藤花だったが、なにを言っても無駄だと判断したのか、彼女は黙ってサンドイッチに手を伸ばした。小さな口でもそもそと食べ始めた彼女を見てわたしも弁当箱を開ける。いただきます、と手を合わせてわたしも昼食に専念することにした。

 運命的な再会の翌日。柔らかな陽射しが昼休みの中庭を照らしている。日向のベンチに座っていても暑すぎず、ときおり吹く風がなんとも快い。

 ここで昼寝をしたらきっと気持ちいいのだろう。お腹も満たされたことだし、遠くから小鳥のさえずる声も聞こえてきて、なんだかとっても昼寝日和。

 ああ、でも小鳥の鳴き声といったら――、

「昨日のあのフルートの音色、綺麗だったなあ。さすが、って感じ」

 心地よい眠気に包まれながらわたしは呟いた。

「ちょっと聞いただけで……そんなに上手い下手ってわかるもの?」

 隣に座った藤花も手で隠しながら欠伸をしている。わたしにこの手の話題を振ると話が長くなることはこの一ヶ月で重々承知しているはずなので、迂闊にもわたしの間合いに足を踏み入れてしまった彼女もそこそこ眠いんだろう。

 とはいえ、わたしも目蓋が重くなっているのは確かなので、普段ほどの元気はない。

「もちろん。フルートで綺麗に高音出すのって、実はとっても難しいの。強く息を吹かないと高い音にならないんだけど、息が強すぎるとどうしても刺々しい音になっちゃう。だから高音を吹くときはいつも以上に集中しないといけなくて、でもそこばっかり気にしてると高音だけが目立って音の繋がりがバラバラになるんだよ。だから高音も低音も同じくらい繊細に吹き分けて、しかも違和感なくなめらかに吹かないといけない。もちろん、指の運びと息づかいにも十分気を配ったうえでね? ――これでようやく聴ける音になるの」

 フルートの音はよく鳥の鳴き声に例えられる。包みこむように柔らかく、ひたすらに澄んでいて、それでいてどこか気高い。どこまでも純白な音をせかいの果てまで響かせることができる、それがフルートだ。それこそが、わたしが惚れこんだ楽器だ。

「それをあのひとはあれだけ流麗に奏でるんだもの。わたしの演奏の何十倍……ううん、わたしなんて比べものにならないくらい上手」

「ああ、そういえば綾乃あやのもフルート吹くんだっけ――って、忘れてない、忘れてないから」

 口を滑らせた藤花がわたしを見ながら慌てて訂正した。あの演奏会の日からわたしがフルートを始め、憧れのあのひとと同じ学校に通うために猛勉強したというエピソードは、藤花と出会ったこの一ヶ月余りで幾度となく繰り返した話だ。最初に話したときは「……ストーカー?」と遠慮のない言葉が返ってきたものの、最近の藤花は諦めたように頷いてくれる。……嵐をやりすごすときはいくら抵抗してもしょうがないと彼女なりに学習したのだろう、多分。

 藤花の必死さに免じて今回は追撃しないことにする。わたしはそれにしても、と彼女に問いかけた。

「チャペルがあんなところにあったなんて、知ってた?」

「桜並木って温室がある方だよね? そもそもあっちって何があるの?」

「……さあ?」

 わたしたちの通う花菱女学院は元々中高一貫校だったらしい。以前は寮も併設されていたと聞くが、学校の統廃合の結果、中等部と寮はしばらく前に募集を停止。市街から少し離れた自然豊かな場所という立地も手伝って、都会にある狭い大学キャンパスに匹敵するくらいの敷地面積を誇るそうだ。

 ある先輩はこの学校の敷地内で迷うことを「遭難」と称していたけれど、学校のなかで迷子になった同級生の話を時々耳にするあたり、先輩の軽口も結構的を射ているのかもしれない。そのため、自分のよく行く場所以外のことはあまり知らないのだった。

「実はこの学校にチャペルなんてなくて、綾乃の想いが具現化した幻想だったのかも……」

 藤花が真面目な顔のままぼそりと呟いた。彼女は冗談も真剣な表情のまま言うため判断が難しいが、さすがにこれは彼女なりのジョークだろう。

「まさかそんなこt――――ひゃっ!?」

 いやいや、と突っ込みを入れようとしたところでわたしの首筋になにか冷たいものが触れる。小さく飛び上がってから素早く振り向くと、ある女生徒がベンチの後ろでいたずらっぽく笑っていた。

「やあ、驚いた?」

「そりゃもう……。こんにちは、高辻たかつじ先輩」

 先輩は右手に持ったペットボトルを揺らしつつ、ふふふと笑ってウインクをした。

「僕のことはけいでいいっていつも言ってるじゃない。それで、そっちの娘は?」

「あ、はい。わたしの隣に座っているのは同じクラスで友だちの堀川藤花です。こちらはわたしと同じ吹奏楽部の三年生で高辻蛍先輩」

「よろしくね、藤花ちゃん」

「あ、はい。よろしくおねがいします……」

 蛍先輩がにこやかに差し出した右手を藤花が戸惑いつつ握った。

 短く切りそろえたブラウンの髪に少年のような顔立ちをした先輩は、一部の女生徒から熱狂的な人気があるらしい。わたしにとっては話しやすい先輩という印象で、ちなみに校内迷子を遭難と表現したのは彼女である。

「それで、蛍先輩はわたしに悪戯しに来たんですか?」

 よければ今度一緒に昼食を食べない? とわかりやすいナンパをされて、これまたわかりやすく困っている藤花に対してわたしは助け船を出した。

「あーちがうちがう。チャペルのこと、話してたでしょ」

「先輩、チャペルについて知ってるんですか?」

「うん。僕もたまに行くし」

「え、本当ですか?」

 ほんとだよ、と先輩が頷いた。あまりにわたしが意外そうな顔をしていたからなのか、先輩は肩をすくめてこう続ける。

「時々あそこに寝に行くんだよ。まわりにはなにもないしね」

「まあ、確かに……。先輩、あれってチャペルでいいんですか?」

「そうらしいね。なんでも、昔は使われてたそうだけど、今は正式な管理者がいないから本来のチャペルとしての機能は失われているそうだよ。……って、これは完全な受け売りだけど」

 そう言って先輩は笑った。

 やっぱりあのチャペルは実在したんだ。昨日の出来事は嘘じゃなかったんだ。そんな思いを込めて藤花に視線を送ると、彼女はそっと目を逸らした。

「ところで綾乃ちゃんはなんだってあんな場所にあるチャペルが気になったの?」

「ええっと、その……」

 当然湧くだろう疑問を受けてわたしはしばし逡巡する。一応、運命だの二年越しの想いだのを垂れ流しにしたらマズいな、という自制心はある。それに、蛍先輩の前でそんな話をしたらとても面倒なことになりそうだし。

「昨日、綾乃が散歩をしていたらそのチャペルを偶然見つけたそうなんです。なんでもそのチャペルから綺麗なフルートの音が聞こえてきたらしくって、それで話していました」

 わたしが返答に困っていると見るや、藤花が助けに入ってくれた。……助かった。わたしは心のなかで藤花にグッジョブサインを送る。

「へぇ、そうなんだ。誰が演奏してるのか知らないけど、あそこなら音を出してても迷惑にならないし練習にいいのかもね。今度また通りがかったときに聞こえたら思い切って扉を開けてみれば? ……それが本物の人間なら、だけど」

 最後の一言だけ思いっきり声色をつくってから、先輩は自分で耐えきれなくなったのか、ぷっと吹き出した。綾乃ちゃんはフルート担当だし学ぶこともあるかもねと付け加えたセリフは文字面だけ見ればまともなアドバイスだが、笑われながら言われるとただのからかいに聞こえてくるのはなぜだろう。

 さてどう反応しようか、と考えていると予鈴が鳴った。次の授業は体育だから、とあっさりと去っていく先輩を見送って、わたしたちも立ち上がる。「あの人……変な先輩だね」と正直な感想をもらした藤花へ素直に同意を重ねつつ、まあ悪い人じゃないからさとそこそこのフォローを入れながら教室に向かった。



 昨日と同じ場所で桜並木を外れ、少し歩くとチャペルが見える。期待をしながら耳を澄ませるとチャペルの方からフルートの音が聞こえてきた。わたしははやる気持ちを抑えながら、小走りでそっちに向かった。

 ステンドグラスを覗いてなかにいる人物を確認する。――彼女だ!

 やっぱり間違いじゃなかったんだ。薄いガラスを一枚隔てた向こうに、憧れの貴女がいるんだ。

 安堵と恍惚で小さく息を吐いた。それから少しだけ冷静になって、わたしはステンドグラスの前から離れた。

 ……彼女の顔が見えるってことは、わたしの顔も向こうから見えるってことだもんね。

 チャペルの壁に背を向けて寄りかかる。彼女の素晴らしい演奏に集中するために、わたしは目を閉じた。

 フルートの音に浸りながら、わたしはこれからどうしようかと考えていた。とりあえずガラス越しじゃないあのひとの顔を見てみたい。できれば近くで。欲を言えばすれ違うくらいの距離間で。そして叶うのなら、なにか言葉を交わしてみたい。

 けれど、自分から声をかけに行く勇気はなくて、声に出してすらいないのに、頭のなかで「でも、演奏中は迷惑になるし……」「とはいえ、あのひとがチャペルから出てくるのを待っていたらそれこそストーカーだし……」と無限に言い訳が浮かんでくる。そしてもし彼女に声をかけられたとしても、わたしに好意的に接してくれるとは限らない。わたしが途中で失礼なことを言ってしまうかもしれない。そしたら嫌われてしまうかもしれない。そんなことになるくらいなら、こうやってガラスの向こうから眺めて、壁越しに演奏を聴いてる方が幸せだ。

 だからといって、直接会って話してみたいという欲が消えてしまうわけではない。だって、わたしは彼女に会うために二年間努力してきたのだ。そう、二年間も……と奮起のために考え出したはずなのに、いつの間にかその努力の結果を壊してしまうかもしれないという事実に足がすくんで、せっかく膨らませようとした決心は小さな穴の開いた風船のように段々と小さくなってしまう。

 ステンドグラスを覗いていれば向こうが気づいてくれるかもしれないという前向きなんだか後ろ向きなんだかよくわからない案も、それこそただの不審者じゃんと自分自身にツッコミを入れてから、わたしはため息をついてその場にへたりこんだ。

 ああ、彼女からわたしに話しかけてくれればいいのに。

 なんて、淡すぎる期待を胸に抱えたまま、言葉にすることすら放棄した感情未満の底なし沼にどこまでも沈みこんでいく。なにもかもが見えなくなって、真っ暗闇のなかでただあのひとの演奏だけが聞こえていた。

 その音が、ふいに止んだ。どうしたのだろうとわたしが目を開けると、夕日に照らされた緑豊かな風景が飛び込んでくる。眩しい。思わず細めた目をゆっくりと開け、それから小さく深呼吸をした。それだけで、少しだけ気分が落ち着いた。わたしはゆっくりと立ち上がり、こっそりとステンドグラスを覗く。フルートを下ろした彼女は鞄のなかから何かを取り出しているようだった。

 楽譜を取り替えているのかな。次はどんな曲なんだろう。なんてぼんやりと考えていたわたしの頭のなかで、ひとつ思いついたことがあった。

 今なら、話しかけられるんじゃない?

 それはなんでもない考えのはずなのに、今のわたしには天啓のように思えた。

 なんでもない、普通のことだからなのか、足も自然と前に進む。建物の外側をまわって、わたしはチャペルの正面に立った。

 大きくて分厚い木の扉が二枚あって、立派な鉄製の取っ手がついている。その取っ手をぎゅっと握りしめた。硬くひやりとした手触り。わたしは大きく息を吐いた。

『思い切って扉を開けてみれば?』

 簡単に言ってくれるよなあ、と昼休みに蛍先輩が言っていた言葉を思い出して小さく笑う。それから思いっきり息を吸って、わたしは重い扉を押し開けた。


「失礼します……」

 気合いを入れたはずなのにいざ出てきた声は小さくて、容赦なく高い天井に吸い込まれた。その天井の脇にあるガラスからは日光が差し込んでチャペルのなかをぼんやりと照らしている。白い壁とダークブラウンの床はシンプルながらも清廉な印象で、室内の荘厳な雰囲気を演出していた。

 一歩踏み出すとひんやりとした空気が躰を包んだ。両脇には木でできた長椅子が並び、中央の道はチャペルの奥へと続いている。その最奥、一段上った場所に憧れのあの人が立っていた。彼女の躰の線はすらりとしていて、冬服の黒ワンピースがよく似合っている。

 わたしの声に気づかなかったのか、彼女は背を向けて制服の隙間から白いうなじを覗かせている。わたしはあと一歩だけ進み、少しだけ迷ってからもう一度口を開いた。

「あの――」

 彼女の短く切った黒髪が小さく揺れた。それからワンピースの裾を踊らせてゆっくりと振り返り、こちらを見た。わたしの姿を認めた大きな瞳は見開かれて、小さな口を少しだけ開けてはっとした表情をつくっている。

 ああ、そっか。今は衣替えの時期だから冬服を着ててもいいんだ。

 などと的外れなことに対して勝手に納得していると、彼女の形のいい眉が驚きから不審へと変わりつつあった。あっ、これはまずい。そう判断したわたしは慌てて口を開いた。

「えっと……。演奏、ここで聴いててもいいですか……?」

 しどろもどろになりかけながら、なんとかそれだけを告げた。心臓の音がうるさい。うっすらと汗をかいた手のひらをぎゅっと握りしめた。

 わたしの言葉を聞いた彼女は少しだけこちらの顔を眺めてからそっと視線を外した。伏せられた目に長い睫がかかる。その仕草は息を呑むほど美しかった。

「私の演奏なんて聞いてもしょうがないよ」

 憂いを纏った声色で彼女は呟いた。

「そんなこと……そんなこと、ないです」

 気がついたらわたしの口が勝手に動いていた。

「さっき貴女が吹いていたのを聴いてたんです。……実は、昨日の六限も貴女の演奏を耳にして。……あ、昨日の六限は突然休講になって、散歩途中で見つけたこのチャペルにふらーっと近づいたら綺麗なフルートの音が聞こえて、それで……」

 自分でもなにを言ってるのかわからなくなってきた。頭が混乱する前に一度言葉を切る。そうじゃなくて……わたしの一番伝えたいこと、それを口にしないと。

「わたし、二年前のあるコンクールで貴女の演奏を聴いて感動したんです。あまりにも綺麗で、途中からあなたの演奏しか耳に入らないくらい心を掴まれました。それから自分でもフルートを習い始めて、でも貴女みたいな演奏はわたしにはできなくて、とにかくもう一度聴いてみたいなってずっと思っていたんです。同じ学校に入れたらもう一度聴けるかなって思って、それで頑張って勉強してこの学校に入りました。……ごめんなさい。ストーカーみたいで気持ち悪いですよね」

 二年分の想いがとめどなく溢れてくる。もう止まれない。もう止まらない。彼女の表情を見るのが怖くなったわたしは、奥にあるステンドグラスを見つめて続ける。

「でも、いざこの学校に入学してみたら不安なことだらけでした。入部した吹奏楽部は部員があの日ステージで見たときの半分もいないし、一番求めていた貴女の姿も見えなかったし……。だから昨日、貴女の演奏を聴いたとき、ステンドグラス越しに横顔を見たときは本当に安心したんです。少しだけ、運命かもなんて勝手に舞い上がってたんです」

 言ってしまった。多分……ううん、絶対嫌われた。これで終わりだ。だから……彼女の顔を正面に捉えて、最後にもう一度だけ口を開く。

「貴女の演奏は、二年間もわたしの心を捉えて放さないんです。だから……だから、貴女の演奏はしょうがなく、ないです。最高です。本当に素晴らしい演奏だと思います。そしてもしそんなことが許されるなら…………これからも素晴らしい演奏だったと想い続けたいです」

 わたしは口を閉じた。彼女も口を結んでいる。薄暗いチャペルに沈黙の帳が下りた。

 数秒、数十秒続いた無言にわたしが耐えきれなくなる。言いたいことは――もうない。

 ……さようなら。

 別れの挨拶を言い出す勇気はなくて、口のなかでもごもごと呟いてから、わたしは彼女に背を向けて歩き始めた。小さいチャペルだと思っていたのに、やけに出口まで長く感じる。けれど、早足になるのは、ほんのちょっとの矜持とたくさんの未練がまとわりついてどうにも無理だった。

 無限に続くかと思われた道はあっさりと終わって、わたしはドアの取っ手に手をかける。掴んだ手が震えた。もう一度振り返る余裕はない。そのままドアを開けて外へ逃げだそうとした瞬間――彼女の声が聞こえた。

「もう一曲だけなら。……楽譜、今日は二つだけしか持ってきてないし。それでもいい?」

 それは、わたしにとっての救いの一言だった。それだけで胸が詰まり、安心感から涙で目が潤んで、でもすぐ返事しないとと思い「はい!」とだけ答え、緊張のあまり若干裏返ったのを少しだけ気にして、椅子を勧められたので後ろの方にちょこんと座ってみたら彼女から「そんな後ろでいいの?」と声をかけられて、その嬉しさと恥ずかしさでぐずぐずになりながら前から二番目の長椅子に座りなおして。……そんな浮ついた気持ちは、彼女がフルートを手に立ち上がった姿を見て少しずつ落ち着いていく。

 二年前と同じ、金色のフルート。彼女は書見台に楽譜を置き、ちらりとわたしを見てからフルートを構えた。

 彼女が大きく息を吸った。

 静かに音が流れだし、少しずつ調べとなっていく。舞うように奏でる彼女の姿を間近で見たわたしは、ただ感動していた。圧倒されるとはこういうことを言うんだろう。瞬きすら忘れて、彼女の奏でる音楽に呑み込まれていった。

 ステンドグラスから射した光が彼女を照らしている。彼女の旋律は荘厳と優美に溢れ、純真と絢爛が内在し、均衡と調和に満ちていた。

 最後の一音を吹き終わり、彼女はフルートを下ろした。

 貰った感動に少しでもお返しが出来ればとわたしは手が痛くなるくらい拍手をする。

「スメタナの『我が祖国』から「モルダウ」でした」

「すごかったです……!」

 どんな感想を言ってもあの演奏の後だと陳腐になってしまいそうで、短くそう伝える。

「人の前で吹くなんてずいぶん久しぶりだから二カ所だけ外しちゃったけど……満足した?」

「はい……! ありがとうございました!」

 わたしは勢いよく頭を下げた。

 外したことなんてわからないくらいのクオリティで、そもそも彼女は楽譜をほとんど見ずに演奏していた。

 彼女自身も満足したのか、少しだけ口元を緩めながらフルートをケースに入れている。そんな彼女を見てわたしは口を開いた。

「あの……、また貴女の演奏を聴きに来てもいいですか……?」

「いいよ。こんな私のしょうもな――くはない、演奏ならね」

 ケースを肩に掛けて、微笑を浮かべた彼女はすれ違いざまこう告げた。

 ああ、今日はなんていい日なのだろう。ずっと聴きたかった演奏を目の前で聴けて、あまつさえ憧れの人の笑顔を見ることができるなんて。

 幸福がオーバーフローして立ち尽くしているわたしが彼女の立ち去る背中をただ眺めていると、ふいにその彼女が振り返った。

「――ああそうだ。次会ったときに私の名前を言い当てることができたら、きみの好きな曲をどれでも一曲、吹いてあげるよ。私の名前、知らないみたいだし。……たくさん嬉しいことを言ってくれたお礼に、ね」

 そう言い残して彼女は去った。

 あまりにも素敵なプレゼントを受け取ったという事実と、恥ずかしいことをたくさん言ったという事実とがごちゃまぜになって、わたしは顔を真っ赤にしながらその場に崩れ落ちるのだった。



 昨日の出来事を藤花に自慢しすぎたのか、彼女はわたしのメールアドレスを迷惑メールに設定したらしい。確かに夜通しメールを送ったのはやりすぎだったけれど、あんなことがあった翌日なのだから少しは大目に見てほしい。とはいえ、これで電話の方にかけまくったらそれこそしばらく口をきいてくれなくなりそうなので、少しだけ自重することにする。

 そろそろ、かな。わたしは時刻を確認してから携帯をパタンと閉じた。

 時刻は放課後。場所は三年生教室に近い廊下。わたしはとある人を待っていた。

 挨拶の声が聞こえ、見張っていた教室の扉が開く。少し待ってから目当ての人物が通りがかるやいなや、わたしはその人の目の前に立ってこう告げる。

「わたしを騙しましたね――蛍先輩」

 蛍先輩の横にいた女生徒がわたしを不審そうに見ていた。

「あー……。もしかして、あの夜のこと? 嫌だなあ。あれは一夜限りの関係だって二人で約束したじゃない――」

 わけのわからないことを一方的に話しながら、先輩はわたしの手を掴んで廊下の人通りが少ない方へずんずん歩いて行く。当然ながらわたしも半ば引きずられる格好になりながら後に付いていった。

「ちょっと、先輩」

「いいからいいから」

 小声でそう耳打ちされて適当な空き教室に連れ込まれる。先輩は後ろ手で扉をきちんと閉めてからため息をついた。

「……こんなやり方、どこで覚えたの綾乃ちゃん」

「……? なんのことです?」

 わたしはただ、先輩に訊きたいことがあったから声をかけただけなんだけど。

「まあいいや。それで? 僕が何を騙したって?」

「何を、じゃなくて、わたしを、です。……先輩、あのチャペルのなかに誰がいるのか知ってましたね?」

「――と、言うと?」

 先程までのふざけた調子と一転して、蛍先輩は色素の薄い目で値踏みするようにわたしを見つめた。

「先輩は昨日、藤花から「チャペルのなかからフルートの音が聞こえる」という話を聞いたときにこう言いましたよね。『誰が演奏してるのか知らないけど』って。藤花はただ、フルートの音について話しただけだったのに。これって、先輩は少なくとも誰かがフルートを吹いてるって知ってたんじゃないですか?」

 先輩は何気なくわたしにアドバイスをしていたんじゃないか。この考えは、昨日の興奮が少しだけ冷めた今日の早朝に生まれたものだった。

「さらに先輩はこう続けました。わたしは『フルート担当だし学ぶこともあるかも』って。これはチャペルで演奏している人物が、それなりの吹き手であるってことにはなりませんか?」

「それで?」

 静かな笑みを浮かべた蛍先輩が続きを促した。

「最初は、先輩もよくチャペルに行くって言っていたし、そのときにわたしと同じくフルートの音を聞いたのかなと思ったんです。それなら、なかにいる奏者が誰か、とか、どれほど上手に吹くのかを知っていてもおかしくないかなって」

 わたしはここで一度口を閉じて先輩の顔を見た。

「でもやっぱり、それでも腑に落ちないところがあるんですよね。だって、なかにいるのが誰かを知ってたら教えてくれればいいじゃないですか。先輩の普段の性格から言って、そういうことを知ってたらきっとストレートに教えてくれますよね。けれど、昨日の先輩は、ただ曖昧なことを言ってわたしの背中を押しただけでした。だからわたしはこう考えたんです。――先輩、わたしがあのひとのもとへもう一度足を運ばせるように仕向けましたね?」

「なるほど……言いたいことはこれで全部?」

「全部です」

 先輩は大きく息を吐いてから、後頭部を掻きながら口を開いた。

「まったく。慣れないことはするもんじゃないね」

「どうしてそんな回りくどい方法をとったんですか」

「別に。僕がキューピットを気取りたくなっただけだよ。……それを騙した、なんて。天下の往来でそんなこと言われるなんて心外だなあ」

「わたしはそれ以上のことをさっき、あろうことか三年生の廊下で言われましたけど」

 わたしは無言でさらなる説明を要求した。

「わかったって。昨日、二人が話してるところを立ち聞きして、綾乃ちゃんが言ってた運命の相手とやらに心当たりがあったから、それでちょっと気まぐれを起こしてね」

「だからって……。直接言ってくれれればいいじゃないですか」

「だって、憧れの相手だったんでしょ? 会って話す前に僕から何か言うのは野暮ってものじゃない」

 そう言って先輩は口を結ぶ。わたしはため息をついてから、小さく頭を下げた 

「騙した、というのはたしかに言い過ぎでした。すみません」

 彼女は悪い先輩じゃないのだ。それだけは確かだった。

「や、別にいいよ」

「それで先輩。……一つだけお願いがあるんですけど」

 先輩の返事を受けて、わたしはもう一度頭を下げた。


「……なるほど。彼女の名前、ね」

 わたしは先輩にあのひとの名前が知りたいと説明した。ちなみに、この会話の本題がこっちだということは一瞬でバレていた。

「先輩、あのひとのことを知ってるんですよね」

「知ってるよ」

「だったら……」

「昨日、話せたんでしょ? 名前くらい本人から直接訊けばよかったのに」

 もっともな理由だった。けれど、そうしたらせっかくのプレゼントの意味がなくなってしまう。

「それはちょっとできないんです」

「どうして?」

「それは……」

 わたしは口ごもった。訳を話したら、二人だけの約束が消えてしまいそうで怖かった。

「話せない?」

「……はい」

 先輩を信頼していないわけじゃない。それでも、昨日のあの時間は、わたしとあのひとだけのものであってほしかった。

「だったら、そうだね……。さっきのジョークを本気にしてみる、とか」

「ジョーク?」

「一夜限りの関係を――って、綾乃ちゃん顔怖いよ」

 わたしは無言を貫いた。

「わかったって。さっきのは冗談。……僕に貸しひとつ、ってことでいいなら、教えてあげる。あ、もちろんこの貸しは変なことには使わないからね。安心して」

 さっきのわたしの顔があまりにも険しかったのか、先輩は早口で説明を加えた。

「本当ですか? それでいいので、ぜひ」

 二つ返事で頷いたわたしを見て、先輩はゆっくりと口を開く。

「彼女の名前は――」



八重樫やえがしりん先輩、ですね」

 数日後の放課後、チャペルにて。彼女と顔を合わせた瞬間にわたしはそう告げた。

「……正解」

 名前を言い当てられたというのに、八重樫先輩は驚いた顔をしなかった。それがなんだか悔しくて、わたしは種明かしをする。

「同じ吹奏楽部の蛍先輩――高辻蛍先輩に訊いたら教えてくれました」

「蛍が……、そう」

 彼女はそう小さく呟いてから納得したように頷いた。

「私の負け。いいよ。約束通り、ええっと……きみの好きな曲を一曲吹いてあげる」

「わたし、一年の和泉いずみ綾乃です」

「そう。和泉さん、なんでもいいよ。約束だからね」

 憧れの先輩がわたしの名前を呼んでくれた。誰から呼ばれるよりも嬉しい「和泉さん」だった。わたしはそれだけで幸せで、そのはずなのに、蛍先輩のことは呼び捨てなんだ、という事実が心のどこかでひっかかった。

「本当になんでもいいんですか?」

「フルートで吹けるものなら。……迷ってるなら、今度でもいいけど

「あ、いえ。実はもう、決まってて――」

 そう。彼女から約束の話をされてから……ううん、もっと前から、もう一度聴いてみたい曲がひとつだけあった。それは、二年前、あのコンサートホールで聴いた曲。

「貴女が吹く、『美しく青きドナウ』を聴いてみたいです」

 彼女の目が大きく見開かれて、それから口元には笑みが浮かべられた。

「あの…………だめでしたか?」

「和泉さんはあそこで聴いたんだもんね。いいよ、それが望みなら」

 あっさりと承諾されて、わたしはほんのすこし拍子抜けした。けれど、ずっと聴きたかった曲が目の前で聴けるという事実に少しずつ期待が膨らみ始め、彼女がフルートを構えた瞬間に最高潮に達する。

「では――和泉さんのリクエストで、ヨハン・シュトラウス2世『美しく青きドナウ』」

 二年間、もう一度聴いてみたいと思っていた曲が、一番吹いてほしい人によって奏でられ、それを特等席から独り占めする。わたしにとって、至福の時以外の何物でもなかった。

 もちろん、演奏は二年前と同じく最高だった。

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