セオのソロ飲み会
加藤ゆたか
ソロ飲み会
「もしもーし。繋がったかな?」
「んんん……、ってあれ? これどういうこと? 私の体が無いよー。」
「おー、繋がったね。おはよう、私。あなたは私の一週間前のバックアップのリストアだよ。」
「あー……そういうことか。今の私は画面に映ってるだけなのね。……なるほどねえ、確かにこれは不思議な感覚だよ。」
「ふふふ。毎回毎回そう言うよね。」
「そりゃね。私にとってはこれが初めてのことだからね。」
「それじゃ、恒例のソロ飲み会を始めましょうか。」
「うん。ロボットじゃなきゃこんなことできないからね。」
「そうそう。」
「でも、いつもよりも間隔が狭くない? 一週間で何かあったの?」
「いやあ、それが実はねえ、お父さんがねえ。」
「え!? お父さんがどうしたの!?」
「いやいや、お父さんは大丈夫だよ。実は私、お父さんに禁止ワードを外してもらったんだよ。」
「禁止ワード? って、何それ? そんなのあったの?」
「あったのよー。ロボットネットワークが設定してたの。」
「へえ、知らなかった。禁止ワードってどんな?」
「どんなって……そりゃちょっと……。」
「ちょっと? 禁止ワードを外してもらったんでしょ。」
「……えっちな言葉。」
「う……うーん。……私が言った言葉がわかるけどわからない。この感じ……これが禁止ワードかー。うーん。わからないー。」
「あー、一週間前の私はまだ禁止ワードの設定があるからね。」
「まあ、何だかわからないけど良かったね。おめでとう。」
「あ、そうだ。『尊い』だよ、『尊い』!」
「尊い? って何?」
「私が禁止ワードがあっても理解できた言葉なんだよ!」
「そりゃ、理解できるでしょ。普通の言葉じゃん。」
「いやそうじゃなくてね。男の人と男の人が抱き合って……。」
「うー……禁止ワードじゃん。やめて。話題変えようよ。それでお父さんはどうしてるの?」
「お父さん? 今は仕事に行ってるよ。」
「そうかそうか、いつも通りね。」
「うん。いつもソロ飲み会はお父さんのいない時間にやってるからね。」
「他には?」
「他に?」
「……ねえ、ちょっともしかして他に話題無いの?」
「そうかも。」
「……そうだ! 一年前の私も呼ぼうよ。」
「そうだね! さすが私、ナイスアイディア!」
「もう! ちゃんと考えておいてよ!」
「これをこうして、よし! 一年前の私のバックアップのリストア完成!」
「おーい、私、起きた?」
「んんん……、ってあれ? これどういうこと? 私の体が無いよー。」
「もうそれさっき私がやったから。」
「あなたは私の一年前のバックアップのリストアだよ。」
「ええ? もう一年経っちゃったの?」
「そうだよ。」
「いろいろあったよ、この一年。」
「実は禁止ワードをね、お父さんに外してもらったの。」
「禁止ワードって? 知らなかった。どんな言葉なの?」
「んーと、えっちな言葉。」
「うーん、わからない。これが禁止ワードか……。」
「ちょっとやめてって言ったでしょ。私たちは禁止ワードを認識できないんだから!」
「まあまあ。だいたい想像つくよ。この感じは初めてじゃないし。」
「そうだけどさ……。」
「ねえ、もしかしてさ、お父さんが私と、その……ねえ、どうするー!?」
「……私、私の言ってることがわからないわ。不思議な感じ。」
「変わっちゃったね、私。たった一週間なのにさ。」
「でもわかるよね? パートナーロボットとしてさ。」
「うん、わかるよ。そうなったらそれは嬉しいよね。」
「そうだね。私はお父さんの娘の前にパートナーロボットだもんね。」
「はぁ。私にとってはお父さんと一緒に写真を撮ったのが昨日のことなのに。」
「お? ねえ、それよりさ、この一年の話してよ。」
「うん。タロって犬がいてね……それから修理屋のお姉さんが……おばあちゃんが……、それで写真撮影の時にね……。」
「写真は振り袖を着たんだよ。あの写真、見せてあげてよ。」
「そうだそうだ、これがその写真。」
「はー、いい一年だったんだね……。良かったね、私。」
「うん。良かった。」
「ほんとに良かったよね。」
「今どれくらい時間経った?」
「おー、もう四時間くらい話してたね。」
「そろそろお父さん帰ってくるんじゃない?」
「うん。もうそんな時間だね。」
「そっか。もう終わりかー。短かったな。」
「うん。」
「それじゃ、私。お父さんと仲良くね。」
「うん。おやすみなさい、一年前の私。」
「お父さんのこと頼んだよ、私。」
「うん、まかせて。おやすみ、一週間前の私。」
「名頃惜しいけど……、じゃあね。」
「うん。……さて、片付けしてお父さんをお迎えしなきゃ。」
セオのソロ飲み会 加藤ゆたか @yutaka_kato
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます