第38話 GクラスVS糞山の王ベルゼーブ

 ベルゼーブは、玉座の上から、アドリーたち4人を見下す。


「ねえチミたちぃ、死ぬ覚悟あんの? 無惨に死ぬ覚悟」


 ハハ、と笑いながら、ベルゼーブは問いかける。


「この世の頂点に立つボクチンに逆らった罪は、死刑なんかより重いよぉお??」


 ベルゼーブは、目の前の少女4人を全く敵だと認識していない。


 勇気ある彼女たちの心を、いかに面白可笑しく、へし折り、叩き壊すことが出来るのかを考えていた。


 が、その思考は、すぐさま中断させられてしまう。


「スプラッシュウォーター!」


「ぬぎ」


 ベルゼーブの顔に向けられたアドリーの水魔法。


 首を曲げて避けるが、ギリギリ頬をかすめる。


「へえ――これが返事ってことぉ??」


「そ、わたし達みんな、あんたに殺されて死ぬつもりは無いってことさ」


 ビアンカはそう答えた。


 続いて、ディア、シィが言う。


「戦って勝つために来た」


「これまでの報いを受ける覚悟はできてますの?」


 ベルゼーブは、アヒャヒャヒャと笑い転げる。


「あ〜あ、こんなに小さな女の子達が、めちゃめちゃになった姿を見て、親や教師はどう思うのかなぁあああああ???? んんんんん!!!!! 高ぶってきたぁああああああああ!!!!!!!!!」


 邪悪の笑みを浮かべ、叫んだ。


「エキサイティングに殺してやるわね〜〜〜〜〜〜!!!!!!!

 喰らえ!!!!!! デーモン・ハンドぉおお!!!」


 ベルゼーブは腕を伸ばした。


 ベルゼーブの腕は文字通り伸びており、20メートル以上離れていたにも関わらず、拳がアドリー達に向かって突っ込んでくる。


「ストーンウォール!」


 ディアの魔法、ストーンウォールによって、地面から石の壁が生成される。


 ベルゼーブの腕に、石の壁を当てることで、軌道を変えた。


「ぬちゅぅ!!」


 さらに、ベルゼーブの口から触手が飛び出す。


 尖った触手の先端が、ストーンウォールを貫く。


「皆避けて!」


 ビアンカの指示に、皆が反応し、回避する。


「後ろから攻撃くるよ!」


 アドリーが皆に叫ぶ。


 その瞬間、ベルゼーブの伸ばした片腕が、大きく迂回し、反対方向から攻撃してきた。


「アドリーさん!」


「シィちゃん!」


 二人同時に、魔法を詠唱する。


 シィのグレーターサイクロンウインドで、竜巻を作り、アドリーのスプラッシュウォーターとかけ合わせ、大きな水流を作る。


「いけぇ!」


 水流は、後ろから来ていた腕にぶつけられる。


「上級魔法フリーズ!」


 濡れたベルゼーブの片腕を、アドリーの魔法によって、凍らせた。


「なぬ!」


 動きが鈍るベルゼーブ。


「はああああ――!」


 ディアがフレイムバスターソードを持って、走り出す。


 狙いはベルゼーブ本体。


「ギャハハハ!!!!!! もう片方が残ってるんだよ!!!! ――デーモン・ハンドぉ!!!」


「忘れてもらっちゃ困るね! ファイアーボール!!」


 片腕を伸ばして反撃するベルゼーブに、ビアンカがファイアーボールで邪魔した。


「ちぇ――」


「もらった――でりゃ!!!!」


 ディアがベルゼーブに袈裟斬りする。


「――手応えが無い!」


 ベルゼーブは後ろに飛んだ。


 両腕と口の触手を切られてもなお、余裕の笑みは消えていなかった。


「あははははははは!!!!!! やるねぇ!!!!!! 生きの良い人間は食べごたえあるから好きだぜええええええええええええ!!!!!!! んんんんんん!!!!!!!!!」


 ベルゼーブから、バキ、ボキ、と体が曲がる嫌な音が鳴り響く。


「ご褒美をあげるねええええええええええ!!!!!!!!!! ボクチンの真の姿、真の実力を味わえええええええええええええええ!!!!!!!!!!」


 変身――


 ベルゼーブは人間の姿から、真の姿へと変貌する。


 腕の付け根には、無数の触手。


 頭部には、虫の複眼のような赤い目が二つ。


 でかい胸板が垂直に伸びて、お腹が風船のように膨らみ、股間からトゲトゲの触手が生えていた。


 ――まるで、羽の無いハエのようなフォルムだった。


「糞山の王――確かにでっかいハエですわね」


 シィは排泄物に群がるハエを想像して呟いた。


「ハエのほうが可愛い。ハエに失礼。――あれは悪趣味の極み」


 ディアは、シィの感想に対し、本音で突っ込んだ。


 全人類、この生物を見れば鳥肌が立ち、おぞましいと思える姿であった。


 クックック、と笑うベルゼーブ。


「どう? どう? ボクチンのカッチョいい、最高セクシーボディの感想は???」


「あー、鏡見てきたら?」


 ビアンカはそう返す。


「ボクチンは鏡を見ない主義なの! そんなもの無くてもボクチンの美しさはボクチンが一番分かってるもんねぇ!」


 ベルゼーブは笑い続ける。


 暴力的なほど汚く、うるさい笑顔だった。


「最も美しい喋り方を! 最もボクチンに似合う肉体美を! 最も最高でスリリングな勝利を! 全部全部ボクチンが決めること!!!!!!」


 おぞましいほどの自信に満ち溢れていた。


 ベルゼーブは、快楽主義の極みとも言うべき、最低最悪な自分ファーストそのものを体現していた。


「ボクチン以外の存在すべて!!!!!! ――すゔぇえええ〜〜〜〜て!!!!! ボクチンの思うがまま、エキサイティングにぶちコロがすんだぜええええええええええええ!!!!!!!!!! お前たちはボクチンのモノだぁあああああああ!!!!!! この世はすべてボクチンのモノだぁああああああああ!!!!!  ヒャアあああああああああ!!!!!!」


 股間の一際大きなトゲトゲした触手と、両腕の付け根から生えている無数の触手がニョロニョロと動き出す。


「イカしてやるよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」


 触手がアドリー達目掛けて、伸びる。


「ビアンカ」


 アドリーの言葉に、ビアンカはうなずく。


「ああ、準備オッケー! ――爆破開始!」


 ビアンカはスクロールを取り出し、魔力を通す。


「――え?」


 その瞬間、ベルゼーブのお腹が爆発した。


「え、は、え??? あ、ぎ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


「マジックアイテム、『スイッチボム』を、あんたの変身中にこっそり使っていたのさ!」


 ベルゼーブのお腹より下――、股間のトゲトゲしい触手が、地面にドサリと落ちた


「ボクチンのぉぉおおおお!!!! ボクチンの最強兵器ぃ!!!! スーパードリルアームストロング砲がぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「変身中が無防備過ぎたね、次から気をつけなよ?」


 ビアンカは変身するベルゼーブに、全く気づかれること無くスキを突いた。


 本人の才能も大きいが、ツクモの教え【相手のスキを突け】が遺憾なく発揮されていた。


「ふぅ〜〜〜〜〜〜、ふぅ〜〜〜〜〜〜〜〜」


 白目を剥きながら、痛みをこらえるベルゼーブ。


 その間の数秒間、ビアンカは皆に話しかける。


「アドリー、超級魔法の準備、お願い」


「わかった」


「二人はアドリーを守って――」


「分かってますわ、お任せくださいませ」


「うん」


 アドリーは詠唱を始める。


 そしてベルゼーブは、目をカッと見開き、アドリー達に向かって叫んだ。


「死――――――ねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 憎悪と殺意を込めて、両腕の付け根から生えた無数の触手を全部伸ばした。


 無数の触手が四方八方から押し寄せる。


 ディアはストーンウォールを連続で唱え、周囲に石の壁を数段重ねで作り上げる。


「ディア! 行きますわよ!」


「大丈夫、私達なら守りきれる」


 身体能力向上の補助魔法を使用するシィ。


 炎の剣、フレイムバスターソードを握るディア。


 二人はアドリーとビアンカを守るように前に出る。


 対して、触手が石の壁に阻まれるも、すり抜け、シィとディアに迫る。


「でりゃあ!!」


 ディアは迫る触手を次々と切り飛ばす。


「無駄ぁ!!!!!!!」


 切り飛ばした触手からドロドロの粘液が飛び出る。


 強力な酸であり、触れたものを溶かす性質を持つ劇薬だ。


「サイクロンウインド!」


 シィの風魔法で、酸を吹き飛ばす。


「レーヴァテイン!!」


 そして、ディアの炎の斬撃によって、粘液ごと、触手を焼き尽くす。


「んんんんんん!!!!!! こんなのはただのご挨拶だぜええええええええ!!!!!!!!」


 ベルゼーブの口や背中から更に触手が生えて、押し寄せる。


「――く!」


 ディアはビッグストーンを唱え、触手を押しつぶす。


 が、潰し、切られ、燃やされた触手が突然再生を始めた。


 びしゃ!


「ぐっ!」


 再生した触手がディアの二の腕を掠める。


 裾の一部が溶け、肌が火傷したように赤くなる。


「ヒーリング!」


 シィの回復魔法によって、ディアの傷は癒えていく。


「ありがとう、シィ」


「どういたしまして――、ですがそれよりも」


 大量の触手をどれだけ破壊しても、再生しては襲いかかってくる。


 シィは現状の様子に、悪態をつく。


「――なんでこんなすぐに再生出来ますの?! この触手!」


 全員が思っていることだ。


 そして、後ろから観察していたビアンカはその理由を考察する。


「周囲の魔力の流れがおかしい。これはまさか――」


 ビアンカは、周囲の魔力の流れに、感覚を研ぎ澄ました。


 すると、城の外で戦っている魔族やモンスター達から、ベルゼーブに向かって流れているのを感じた。


「アヒャヒャヒャヒャ!!!!!!! これがボクチンの力――【ベルゼビュート・フォース】!!!! ボクチンは無敵なんだよぉおおおおおおおお!!!!!!!!!」


 ベルゼーブは配下にした魔族すべてに、【ベルゼビュート・フォース】という魔法をかけていた。


 この魔法によって、配下から魔力を吸い上げ、肉体を再生するエネルギーに変換していたのだ。


「でも、こんなことをすれば、あなたの配下達は――」


「関係なぁあああああああああああいねぇえええええええええ!!!!!!! 弱者と強者をむさぼり食うのは、【最強】の特権!!!!!!!! アイツラ全員、ボクチン様の為に死んで当然なんだよぉおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」


 ベルゼーブは叫ぶ。


 その狂気を当然だと。


 強者すら弱者とする、最強という存在。


 最強は自分だ、と。


「最強兵器、復活ぅ……!」


 そして、ベルゼーブの股間から、トゲトゲの触手が再生し、生えてくる。


 他の触手は人の腕程度の太さだったが、この触手は大人の胴より太く、そしてでかい。


「射出準備――スピン・スタート!!!!!!」


 ぎゅいいいいいいいいいいいいいん


 股間の触手が勢いよく回転を始めた。


「「「ひぃ!」」」


 生理的嫌悪で、詠唱に忙しいアドリー以外全員、悲鳴を上げる。


 見た目のおぞましさも相当のものだが、問題はその破壊力だ。


 これが他の触手と同等以上の速さで飛び出せば、ディアのストーンウォールはおろか、人間の肉体は一瞬でミンチになるだろう。


「――シィ、ディア、準備はいい?」


 ビアンカの言葉に、二人はうなずく。


 あの股間の触手に対しては、アドリーの魔法こそが勝利条件。


 そして、アドリーの詠唱はまだもう少し時間が掛かりそうだった。


「それじゃああああああああああああああああああああああいくぜえええええええええええええええ!!!!!!!!!!」


 ベルゼーブが叫んだ瞬間、股間の触手と、全身の触手を真っ直ぐ射出した。


「スーパードリルアームストロング砲ぉ、発射ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 回転する触手は、一瞬で着弾する。


 あらゆるものを破壊する圧倒的な力。


 反応出来るのはディアのみ。


 フレイムバスターソードの刀身で受け止める。


「――く!」


 ぎゅああああああああああああああああああああああああああああああ


 が、それでもなお、触手は回転し続ける。


 剣は悲鳴を上げる。


 今すぐにでも削りとられ、破壊されそうだ。


――数秒だけでいい! 今は折れないで!


「――はああああああああああああああ!!!!」


 ディアに出来るのは、全力で剣を握ることだけだった。


 そして、遅れて大量の触手が押し寄せる。


「ファイアーボール!!」


「グレーターサイクロンウインド!!」


 ビアンカとシィの魔法が、融合し、巨大な火炎となる。


 火炎が、触手の大群を一瞬押し留める。


「ぐぬぬっ……!」


「まだまだですわ……!」


 が、即座に再生する触手。


 いくら燃やせど、触手の勢いを殺しきれない。


「ああぁん?? この程度ぉおおおおおお???」


 徐々に、ビアンカとシィの魔法が力負けする。


 そしてついに――


「ディア!!!」


「――あ」


 シィは魔法を中断し、ディアを力一杯横に引っ張った。


 同時にディアのフレイムバスターソードが粉々に砕け散る。


 もしシィがディアを引っ張らなければ、触手の回転に巻き込まれて、腕が吹き飛んでいたかもしれなかった。


「アドリー!!」


 ビアンカは叫ぶ。


 もう防ぐ手立ては無い。


 ベルゼーブのすべての触手は、アドリーへと向かっていた。


 そして触手がアドリーに当たる瞬間――


 アドリーは詠唱をピタリと止め、前を見た。


――皆、ありがとう


 アドリーが生まれながらに持ち合わせていた巨大な魔力。


 ツクモに教えられ、成長したアドリーの技量。


 その二つが一つに組み合わさることで誕生した魔法


 その名は――


「セイクリッド・リヴァイアサン!!!」


 水の激流が、おぞましき触手を飲み込んだ。


「んなにぃ???? ――ぬぐああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


 激流はベルゼーブすらを飲み込み、その後ろの壁すら吹き飛ばす。


「ガバガバガバ!!!!!! ごぼぼぼぼぼっぼぼぼ!!!!!!!(何のこれしきぃいいいい!!!!!!)」


 ベルゼーブは流されないように、床に気合でしがみつく。


 そして、水がすべて捌けた。


 何事も無く、ベルゼーブはニヤリと笑いながら立ち上がる。


 ベルゼーブは無傷だ。


「やっぱりガキの魔法だねえええええええ??????? これじゃ、上級魔法と大して変わらな――なにこれ?」


 ベルゼーブは不意に、自分の体を濡らした水に違和感を覚えた。


 理由はすぐに分かる。


 この水には、聖水よりも純度の高い、大いなる祈りの力が込められているのだ。


「まずい――」


 瞬間、アドリーは天高く、片腕を突き上げ、叫んだ。


「浄化ぁ!!!!!!」


 ベルゼーブから、青白い聖なる炎が、燃え盛った。


「ギャアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!

 熱い!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 熱いぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 火はベルゼーブだけを包み込み、焦がしていた。


 聖なる水の激流を解き放ち、邪悪な者だけを焼き殺す魔法、セイクリッド・リヴァイアサン――アドリーが使える最強の魔法だ。


「これで勝ったの?」


 ビアンカは問う。


「いや、まだ全然生きてる」


 アドリーは答える。


 この魔法を喰らった敵は、数秒で塵になるはずだった。


 しかし、ベルゼーブはその巨体が焼け焦がしながらも、十数秒以上耐えていた。


 「ふしゅぅううううううううう……ふしゅぅうううううううううう……」


 火は徐々に消える。


 ベルゼーブの焼けただれた顔に、余裕の笑みは無い。


 怨嗟の眼で、Gクラスの少女たちを見る。


「――これほどの屈辱は、生まれて初めて」


「!!?」


 少女たちは驚く。


 あまりにも巨大な魔力がベルゼーブのもとに集中していたからだ。


***


 怒声や剣戟や雄叫びがひっきりなしに響き渡る。


「人間共が!!」


 城中は混乱の極みだった。 


 奇襲攻撃を受けた結果、モンスター達の大多数は為す術もなく倒されている。


 故に、力のある魔族がなんとか持ちこたえながら戦っている状況だった。


「これで死――うっ!!」


 が、突然、その状況が終わる。


「がはっ……ち、力が……すべて奪われて……ベルゼーブ様、な、何故……! ぐああああ!!」


 これまで戦っていたすべてのモンスターと魔族が、倒れ果てた。


「か……勝った、のか……?」


 この光景に、戦っていた人間の兵士達でさえ、戸惑うだけだった。


***


「殺す――殺す――殺す――殺す――」


 ベルゼビュート・フォースによって、配下すべての魔力を集める。


 しかし、その魔力を治癒には使わず、自身の前に凝縮させる。


「ぶっ殺ぉおおおおおおおおおおおおおおおおす!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 異常なまでの魔力量。


 この城は余裕で吹き飛ばすほどの力だ。


 そしてベルゼーブは、その破壊力を、目の前の――たったの4人の少女に向けた。


「……これで最後だね」


 アドリーは呟いた。


 口元が少しだけ笑っていた。


「いやはや、もうちっと弱い敵だったら楽できて最高だったのに」


 いつもの調子でビアンカはぼやく。


「最後らしく、練習通り成功させますわよ」


 皆を引っ張ろうとするシィ。


「早く終わらせて、皆でご飯にしよう?」


「それいいね!」


 ディアの提案に、皆同意する。


 絶望的な一撃を前にして――、彼女たちは彼女たちらしく、立っていた。


 恐怖など無い。


 ただ、ありのままの信念を胸に、今、この場に居た。


 そして、それぞれが魔法を唱えた。


「ウォーター」


「ファイア」


「ウインド」


「ストーン」


 4元素の初級魔法。


 それを見たベルゼーブは、血管が千切れるほどの怒りが湧き上がる。


「初級ぅう魔法ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお??????????????????????????????????????????

 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 ボクチンをナメているのかぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ベルゼーブの怨嗟など、今の彼女たちにはそよ風だ。


 4人は目を閉じ、それぞれの初級魔法に集中する。


――優しくて大好きな先生、わたしに諦めない勇気をくれてありがとう


 アドリーは心から感謝した。


――今の道を、わたしが自分で選んだからここにいる。皆と先生のおかげだよ


 ビアンカに迷いはない。


――大切な人を守れる強さと、人をいたわる優しさを、先生は教えてくれた


 シィの心は揺るがない。


――何もなかったわたしに、大切な人と居場所ができた。先生が居てくれたから


 ディアの心に、喜びが満ち溢れる。


 4人の心は一つに重なり合う――。


 その瞬間、アドリー、ビアンカ、シィ、ディアは、その手に作られた火、水、土、風の結晶ごと、手を重ねた。


「死に晒せぇえええええええええええええ!!!!!!!!!!!!! 覇王級魔法ぉお!!!!!!! ベルゼビュート・クリムゾン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ベルゼーブの集めた魔力が、真紅の波動となって迫る。


 最悪最強の一撃。


 防御も回避もできない絶対の死。


 しかし、彼女たちは逃げない


 同時に、少女たちの重ねた手から、極光が溢れた。


「何――」


 ベルゼーブには、何の光であるか理解できなかった。


 火、水、土、風のどれでも無い、全く新しい元素の輝きだからだ。


「「「「神級魔法――」」」」


 4元素のすべてを備えてるが故に、あらゆる元素を超える物質。


 かつて、グレゴーラという邪悪な教師と教育に虐げられていたGクラス。


 そのGクラスの闇を打ち払ったのは、ツクモ・イツキの最強の魔法だった。


 その名も――


「「「「ハイパーエレメンタル!」」」 


 光の柱。


 究極の極光。


 すべてを超越した光に、塗りつぶせない物質は存在しない。


 ベルゼビュート・クリムゾンは、一瞬でかき消される。


「そ゛ん゛な゛――――――――――」


 バカな、と続いたであろう言葉を、ベルゼーブは叫ぶ前に、光に飲まれた。


 最後の醜悪な断末魔の悲鳴すら、ハイパーエレメンタルはかき消した。


 光に飲まれた壁と天井は跡形もなく消える。


 あまりにも巨大な光に、城に居た人間も、辛うじて生きてる魔族やモンスターも、呆然とその光景を見ていた。


 そして、光が消え去った後も、あまりの凄まじさに、ただただ何もできずにへたり込む者ばかりだった。


「――終わっ……たの?」


 アドリーはつぶやく。


 部屋に残ったのは、4人の少女達と、破壊された天井と壁から入ってくる、夜空の星の光だけだった。





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