第33話 彼女たちの見解
――指名手配犯、ジャジャとその一味
――国家反逆罪の容疑で現在捜索中!
――国内に大量のモンスターを招く事件のきっかけを作った!
――ジャジャ一味は魔族に殺されかけた時、自分可愛さに民衆の犠牲を省みることなく魔族を領地に招いた!
――もしジャジャを見かけた者は、お近くの警察署に連絡を!
***
「ふざけるなあああああああああああああ!!!!!!!!! クソどもがああああああああああああああああ!!!!!!」
ジャジャたちは必死に逃げていた。
ガートルが操る馬車で、街から遠く離れた森林の中を移動している。
実は数時間前、宿に泊まっていたところ、突然警察がフル装備で突入してきたのだ。
なんとか、ガートルの機転でマジックアイテムを使用し、逃げ延びた。
が、行く先々で人々から警察に通報され、文字通り逃げるように街から離れた。
そして今、その辺の奴から奪った馬車の中で、偶然拾った新聞を読んだジャジャが発狂していた。
「俺様が魔族を領地に招いた犯罪者だと?????? 俺様がどれだけアイツラのために戦ってやったと思ってる??????? 俺様未満の下等生物共の分際でええええええええええ!!!!!!! ふざけるなぁ!!!!!! ゴミカス共おおおおおお!!!!!!!!!!」
叫ぶジャジャ。
「まじそれええええええええ!!!!!!!! あいつらなんなんやし!!!!!!!!! うちらに喧嘩売るとかまじキモすぎいいいいいいいいいい!!!!!!」
ラズビィも叫ぶ。
が、ガートルは冷静に物事を見定めた。
「この新聞、確かにおかしいですぞ、ジャジャ様」
この言葉にジャジャは少し苛立つ。
「は? おかしいのは明らかに分かるだろ? 頭の先から最後まで嘘しか書いてねえからな」
魔族に人々を売ったのは事実なのだが、ジャジャの頭の中ではそれは嘘であるらしい。
「申し訳ございません!! ジャジャ様!!」
全力で謝罪したあと、ガートルは言った。
「……わしが言いたかったことについてですが……実はこの新聞、まったくもってデデドンについての内容が書いておりません」
「うむ。それが?」
「魔族を招いた張本人はデデドン。ジャジャ様はデデドンと魔族の間を取り持っただけのこと……本来ならデデドンが事件の張本人として報道されなければおかしいのです」
ガートルは鋭かった。
国が意図的に、デデドンについて報道しないよう動いていることを、いち早く察知したのだ。
「恐らく、デデドンはすでに捕まっていると思われます。……尋問されているか、もしくは処刑されたのでしょう」
「……デデドンがねぇ」
知り合いとはいえ、ジャジャから見てデデドンは別にどうでもいいヤツなので、処刑されようが拷問されようがどうでもよかった。
「国の狙いは恐らく、魔族とデデドンの作戦が上手くいっていると見せかけて、奇襲することにあると思われます」
このガートルの予測は当たっていた。
ユーフォリア王国の上層部が考えた作戦は、奇襲だった。
ゾフィー、デデドンの作戦である、【1万人の人間を拉致し、魔国に引き渡す】ことを利用して、ゾフィーを装ったツクモ・イツキ率いる精鋭部隊1万人を魔国に侵入させ一気に首都を攻略するというものだ。
「ジャジャ様、これから皆で魔国に行くことを提案します」
「ふむ」
「ベルゼーブにこのことを伝えれば、きっと、わし達は悪いようにはされないでしょう」
ジャジャとラズビィはニヤリと笑った。
この情報が敵に渡れば奇襲攻撃は失敗し、絶望的劣勢になるのは明白だからだ。
「確かに、ガートルの言う通りだ。この国は俺様を犯罪者扱いした時点でもう駄目だ。俺様が救う価値ゼロ、魔国のほうがマシだ」
「ほんとマジそれぇ!! 自業自得だかんねー!! きゃは!!!」
そうして、3人は魔国へと向かう。
――それが、ツクモ・イツキの策略であることに気づかないまま。
***
〜アドリー視点〜
「はぁ……」
わたしは何度目かのため息を吐きました。
教室の外に広がる青い空をぼんやり見ながら、ただ机に突っ伏していました。
「モヤモヤする……」
デデドンが捕まってから数日経ちました。
が、別にこれでこの国が平和になったわけではありません。
これから戦争が始まります。
……本当はとうの昔から戦争はしていたので、戦争だけではちょっと意味が分からないですね。
具体的には――これから始まるのは人類から魔族への反抗作戦、つまり報復戦争です。
魔族との戦いに決着がつかない限り本当の平和が訪れることは無い、と先生は言っていました。
だからこうするしか道が無いのだそうです。
わたしもそう思いました。
けど、先生はわたし達Gクラスの皆に、こうも言ったのです。
――この戦いには、君たちを連れて行かない。
少し前までのわたしなら、是が非でもついていこうとしたでしょう。
けど、その時のわたしは少しホッとしたのです。
「魔族があんなに強いだなんて思ってもなかったよ……」
魔族師団長ゾフィー。
わたしとビアンカ、ディア、ココアの3人と1匹がかりで戦った敵。
けど、実力差があまりにも大きくて、やっと逃げるのが精一杯でした。
今のままじゃ、ついて行ったところで先生の足を引っ張るのは目に見えています。
「はぁ……」
また、ため息。
「や! おはよ」
ビアンカが来ました。
少し遅い登校です。
「めっちゃ落ち込んでるじゃん、アドリー」
「むー、ビアンカはどうなのさ?」
「アドリーほど落ち込んじゃ無いね」
「……そうですかー、さすがビアンカさんねー」
どうでもいい会話をしました。
少しだけ気が紛れたかもしれません。
「けど正直何もやる気起きないね」
ビアンカは退屈そうに言いました。
「夏休みは無期限延期、学校にいる生徒は私達だけ、その上わたし達だけで自習しろなんてありえなくない?」
「休暇を満喫するよりは、気持ち的に自習がマシかも」
「あああ! どっちもやだぁ! ――無理ぃ!」
急に叫びだすビアンカ。
が、別に誰も注意などしません。
少なくとも今、この教室にいるのはわたしとビアンカと、いつも以上に喋らないディアだけなのです。
と、思ったのですが――
「ビアンカさん、突然叫ばないでくださいませ」
そう、シィちゃんがいるなら、話は別なのです。
「シィちゃん! いつの間に帰ってきたの!?」
シィちゃんはこの国の王女です。
これまで王都でいろいろなことをやっていたみたいで、寮にはずっと帰っていなかったのです。
「つい先程ですわ。わたくしには安全な場所にいろとのことで、ラクロア魔法学園に戻されたのですわ」
なんだか意外でした。
シィちゃんは確かに臆病なところもあるけど、いざというときは意地でも皆の先頭に立つんじゃないかって思ってたから。
「けど久しぶりに4人揃って嬉しいじゃん! ――シィも一緒に自習するかい?」
ビアンカは冗談っぽく言いました。
「あら、真面目に自習されてましたの?」
どうやらシィは真面目に自習する気は無いらしい。
そして、シィは超がつくほどの大真面目な様子で、わたし達にいいました。
「わたくし達は、こんなところでのんびりしていいわけがありませんわ」
その目には、正義の炎が宿っていました。
「あなた達もデデドンを見ましたでしょ? もうこれ以上、人々が苦しめられるのは我慢なりません。わたくし達もこれまで以上に修行して、先生たちと共に諸悪の根源を叩かねばなりません。徹底的にですわ!」
「しょ、諸悪の根源……ええと……」
わたしはこのとき、ちらりとディアちゃんを見ました。
微動だにしていませんでした。
「もちろん魔族のことですわ! 魔国宰相ベルゼーブに、そして魔王! 人々の命を何とも思ってない邪悪の所業を野放しになど出来ませんわ!」
――もしかして、ディアちゃん……必死にシィちゃんと目を合わせないようにしている?
それに気づいた直後に、シィちゃんはディアに向かって言いました。
「ディア、あなたもそう思いますわよね!」
少しだけ間が空きました。
わたしと、そしてビアンカもつばを飲んでディアの様子を見守りました。
「うん……わたしもそう思う」
「ディア、これでこそわたくしの親友ですわ!」
わたしとビアンカは自分たちの愚かさに気づかされました。
シィちゃんに、このことを伝えるタイミングは確かにあるわけじゃなかったけど、無理にでも伝えようとすることは出来たはず。
けど、それをしなかったのです。
「あ……あのね……」
今言うのは、間違ってるかもしれない。
けど、どうしても言わないといけないと思いました。
「? どうしましたか、アドリーさん?」
だからわたしは、必死に声を絞り出したのです。
「あのね、ディアちゃんはね……魔族なんだよ……」
「……え?」
ぽかんとするシィちゃん。
言った瞬間に、言うべきじゃなかったと後悔の念が押し寄せてきました。
「魔族って、どういうことですの――ディア?」
ディアは、特に気にしてないような口調でいいました。
「……わたしは魔族なんだよ、シィ」
「!? そんな――」
シィちゃんはショックを受けていました。
ディアは淡々と説明を続けます。
「わたしの育ちはずっと孤児院で――人間として暮らしてきたから正直どうでもいいんだよ。魔族なんて」
「で、でも、それならディアには魔族の両親がいるってことですわよね!」
もし、戦争になれば、ディアの両親は巻き込まれるかもしれない。
両親だけじゃない。
友達だっているのかもしれない。
「いや、わたしの両親はどうやらもう死んでるらしいんだ。……別に友人とかもいないから……シィはそんなこと気にする必要はない」
「気にするなですって――わたくしは、悪い魔族を倒したいのであって、ディアの身内を傷つけたくは……」
「……」
声が震えるシィ。
ディアは無言のまま立ち上がり、教室のドアへと歩きました。
「ウサギに餌をあげてくる」
そう言って、教室のドアを開け、廊下に出ていきました。
「……」
わたしはディアちゃんのことを何もかも知っているわけではありません。
ディアちゃんはあまり自分のことを話すタイプでもないし。
それでもわたしは、ディアちゃんと一緒のクラスで過ごした時間の中で気づいたこと、いっぱいありました。
ウサギが好きで、照れ屋さんで、運動は得意なのにあんまり動こうとしなくて。
そしてわたし達のことを大切に思っている普通の女の子。
わたしは駆け出した。
廊下を出て、まっすぐディアに向かって走ります。
「ディアちゃん!」
その手を掴みました。
「……アドリー?」
「本当はいるんじゃないの? 魔国に、大切な人が!」
「……」
「シィちゃんの言葉を聞いて、目を合わせられなかったのは、なにか事情があったからでしょ??」
ディアちゃんは腕に力を入れて、わたしが掴んだ手を振りほどきました。
「……別に大切な人じゃない――」
どういうことなのかわたしには分かりません。
それだけ言って、ディアちゃんは口を開こうとしません。
「――ディアちゃん、わたしは、その人のことを諦めちゃう理由が分からないよ」
ディアちゃんに、わたしの疑問をぶつけました。
「……」
「わたしね、今でも怖いの。ゾフィーのような魔族とまた戦うことになるんだって思うと逃げたくなるよ。だけどね、大切な人を諦めることとは話が別だよ。わたしは怖くても、前を向いて立ち向かいたいの――ディアちゃんはどうなの?」
わたしの後ろには、ビアンカとシィちゃんが立って、静かにディアを見つめました。
「…………うん。アドリーと同じ気持ちかもしれない」
ディアはまっすぐ私達の目を見ました。
そして一呼吸した後、わたしたちに語りかけました。
「……その魔族に会ったのは、物心ついてから一度だけ。赤子だったわたしを助けた命の恩人」
命の恩人。
それはとても大切な人のはずだ。
なのになぜ見捨てるようなことを……
「その魔族が、今の魔王――エリン・ラファ。最強の魔族で、人類の敵そのもの」
「!!」
わたしたちは衝撃を受けました。
同時にこれまで分からなかったことが腑に落ちました。
そりゃあ、周りの皆が魔王を倒そうとしてる中、ディアちゃん一人だけ反対するのは勇気がいるし。
何より、親友の仲のシィちゃんが、『諸悪の根源! 魔王を叩く!』 なんて言うもんだから驚いて何も言えなくなるのも無理ないよね……。
「なるほどなるほど、そういうことでしたか」
ビアンカは、やっと緊張の糸がほぐれたのか、安心したような表情です。
「そういう事情ならさ、わたしも協力するし、先生もきっと分かってくれるよ!」
ビアンカはそう言って、親指を立ててアピールしてます。
「――ディア、何も知らなかったとはいえ、軽率な発言でしたわ。申し訳ございません」
頭を下げるシィちゃん。
「……ええと、シィは別に悪くなんか――」
ソワソワするディアちゃん。
「わたくしはあなたの力になりたく思いますわ! あなたの知ってることを、わたくし達と、ツクモ先生に話して頂けますか?」
このことは絶対にツクモ先生に話す必要があります。
もし魔王が悪い人じゃないなら、無駄な血を流さずに戦争を終わらせられるかもしれません。
平和への道の第一歩になる可能性があるのです。
「……わかった」
ディアは力強く頷いたのでした。
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