第31話 デデドンの最後(前編)
〜デデドン視点〜
パーティー会場に、次々と我が国の貴族たちが入ってくる。
男はタキシードを。
女はドレスを。
それぞれが立派な格好をする中で、他より見劣りするような貴族が、そこそこの人数いた。
なぜなら今回のパーティーには、辺境の土地を治める下級貴族も含め呼んであるからだ。
「はんっ! 庶民と大して変わらん田舎者は汚らわしくてたまらないでゲフ」
今回のパーティーはファーナス王妃が主催したものだ。
そしてその目的は、今後の国土防衛のために民間の傭兵ギルド【コンドルの爪】を徴用することを公の場で宣言し、全貴族の領土に配置させることにある。
その結果、莫大とも言える補助金がコンドルの爪に入り、そしてその金は私の懐へとはいる――というのは私と共犯者だけの秘密だ。
よって今、このみすぼらしい辺境貴族たちはパーティーに招かれただけでも奇跡という立場にある。
運だけなら平均より飛び抜けているであろう貧乏人どもだ。
このパーティーが終わりさえすれば、もう二度と公の場で会うこともない。
「お、あやつは」
私は面白い男を見つけた。
早速私は奴に近づき、話しかけた。
「これはこれは、アレス卿ではないゲフか」
「……デデドン卿」
奴とは知り合い――というより、政敵であった。
奴は散々私の邪魔をしてきたが、それはもう過去の話。
私と魔族が協力を結んだ際、あるお願いをした。
それは、アレス卿とその派閥の貴族たちが保有する土地を中心に攻撃するというものだ。
今日までに入ってきた報告によれば、襲撃初日から今日に至るまでアレス卿の派閥は大きな被害が出ており、上から下まで大混乱、復興までに20年はかかるだろうと見込まれているほど酷いそうだ。
もう、政敵と呼ぶにはあまりにも死に絶え状態!
それがとてもとても面白くて仕方がない!
「いやはっはっはゲフ! アレス卿も死ぬほど忙しい中、来ていただいて光栄でゲフな!!」
いやはや、笑うのはやめようかと思ったのだが、どうしても顔にも態度にも出てしまった。
やはりというか、アレス卿の顔は無表情のまま私を睨みつけていた。
「……王国からの勅命であれば、どんな時でも駆けつけるのが我々貴族の役目ですので」
私はイラッっときた。
みすぼらしく頭を下げ、助けを乞えばいいものを。
「勘違いしないでほしいゲフな。悪いのはモンスター共であって、私ではない! アレス卿は怒る相手を間違えているのではないでゲフかぁ???」
調子に乗りよって。
思い知るがいい私に逆らう愚か者よ。
貴様にとっての地獄は、まだまだ序の口だとな。
「せいぜいがんば――」
「アレス卿」
突然、私とアレス卿との会話に、割ってきた男がいた。
顔立ちはごく普通の青年。
だが服装の質が、一般の貴族のものより上質だ。
それだけにこの男の顔には何一つ覚えがないのはおかしい。
「お前はなにもの――」
「おお! ツクモ・イツキ! 我が国の大英雄よ!!」
なんと、大貴族であるアレス卿が尊敬の眼差しでその男――ツクモ・イツキに両手を広げ歓迎していた。
「アレス卿、礼服を俺たちに貸してくれてありがとうございます。……あと、大英雄なんて俺の柄じゃないですよ」
「いーや、ツクモ君が大英雄でないならば、歴史上の英雄は皆ただの一般人になってしまう!」
笑顔で話していたアレス卿は、すぐに真剣な表情へと変わる。
「君には計り知れないほどの恩義がある。少し早いかもしれないがお礼を言わせてくれ。 ――本当にありがとう」
私には、何がなんだか話についていけなかった。
私はおホン、と咳払いした。
「ああ、デデドン卿には紹介がまだでしたな」
アレス卿はそう言って、会話を中断した。
そして、そのツクモというやつは私に挨拶した。
「はじめまして。ツクモ・イツキという者です。ラクロア魔法学園で教師をしています。」
「は? 庶民でゲフか?」
なぜ、こんなところに庶民がいるのだ、と思った。
「ええ。ファーナス王妃から直々に招待頂いたので、生徒共々参加しました」
生徒?
周囲を見回す。
貴族の子息・令嬢はそこそこの数がいるため、パッと見ただけでは全くわからなかった。
庶民がこの中に混じっているのだと思うとなんとおぞましいことか!
「ふん、まるでゴキブリでゲフ! おぞましいでゲフ! 女王は一体何を考えているのでゲフか!」
私は正論を述べた。
「貴族のような高貴で由緒正しい血筋と家柄を持つものだけが真の人間! お前達庶民は家畜と大して変わらん存在でゲフ! 家畜と一緒に食事をともにするなど耐え難き吐き気がするでゲフ! お前達は生きる価値など無いでゲフ! 生まれた瞬間からお前たちは無価値という罪を背負わされた罪人のようなもの!! なぜお前達が自分自身に絶望して、自らこの世を去らないのか?? 私には信じられないのでゲフ!!」
それが世界の真実。
正しい物の見方。
それなのに、アレス卿は私を刺すように睨みつけた。
そして、アレス卿はツクモに耳打ちした。
「はっきり言ってもう我慢ならない。いつになったら始めるのだ?」
「もうすぐ始まります。……ほら」
ツクモが視線を向けた先。
ファーナス王妃が会場に入ってくる姿が見えた。
それを見た貴族たちは挨拶しようと、皆王妃に近寄る。
私も王妃のもとへ駆け寄る。
それは挨拶などではなく、言いたいことがあるためだ。
「ファーナス王妃! 言いたいことがあるのでゲフ!!」
「どうした? デデドン」
「なぜあのような薄汚れた下級国民をパーティーに呼んだのですか?? 王宮が汚れてしまうでゲフ!!」
ファーナス王妃は特に顔色も変えることなく答えた。
「彼ら――ツクモ・イツキとその生徒達は、この国を救ってくれた真の英雄。パーティーに呼ばれるだけの理由があるのです」
「――真の、英雄……でゲフか……?」
全く意味がわからない。
この男は一体何をした男なのだ?
……いいや、何をしようがどうでもいい。
どうせ肩透かしする程度の活躍だ。
「はんっ! それはとてもおかしな話でゲフな!!! こんな男が英雄??? 笑わせるでゲフ!!!!!」
この女、自分がこの国で一番偉いからといって、自分がすべて正しいと思い込んでいる。
きっと頭がおかしくなってしまったのだ。
だから私が、正しい物の見方というものを教えなくてはならない。
「この男が何者だろうかどうでもいいでゲフ!!!!! 今、この国を救っている英雄は断じてこんな男ではない!!!!!!! 真の英雄――それは傭兵ギルド【コンドルの爪】でゲフ!!!!!! 彼らは、迫りくるモンスター達から市民を守るために毎日戦っているでゲフ!!!!! そして、この国の烏合の衆である騎士団共とは違い、完全完璧な防衛によって、国民の誰一人犠牲者を出すことなく勝利し続けている唯一の存在なのでゲフ!!!!!」
私は熱弁を振るい、ファーナス王妃に、そして、この場の貴族全てに訴えた。
「さあ!!!! ファーナス王妃!!!!!! 今こそ宣言するのでゲフ!!!!!! 我が国を救う英雄は、騎士団でもそこの男でもない――【コンドルの爪】が敵の脅威から皆を守ってくれる存在だと!!!!!! そして、これからこの国全土を守る盾として、【コンドルの爪】を全面支援し、国中に派遣すると――!!!!」
王妃の宣言が終われば、私の努力も報われる。
そのあとは、裏で魔族と私は戦いをコントロールし、国庫の金が無くなるまで戦うフリを続ける。
そして、国の力が弱まったところで、真の王として私が君臨する。
国中には、すでに私の兵隊であるコンドルの爪がいるため、すぐに全土掌握できる。
逆らうものは皆死刑にすれば、もう邪魔するものなどいない。
国のすべては私のもの。
ファーナス王妃すら、もだ。
「……デデドン」
ファーナス王妃は、明らかに目を細めながら――にらみつけるように言った。
「その話は白紙になりました」
「は?」
今、何を言ったんだ?
この女は?
「話が違うでゲフ!!!!!! 私に嘘をついたのでゲフか???????」
「嘘などついていません。……私はもう、この国の政治を決定できる立場にありません」
「……今、なんと……?」
「王は、呪いから解き放たれ、お目覚めになられたのです」
その瞬間、新たに、二人組が会場に入ってきた。
ひげの生えた初老の男と、金髪の背の低い女子だ。
その姿を見た私は、呆気にとられた。
なぜなら、この二人組を私は知っているからだ――
「ユーフォリア王国を治める国王。我が夫、フラット・ライトニング王」
あ……あの男は間違いなく、フラット王。
私が過去、暗殺に失敗し、次善の策として呪いをかけ、目覚めなくした人物。
だとすると、その女子は――。
「そして、この国を狙う者の陰謀から守るべく、死を偽り、身を隠し続けた王女。我が娘、シィファ・ライトニングが帰ってきたのです」
「は――?」
私はぽかんと口を開けるだけだった。
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