第30話 一方そのころ、ジャジャは子供相手に喧嘩負けする

〜ジャジャ視点〜


「おい、このクエストを俺にやらせろ」


 俺様は冒険者ギルドの受付嬢にAランククエストの依頼書を渡した。


 ちなみにこの場にはガートルもラズビィもいない。


 俺様一人でサクッと終わらせたいからだ。


「だめです」


「は?」


 何だ、こいつは?


「俺様は竜の勇者ジャジャだ。だめとは何だ? なぜだめなのか説明してみろ?」


 そもそも、こんな一般人ごときが俺様に口出しすること自体おこがましい。


「ええと、今のジャジャパーティーはCランク以上のクエストを受けられません」


「んな??」


「これは冒険者ギルドの決定事項です。ジャジャさんのパーティーが以前受けられたAランククエストのレポートを考慮した上で、上層部がそう判断したのです」


 あまりの怒りに、俺様は我を忘れかける。


 ピキピキピキと血管の膨れ上がる音が自分でも聞こえるほどだ。


「ですので、戦闘のない雑用が中心のEランククエストの中から選んでください。家事手伝い、猫ちゃん探し、あとは――」


「ふざけるなぁ!!!!!!!!!!!」


 机に、拳を叩きつける。


「このクソボケ共!!!!!!! よくも俺様を苔にしてくれたな????? お前たちが生きていられるのも、勇者である俺様がお前たちを魔王軍から守ってやっているからだろ????????」


「ひぃ、暴力はやめてください――」


 俺はこのムカつく受付嬢の胸ぐらをつかもうと手を伸ばした。


 が、それは途中で中断された。


「やめなさい!」


「ああ??」


 声の主は、小学生ぐらいの背丈だが、バカでかい乳をしている子供だった。


「だれだテメエは? 頭ゆるゆるのガキが。死にてえのかよ」


「頭ゆるゆるなのはあなたですよ! 女性の方にこんな暴力的なことをして恥ずかしくないのですか!」


 その言葉に反応した周りの冒険者共が俺様に向かって叫んだ。


「そうだぞ!! ジャジャ!! 恥知らずが!!」


「悪いのはテメエの実力だろうが!! 女子供に八つ当たりしやがって!!」


「もう誰もお前を勇者なんて認めちゃいねえんだよ!!!」


 一体何なんだコイツラは??


 束になれば、俺様のことなんて怖くないとでも思っているのか??


 だったら死ねよ、馬鹿どもが。


「ジャジャ様!」


 突然、ガートルの声が聞こえた。


「探しましたぞ! こちらの方におられたのですね!」


「ジャジャー! ギルドに行くとかちょ~働き者じゃん!」


 ラズビィもいるようだ。


「お前らはすっこんでろ!!!! コイツラを全員ぶっ殺すからな!!!!!」


 ガートルの眼が丸くなる。


「い、いけません!! 今のジャジャ様が戦えば――」


「うるせぇ!!!!!!!!!! ボケ老人が口出しすんじゃねえ!!!!!!!!」


 そして俺は、最初に俺様に文句を言いやがったメスガキを見る。


「まずはテメエからだ。俺様に逆らったことを後悔しろ!!!!」


「メスガキじゃありません!! わたしの名前はロイ!! 実力派ポーター、キッシュの妹です!!」


「キッシュの――妹――」


 脳裏に蘇るのは、勇者である俺様をダンジョンに置き去りにして、一人逃げやがった愚か者のゴミクズ。


 アイツにみぞおちを蹴られた痛みを思い出した。


「ぶ ち゛こ゛ろ゛し゛て゛や゛る゛!!!!!!!!!!!!!!!」


 俺様は、全力の力をもって、そのロイというガキを殺すために殴りかかった。


 周りの冒険者たちも止めようとするが、位置的にもう手遅れだ。


 ロイは、目をつぶりながら、反射的に拳を突き出した。


 カウンター狙いのつもりか?


 無駄な抵抗――


「ぎ」


 ロイの突き出した拳が、俺の股間に打ち込まれる。


 そして、俺の拳はあまりにも遅く、ロイに届く前に、俺の股間はとどめを刺されていた。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 俺はのたうち回った。


 信じられない痛みに、呼吸が出来ない。


「あ……あれ……? わたし、なにかやっちゃった……?」


 殴った本人、ロイは信じられないといった様子だ。


「え、ジャジャがやられた?」


「子供相手だから手加減したんじゃ……?」


「あれが演技に見えるか?」


「アイツの実力は小学生(エレメンタリー)以下という噂だったが……まさか本当だとはな」


 散々冒険者どもは言いやがるが、俺は立つことすら出来ない。


「ゴミどもが!!!!!! ジャジャ様になんと無礼な!!!!!!!」


 ガートルは叫ぶ。


「なんだと――こんな小さな子供に殴りかかる馬鹿がいるか??? テメエらおかしいぞ???」


 冒険者はガートルに反論する。


 ラズビィは冒険者に更に反論する。


「まじきもぉーーーーーーーー!!!! その程度のことでぶちぎれるとか脳みそたりなさすぎぃーーーー!!!! ジャジャ帰ろ!!!!」


 そうラズビィは言う。


 ガートルは俺に肩を貸してゆっくり立たせた。


「ジャジャ様、今の我々は魔王軍に力を奪われています……モンスター退治どころか、喧嘩すら難しいかと……」


 小声でガートルはつぶやく。


 俺は何もかもすべてにブチギレていたが、股間の痛みに言葉を返すことすらままならなかった。


***


「コロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロすコロす……」


 俺は呪文のようにつぶやく。


 怒りなんて言葉では収まりきれないほどだ。


「ジャジャ様」


 ガートルは俺たちに提案した。


「デデドンの屋敷に向かいましょう。彼ならば私どものことを手厚く保護してくださるに違いありません」


 デデドンには大きな貸しを作ったことがある。


 もちろん、魔王軍とのコネを、俺たちがパイプとなって繋げた件だ。


「うまくいけば、奴を利用して、また力を取り戻すことができるやもしれません」


「それマジ? やるっきゃないじゃん!」


 二人がそういうんだ。


 まあ、間違いないだろう。


「よし、ならデデドンのところに行くぞ」


***


~第3者視点~


「探せーーー!!!! デデドンと魔族が繋がってる証拠をーーーー!!!」


 秘密裏に組織された捜査班――その班長は大声で叫ぶ。


 今、デデドンの屋敷の家宅捜索が強行されていた。


 デデドン本人は1週間後のパーティーの準備のため、屋敷に戻ることがない。


 この期限内にすべての証拠を押さえる必要があるため、屋敷の隅から隅までを探っている。


 もうすでにデデドンの使用人すべてに聞き取り調査が行われており、彼らは皆、参考人として屋敷から離れている。


 この屋敷にいるのは調査班のメンバーのみだった。


「班長! これを!」


「む? これは――!」


 それは、怪しげなオーラを放つ魔道具であった。


「ツクモ・イツキが言っていた魔道具……もし、これが他者を呪う効果があるものだとすれば、フラット王は――」


 ツクモ・イツキはこの調査よりも前からすでに予見していた。


 —―デデドンがフラット王に呪いをかけた犯人の可能性が高い、と。


「重要な証拠だ。丁重に管理しろ」


「はい!」


 そうして調査が続く。


 そしてしばらくたった後、外から声と呼び鈴の音が響いてきた。


カンカン


「おいデデドン! デデドンはいるか!」


 呼び鈴をガンガン鳴らしながらデデドンを呼ぶ3人組がいた。


「……あれは、勇者ジャジャ一行じゃないか」


 窓から覗く班長はそうつぶやいた。


 そして、少し思案した後、すぐに正門の前に移動した。


「ジャジャ様、我がご主人であるデデドン様に何か御用でしょうか?」


 班長は執事のフリをして、正門の前でジャジャに応対する。


「おい、デデドンは?」


「今は王城にて執務に励んでおり、1週間後にしか帰られません」


「ちぃ!! まあいい」


 舌打ちするジャジャ。


 あまりの失礼さに、目の前の班長は強い苛立ちを覚えた。


「俺らをお前の屋敷にもてなしてくれ」


「……はあ」


「お前のご主人様に大きな貸しがあってな。この程度のお礼はやってもらいたいと思ってんだよ」


 班長の目は、鋭く光る。


 そして、ジャジャに対して、朗らかな笑みを見せた後、こう提案した。


「でしたら、ここより西へ10分ほど離れた場所にある【ウレシノホテル】にお立ち寄りください。あそこは高級旅館ですし、私たちのコネでお客人をタダでおもてなし出来ます!」


 ジャジャ一行は、ニヤニヤしながら「まあいいだろう」と言った後、ウレシノホテルへと向かっていった。


 勇者ジャジャの後ろ姿が見えなくなるのを確認した班長。


 捜索班の仲間を呼んだ後、みんなにこう伝えた。


「勇者ジャジャとデデドン、両者のつながりを徹底的に洗い出せ」


 これより一週間後、ジャジャ一行は国家反逆罪で指名手配されることを、今はまだ知らない。




 



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