第26話 ディアVSゾフィー 決死の戦い
〜ディア視点〜
「ぶっひっひ。我がコンドルの爪への依頼が山程きてますな!」
傭兵ギルド、コンドルの爪の会議室。
豚のような男を中心に、10人程度の中年男が話し合っていた。
「この調子でいけば予想よりも高い売上が叩き出せますぞ」
「魔族と組むことがどれほど我々に利をもたらすのか、思い知らされました」
「騎士団には手に負えないと判断した民衆は、皆、自己防衛を考える。そして、真っ先に頼るのは実績を残した傭兵ギルドである我々【コンドルの爪】。……魔族と勇敢に戦うふりをして得たニセの実績だと知らずにな。はっはっは」
「そして、副業で始めた武器の販売・レンタル業の方も軌道に乗ってますぞ。今は売り手市場の真っ只中。バカどもは粗悪な剣や盾でも高値で買ってくれとる」
「もし、我々の支援者(パトロン)であるデデドン様の作戦がうまくいけば、王国から直接、我々への融資が決定されるはずです。――今の時点の儲けなど前フリに過ぎません」
「魔物と戦って守るフリをするだけのかんたんなお仕事で、国家予算並の莫大なお金が入る……ブヒヒヒヒヒ! 笑いが止まらんではないか!」
***
わたし、アドリー、ビアンカ、ココアは【コンドルの爪】の本拠地に、気づかれないように中に侵入し、壁越しに話を聞いていた。
「うわぁ……人の命を何だと思ってるんだろ……」
「ツクモ先生の予想通りだったね」
ちなみに今、この会話はわたしが手に持っている水晶を通じて録音していた。
言い逃れが出来ないほど、しっかりと音声が水晶に残るのでもう奴らに逃げる術は無い。
「今日の会議は終わりにしよう。もう外も暗い」
「くそ。夜遅くまで働くなど、まるで奴隷がするようなブラック労働ではないか」
「昼間には出来ないですよ、こんな話」
「くだらん! 誰も我らのことを疑うものなどおらん。気を使うだけ無駄だ」
そんな話をしながら彼らは部屋から出ようとした。
「ココア」
わたしはココアの方を見る。
「うん それじゃあ 始めるね ――【恐怖付与】」
周囲の空気が変わった。
わたし達にはそう感じた。
そして、恐怖を付与された中年の人たちは皆、だらだらと冷や汗を流し始めた。
「……なぁ……なんか体が寒いような……あれ? ……なんでこんなに汗をかいてるんだ?」
彼らは周囲を見回すが、何も気配はない。
数秒後、何もない虚空を睨みつけた男どもは叫んだ
「ぎゃあああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
絶叫した後、そのまま倒れ伏した。
……正直、この光景、怖い
「彼らは何を見たの?」
「うーん ぼくもわかんない!」
恐怖付与は、相手を動けなくするか、直前の記憶を消したまま気絶させるスキルとなっている。
ココアが以前、人間の子供(ツクモ先生の元同級生)に殺された経験が影響して得たスキルらしい。
ココアが言うには、かかった人が何を見るのかは決まっているわけでは無く、ランダムとのことだ。
あんな魔法にはかかりたくないなぁ。
わたしは内心でぼやくのだった。
「さてと、それじゃあ、中に入ってめぼしいものは全部奪おう」
ビアンカはわたし達に指示を出し、彼らが話し合っていた会議室の中に入り、様々な書類を物色した。
報告書や決算書など、わたし達が見てもよくわからないものも見つかるが、それらもきっちりかばんの中に入れた。
「見つけたよ、水晶!」
「でかしたアドリー!」
「内容を確認するね」
水晶は、通話が可能になるアイテムだが、その通話内容はきっちりと残る。
誰にも知られたくない機密情報の場合は、通話した後叩き割るのが通例だが、運良くそのまま残っていた。
音声記録をざっと確認すると、この事件に関わる重大なやり取りが行われているようだった。
「……ビンゴだね。これを持ち帰ってここを出よう」
ビアンカはそう指示を出す。
わたし達はこくり、とうなずき、逃げる準備をして、会議室を出た。
大きな失敗もせず、無事に終わりそうだ。
そう思ったのは一瞬だけだった。
――この気配はなに?
わたしは窓越しの先にある、外から高速で近づく存在に気づいた。
「みんな下がって!!」
わたしは叫んだ。
アドリーとビアンカが驚いてこっちを見た直後、外壁が吹き飛んだ。
「きゃあ!」
アドリーの悲鳴があがる。
「大丈夫?」
わたしは二人に聞いた。
「へ、平気……」
「いたた……一応大丈夫だね……」
運良く、ふたりとも怪我しなかった。
わたし達は、この建物に穴を開けたであろう何かを見る。
それは、人のような四肢。
細身で背の高い男のようだが、少し違う。
肌は薄い紫で耳が尖っている。
人ではない。
魔族だ。
「ベルゼーブに問題なし、と報告した矢先に、人間狩りを命じたモンスターたちが戻ってこなくなった」
この魔族は、ツクモ先生が強化魔法を国民に掛けた結果、モンスターたちが次々と倒されてるであろうことについて言っているようだ。
「薄汚い人間なぞ、もとから期待などしてないし、信頼などしていない。だが、さすがにあからさまな裏切り行為をそのまま見過ごすわけにはいかないと思いわざわざ足を運んでみたが――」
魔族はおそらく、この屋敷の中にいるであろうコンドルの爪のお偉方たちが縛られていることを察知したのだろう。
まるでわたし達に興味有りげだという様子で見つめていた。
「どうやらこの状況、君たちかわいいお嬢さんたちの仕業かな?」
ぞくり、と背筋が震える。
「はわわ こわい 敵」
ココアが怯えている。
目の前のやつは、強大な力を持った相手だと理解する。
「私の名前はゾフィー。魔族師団長をしている。貴様達の名前は何だ?」
「ま……魔族師団長……」
ビアンカは震えた声でつぶやく。
魔族の国、魔国ベルフォートという国家は、軍主体の政権であった。
魔王は、王様であり、全軍の総督であり、シンボルであり、最強の称号でもある。
そして宰相は、政治、軍隊などあらゆる側面に対して権限のある、ナンバー2に属する。
魔族師団長というのは、その次に偉い役職。
魔王や宰相のどんな無茶な命令でも果たす実力があると認められた結果、1師団の軍を動かす権限が与えられた者のことだ。
そんな奴が今、わたし達の目の前にいた。
「どうした? 名を答えない理由でもあるのか?」
ゾフィーは、背中に付けていた剣をゆっくり引き抜く。
「君たち子供だけが動いてるとは思えんな。この作戦を邪魔する愚か者は誰だ? そいつはどこにいる?」
もし、ツクモ先生の名前を言えば、見逃してもらえるかもしれないだろう。
自分はどうだって構わない。
こんな奴に先生を売る理由にはならない。
しかし、わたしに迷う理由があるとするならば、アドリーとビアンカだった。
この二人を危険に晒すわけには――
「グレータースプラッシュウォーター!!!」
アドリーが水の上級魔法を打ち込んだ。
広い廊下だったが、ほとんど隙間が無いほどの大きさの水の柱がゾフィーに迫る。
「フンッ!」
ゾフィーは剣を上から下へと一閃した。
水の柱は左右に分かれ、ゾフィーの真横をすり抜けていく。
そんな中、ビアンカはつかさず、魔法を詠唱していた。
「やるよ! ディア!」
「――いいのビアンカ?」
わたしはとっさにビアンカにそう言っていた。
勝てる保証があるわけじゃない。
なぜ二人共、そんな危険を犯して戦うのか、自分は戸惑っていた。
「だめだったらその時だよ! 今は全力でやらなきゃ後悔するよ!」
――ああ。
わたしはそのとおりだと思った。
勝てる保証もなければ、逃げられる保証も無いんだ。
ならば、今は全力で勝つ道に賭ける。
仲間たちと一緒に――!
「行くよ、ビアンカ」
わたしは、鞘から剣を引き抜いた。
「炎熱の剣――フレイムバスターソード」
赤い炎をまとった剣。
どんな敵だとしても、その刀身に触れただけで灰になる火力だ。
元々、装備への属性付与が使えるビアンカが、Aランククエストで得た大金のすべてをつぎ込み、最高級の剣やら素材やらを使用して作り上げた【完全に趣味の剣】である。
採算度外視。
威力度外視。
あまりの火力のせいで誰も持てなかった上、学園が火事になりかけたところ、ツクモ先生が剣にリミッターをかけることで完成した一品だ。
わたしはその剣を構えた。
それと同時に、ビアンカが魔法の詠唱を終えた。
「ファイアーボール!」
ビアンカは手のひらから3つの火球を繰り出した。
アドリーのグレータースプラッシュウォーターが終わった直後に、その火球がゾフィーに迫った。
「こんなもの――いや、これは」
そうつぶやいたゾフィー。
高速の剣さばきで、最後3つ目のファイアーボールを弾く
ゾフィーがファイアーボールを弾き終えた一瞬のスキ――。
「お前に名乗る名前など無い」
わたしは奴の質問にそう答えた後、フレイムバスターソードを振り抜いた。
「喰らえ――レーヴァテイン!」
炎の斬撃を飛ばした。
ファイアスラッシュという技があるが、それよりも遥か異次元の威力だった。
決まれば一撃必殺。
ゾフィーはファイアーボールを払った直後で硬直していた。
炎の斬撃を打ち払う術などなかった。
完璧なタイミングだった。
が、ゾフィーはそれを弾いた。
「「え!?」」
アドリーとビアンカが驚いた。
わたしもその動きを目の当たりにして体が震えた。
奴は剣を持たない方の手の甲を、斬撃の腹に打ち込んで、反らしたのだ。
斬撃は明後日の方向に飛び、その先にあるはずの建物の壁が斬撃のあたった部分だけ消滅する。
「素晴らしい剣だ。すべての魔力をこの手に集めなければ即座に燃え尽きてたに違いないだろう。だが、それだけでは私は倒せん」
ゾフィーは、わたし達に向かって飛んだ。
「ッ――!」
まるで光のように早い。
だが、わたしだけはその動きを捕らえていた。
そして、わたしは一歩だけ前に出た。
その瞬間。
ガキン、と金属同士がぶつかる音がした。
わたしの剣と、ゾフィーの剣がぶつかる音だった。
「ほう、よく見ていた」
ゾフィーは感心したといった風だ。
そして、ゾフィーはその剣を連続で振るった。
嵐のような連撃。
風を切る音はあまりに轟音。
反撃するスキも無く、ただひたすらに防御する。
わたしは目で剣筋を追いかけるのを諦め、直感だけで腕を振るった。
ガンガンガン、と聞こえてたはずの音も、次第に聞こえなくなるほど集中した。
0.01秒でも動きを止めたら死ぬからだ。
まるで永遠のような剣の応酬。
だが、ゾフィーの勢いは止まらない。
――やられる!
もし、これ以上長引くと負けることを察したわたしは、勝負に出た。
奴の剣筋が右上から斜めに切り下ろした瞬間、わたしは大きく胸を反らし、避ける。
同時に宙に飛び、両足を折り曲げ、お腹を横にひねった。
「ぬっ」
ゾフィーはここで初めて、剣で防御の構えを取った。
その防御の上から、わたしの両足から放たれる全力の一撃を蹴り入れた。
ドロップキックだった。
ズドン、と大きな音が鳴り響く。
ゾフィーは構えを全く崩さないままだったが、蹴りの勢いを殺しきれず、廊下を勢いよく滑っていった。
一か八かだったが、なんとか距離を引き離すことに成功した。
「なかなかやるではないか」
余裕しゃくしゃくの表情だ。
「ひゅー、ひゅー……」
対してわたしは息切れして、大量の汗が体中から吹き出ていた。
むしろその程度で済んでるのが奇蹟だと思ってしまう。
「君は人間では無いな」
「!?」
ゾフィーは私の隠していた秘密をあっさりとみんなの前で暴いた。
「魔族が人間のふりをして、こっそりと人間の国に住むのはまれにある話だ。それにな、人間風情が、この程度の未熟な剣技を使ったところで、私に勝てるはずなどなかろう」
ゾフィーはわたしのことを完全に見抜いていた。
奴の言う通り、わたしは魔族であった上、そもそも剣術については全然未熟であった。
その理由は単純で、ツクモ先生は剣術の基礎までしか教えられなかったからだ。
ツクモ先生は、格闘術はエキスパートであるものの、実は剣術についてはそこまで得意でない。
先生が言うには、【ディアには剣の適正があると知っているが、剣術の先生に来てもらえるのは中学に入ってからになりそうだ。だから、俺がみっちりと教えられるのは肉体の基礎鍛錬と格闘術になる】とのことだった。
とはいえ、ツクモ先生指導の基礎鍛錬と格闘術が無ければ、剣で攻防は出来なかった上、最後のドロップキックが使えず間違いなく死んでいただろう。
「この身体能力は明らかに魔族特有のものだ」
そう、自分の体の強さの理由は、元々の種族に備わっていた才能であることが大部分を締めていた。
もちろん、ツクモ先生から鍛えられた結果、成長したという理由もあるが、それでも人間離れしていることには違いなかった。
「君の力を認めよう。私の仲間になれ」
ゾフィーはそんなことをいっていた。
何を馬鹿な。
わたしはそう思った。
「無論、考える時間をあげよう。その間は君の仲間たちの命は保証しよう」
「!?」
「そして、もし仲間になるのであれば、ここにいる者たちの命は奪わない。魔族の誇りにかけて約束しよう」
わたしはここに来て、一番の焦りを感じていた。
剣を握る手が震えていた。
――仲間になる、そう一言だけでいい
頭に自分の嫌な言葉が頭をよぎる。
でも否定しきれない。
後ろには、アドリーが、ビアンカが、ココアがいる。
彼女らを確実に守るには、一番確実な方法に違いないからだ。
わたしは振り向いた。
アドリーとビアンカは不安そうな顔をしていた。
「……ディアちゃん」
「……ディア」
当たり前だ。
わたしは実は魔族で、もしかしたら敵へ寝返るのかもしれないのだ。
こんな顔をされても仕方ない。
……ああ、シィ。
もし、ここに君がいたら、なんて言うんだろう。
***
初めてお互いを意識したことを思い出していた。
Gクラスが出来たばかりで、わたし達4人、みんなから馬鹿にされていた。
グレゴーラや、他の先生や、別クラスの生徒から、ひどい言葉を何度も言われた。
けど最初はどうでも良かった。
無視、無視、ずっと無視。
自分のことなんて、言われ放題でも何でも良かった。
けど、シィだけは違った。
――これ以上、ディアにひどいことを言ったら許しませんわ!
わたしのためにシィは怒ってくれた。
彼女は勇敢なのだと最初は思った。
けど違った。
シィは怖がりで弱虫だった。
けど、誰かのためならば、自分が頑張らなくては、となんとか自分を奮い立たせていただけの少女。
だからわたしは逆に、シィを守ることにした。
シィの悪口を言う奴らを追い返し、シィを守ったのだ。
そしたら無理して気を張っていたシィが、心のそこから安心したかのように、わたしに抱きつき、泣きだした。
わたしが、その時初めて、友達と思えた少女がシィだった。
***
わたしは、アドリーとビアンカに向かって、言った。
「わたしを、信じてくれる?」
その言葉を聞いた二人は、力強くうなずいた。
「うん。わたし、ディアちゃんのこと信じるよ」
「あんなムカつく奴、一発ぶちかましてやって!」
ココアは安心した表情で言った。
「ディア がんばって」
ありがとう、みんな。
心のなかでつぶやく。
それを口で伝えるのは、奴に一矢報いてからだ。
「どうした? もう答えは出たのか? まだ待ってやってもいいのだぞ?」
わたしは奴を睨みつけ、はっきりと答えた。
「どれだけ待っても無駄だ」
「ならば死ぬがいい。実力差も分からぬ愚か者に生きる価値は無い」
ゾフィーは剣を構えた。
これが最後の攻撃になる。
わたしは最速で動くために、体に入った無駄な力を極力まで少なくする。
そして、剣を肩に担ぐように持ち上げる。
「――この構えは」
確かに、わたしには剣術の心得は浅い。
だが、唯一使うことが出来る必殺剣があった。
わたしは、ゾフィーに向かって、真正面から突撃した。
そして、目の前に来た瞬間、全力の力を込めて、剣を振り抜いた。
「ただの三連爆走斬ではないか」
三連爆走斬は王国騎士ならば、誰もが覚えるであろう必殺剣だ。
対モンスター用に生み出され、【右上から左下への袈裟斬り】、【左下から右上への逆袈裟切り】、【右上から左下への袈裟斬り】の順番で瞬時に斬る技である。
全力で同じ箇所を三度斬りつけることで、皮膚の硬いモンスターでもダメージを与えることが可能だ。
「そんな技に当たるはずがな――」
ゾフィーは体を反らして避ける。
知能の無いモンスターならともかく、人間や魔族には、教科書に乗ってる定番技など、知っていれば見切るのはそう難しいことではない。
ゾフィーほどの実力ならば当たるはずが無かった。
だが、それが命取りだ。
「何――」
最初の一撃目は、確かに三連爆走斬と全く同じ。
けど、その二撃目は明らかに元の技とは違う。
わたしは体を出来得る限り低くしたまま、ゾフィーの足首を狙って、水平に斬る。
ゾフィーは反射的に飛び上がる。
その瞬間、ゾフィーは宙に浮かび、無防備になった。
「しまった――」
そう、これは三連爆走斬ではない――
――俺には剣は教えられないが、たった一つ、ディアに出来る技がある
――俺とグレゴーラが戦った試合のときに使われた、君が見たことのある技だ
王国騎士に匹敵するほどの剣の実力者である、グレゴーラ・カズールが編み出した、対人・対魔族用の必殺剣である。
一撃目【右上から左下への袈裟斬り】までは同じだが、その次は【敵の視覚外まで体勢を低くしてからの、左から右への一文字切り】、【右下から左上への逆袈裟切り】へとつながる。
三連爆走斬を知っている者ほど、回避不能。
ツクモ先生のように、一撃目の時点で刀身を折らない限り、回避不能。
グレゴーラの、【敵は絶対に殺し、勝利する】という悪意が体現したかのような必殺剣。
その名は――
「三連爆走斬――グレゴーラスペシャル!」
フレイムバスターソードがゾフィーの胴体を引き裂かんと迫る。
「くぅ!」
ゾフィーは自身の剣を使い、受け流そうとした。
お互いの剣と剣がふれあい、その結果、フレイムバスターソードはわずかに逸れた。
そして、その剣先にはゾフィーの顔があった。
「ぬ!! ぐああああああああああああああ!!!!!!」
ゾフィーの左頬と鼻と右目を切り飛ばした。
傷跡は瞬時に燃え上がり、焦げ付いた。
「おのれ!!!! おのれぇえええええええええ!!!!!!!!!!」
殺しきれなかった。
ゾフィーは、わたしを斬るべく、右手に握った剣を大きく持ち上げた。
だが、その瞬間――
「上級魔法ウォーターライフル!」
アドリーが放った水の弾丸が、右手首に撃ち込まれる。
ゾフィーの右手首に、1センチ程度の穴が空き、剣を落とす。
「な――!?」
目を見開くゾフィー。
しかし、これだけでは終わらなかった。
「ディア避けて!!」
後ろから聞こえたビアンカにしたがって、横に飛ぶ。
その瞬間、ココアが全力でゾフィーに突進した。
「地獄におちろ いじめっこ」
ずがあああああん、と大きな衝撃音が鳴り響く。
「ぐふぅ!!!」
ゾフィーは廊下の先の先まで飛ばされる。
ココアはスーパージャイアントラビットという種族で、見た目の大きさだけで言えば、野生の熊の二倍以上ある。
体重は数トンぐらいあると言わていた。
そんな動物の全力の体当たりを喰らって、無事でいるはずがない。
ゾフィーの全身が打ち付けられ、すぐには動けない様子だった。
「おのれ!!!! おのれぇええええええ!!!!!! 下等生物のゴミ共がああああああああああああああああ!!!!!!」
立ち上がることも出来ずに、無駄に大声を上げる。
正直無様だった。
「逃げるよ! 捕まって!」
ビアンカが手を差し伸ばし、わたしに言った。
急いで、その手をつかみ、ココアの上に乗る。
そして、みんなと共に、この場から離れるのであった。
***
「ふぅ、ここまでくれば、さすがに大丈夫かな!」
ビアンカは言った。
わたしたちはやっと、緊張から開放されたのだ。
「でもココアが、実は空を飛べるなんて知らなかったな」
アドリーは言った。
実はわたしたちは空を飛ぶココアの上に乗っていた。
「中級魔法フライ だよ」
ココアはそう自慢気に言った。
「……」
わたしは何となく黙っていた。
いや、本当はみんなに言いたいことがあるんだけど、いうか悩んでいた。
「それじゃあ、今からツクモ先生に連絡をっと――」
「まって」
わたしは咄嗟にそういった。
勝手に口が動いていた。
「「……」」
みんな、わたしの言葉を待つ。
もう仕方ない。
言うしか無かった。
「ありがとう……みんな」
その言葉に、みんなにっこりと笑った。
「ありがとうは、こっちもだよ、ディアちゃん!」
「本当に助かったよ! ディアがいなかったら本当にどうなってたか!」
「ディア 偉い よくがんばった!」
みんなに励まされて、わたしは言ってよかったな、と感じた。
〜ツクモ視点〜
俺は水晶で、ビアンカ達のチームと通話していた。
「先生ごめん! ゾフィーとかいうめっちゃ強い魔族と戦ったけど、逃げるので精一杯だった!」
「いや、全然大丈夫だ。君たちが無事で本当に良かった。それに、しっかりと仕事も果たしてくれた。ありがとう」
「えへへ……それじゃあ、後は任せちゃうよ?」
「ああ、ゆっくり休んでくれ」
通話を切る。
ビアンカ達に任せた、コンドルの爪の本部から、不正の証拠を集めるという仕事はしっかりやってくれた。
後はこちらの仕事だった。
「シィ、ビル。来てくれ」
「はい、ツクモ先生」
「どうされましたか、ツクモ様」
シィと一緒に、甲冑を着た王国騎士団長のビルが来た。
「悪い話が一つ、いい話が二つある」
「……悪い話とは?」
ビルが尋ねる。
「これらの敵を率いてるのは、魔族師団長ゾフィーだ」
「な、なんと!?」
ビルは衝撃を受ける。
人類にとてつもない恐怖を与えてきたとされる強敵だからだ。
「そして、いい話とは、今やつは敵陣から遠く離れている。モンスター共を駆逐する最大のチャンスは今だ」
そう、俺は騎士団の百数十人とシィを連れて、真夜中の草原に出ていた。
デデドンに悟られず、動かすことが出来る最大の人数だ。
索敵魔法と使い魔を駆使した俺は、もうすでに敵の潜伏地を割り出しており、後はもう敵を殲滅するだけだった。
「おお! それは朗報だ! ゾフィーのいないモンスター共など何も恐れることなど無い!!」
「ああ、そのとおりだ……そして、いい話の二つ目だが」
俺は正直、怒りが込み上がっていた。
なんとか冷静さを装いながら、俺は言葉を紡いだ。
「今日がゾフィーの命日になる。奴の首は俺が跳ねるからだ」
俺の生徒たちに手を出した罰、受けてもらうぞ、ゾフィー。
―――――――――――――――――――
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
と思ったら
下にある☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星3つ、まあまあ読めたら星2つ、一応読めたぐらいなら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
フォローもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。
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