第24話 それぞれの思惑、それぞれの陰謀
〜ツクモ視点〜
「最初から魔石を使ってるって言ってよ! そしたらあんなに驚かずに済んだのに!」
俺はアドリーから怒られた。
「後で言うつもりだっただけさ。国民全員に強化魔法をかけているが、さすがに俺一人だけの魔力量ではさすがにまかないきれん。魔石を使うのは当然だ」
俺は以前から大量の魔石を保有していた。
かなり昔の話だが、師匠と別れた俺は魔石を地道に集めていたことがある。
師匠と再開したときに、恩返しとして渡すつもりだったからだ。
理由はわからないが、師匠は自分の魔力が無くなったらしく、魔法が使えなかったので、渡せば喜んでくれると思ったからだ。
多少は勇者パーティーに寄付したとはいえ、大きな袋一杯程度には魔石があった。
だが今、魔石はもうすっからかんだった。
「まあ、今は非常事態だ。仕方ないさ。また集めればいい」
「先生……」
シィが心配そうな声でつぶやく。
「時間は無限にはないが、多少は稼げた。今やるべきことをやろう」
俺は地図を出す。
Gクラスの彼女たちも、それを見る。
「敵の目的や居場所を割り出す」
確かに俺の強化魔法によって、人々はこれ以上危害が加わることは無い。
けれど、問題を解決するには、俺の懸念を解決する必要があった。
「俺の予想だが――この国の政治を取り仕切る上流階級の中に、魔族と通じ、モンスターを引き込んだ者がいる」
アドリーたちは皆、ショックを受けていた。
「そんな……」
「その証拠がありますの?」
「今はまだない。が、そう考えなければ辻褄が合わないことが多い」
俺は、今の自分の考えを説明した。
「まず不自然なのは2点、敵モンスターが国境付近の警備網に引っかからずに侵入したこと――そして入り込んだモンスターを見つけるため、王国騎士は全力奔走したのに全く見つけられなかったということだ」
「それは透明化魔法インビジブルを使用していたからじゃないの?」
「理由の一つに過ぎない。王国騎士はインビジブル対策は十分に取っていた。――誰かが国の内情である警備網の情報や抜け道を提供でもしなければ見つからないなんてことはありえない」
俺は地図に印をつける。
「これまでモンスターに襲われ、被害があった場所がこれらの地点だ。これからなにか読み取れないか?」
俺はみんなに尋ねた。
すでに俺は地図に付けた印から共通点を読み取っていたが、彼女たちの勉強にもなるだろう。
「……これは」
シィだけが、なにかに気づいたようだ。
「言ってみてくれ」
「デデドン・ボン公の領地だけ印がありませんわ」
「よく知ってるな、シィ」
デデドン・ボンは貴族だ。
俺は会ったこと無いためその真相はわからないが、家柄だけの男であり平民を人と思っていないという悪い噂がある。
そのうえ持ち前の財力で王妃に近づきつつあり、すでに国の実権の一部をその手に治めているとも言われていた。
「そのとおりだ。襲われて被害が出たのはデデドン以外が治めている領地以外だ。実際はデデドンの領地もモンスターに襲われたと記録されているが、彼が雇った傭兵ギルドの兵士達がすべて返り討ちにしたと記録されている」
「うまく返り討ちにしたから被害が出なかっただけじゃないの?」
「そうとは限らないぞビアンカ。この件、誰が一番得するのかを見極めなければ真実は見えない」
おそらくこの事件の裏には大きな陰謀が隠されている。
「まず、モンスターはせっかく王国に潜入出来たのに王都が直接狙われてないのはなぜか?」
「……戦いを長引かせたいから、ですの?」
「そうだ。奴らは長期戦を望んでいるように見える。魔族側の一番の目的は国力の低下だろう。それじゃあ、この長期戦によって利益が手に入る人間側の裏切り者は誰だ?」
「……ええと」
「ああ、普通に考えれば現状誰にも利益はない。しかし、今後の展開次第では莫大なお金が動く。なぜだか分かるか?」
4人共頭を悩ませる。
そして何気ない言葉を、ディアがつぶやく。
「……もしかして、戦争?」
「ああ、かなり近い」
このことを聞いて、彼女達に緊張が走る。
「現状、王国は騎士団を総動員して運用しているが、莫大なコストが掛かる。しぶとく逃げ回り続ける敵が国内に存在する限り、防衛のために人が住む町や村すべてに常に兵士を配置し続ける。……予算が1年も持つはずが無い上、財政破綻するだろう」
「それじゃあ、王国はどうするの……」
「おそらく、王国は国内の防衛は民間で行うように、とお触れを出すはずだ。そうなると、市民が頼るのは傭兵ギルドになる。そしてすでにある傭兵ギルドがこの戦いにおいて成果を上げている」
「デデドンが雇った、傭兵ギルド――」
シィはつぶやく。
「ああ、そうだ。この両者につながる証拠があれば、自ずと得する人物は明白――デデドン・ボンだ」
実際に今、証拠は無い。
だが、すべての状況が恐ろしい伏線となっている可能性が高い。
俺の大切な生徒達を守るためには、裏の裏まで読まなければならない。
「俺はその証拠を見つけるために奔走しなくてはならないようだ。君たちは……」
俺は、みんなの目を見る。
アドリーも、ビアンカも、シィも、ディアも目で訴えかけていた。
――私達にも何か協力させて、と
何か危険な目に合わせるかもしれない。
だが、彼女たちのやりたいことを否定するだけでは、成長にはつながらない。
俺は決心した。
「危険が及ばない程度には手伝ってもらいたい」
「「はい!」」
彼女たちは大きな声で答えた。
***
〜デデドン視点〜
王妃であるファーナス・ライトニングは今日も美しいでげふ。
そしてその横には王妃をサポートする執務官であり、ボン家の伯爵であるこの私、デデドン・ボンでげふ。
今日は特にごきげんな気分でげふ。
「申し上げます……」
そんなわたしたちの前にひざまずくのは王国騎士団の団長ビル。
忠誠心だけが取り柄のどうでもいい男でげふ。
「敵本隊、まだ見つけることが出来ません……」
「そうですか」
金髪碧眼の麗しい女王が、静かに言った。
ああ、うずくぅううう!!
早くこのメスを私の手篭めにして奴隷にしてやりたいぃいいいい!!!
おっと、今はまだ抑えねば……
「この無能騎士団は、まぁだ敵のしっぽすらつかめない体たらくでげふか。国家のお金がどんどん吸い取られていってるのが分からないげふか? 君たち無能騎士団を抱える身にもなれでげふ」
「ッ……は。申し訳ございません」
げふふふふ。
ああ、内心笑いが止まらないでゲフ。
君たち騎士団からモンスター共を逃してるのは、この私なのでげふからだ。
「ファーナス王妃。やっぱり、騎士団に予算を割くのはやめて、私が雇っている傭兵ギルド、【コンドルの爪】に支援したほうがいいでげふ」
「……」
「今、この戦いで最も成果を出してるのはコンドルの爪だけでげふ。この無能騎士団なんかより遥かに役に立つでゲフ」
コンドルの爪はこの計画の為に私が裏でこっそり作った傭兵ギルド。
モンスターたち相手に八百長だけさせて、戦果を捏造し、その戦果を元に支援金を国と国民から巻き上げて私のものにするのでげふ。
この計画は私と、魔王軍宰相ベルゼーブが裏で繋がり、実行されるものでげふ。
国民はたくさん血を流そうが、私に利さえあればまったくもって問題なしでげふ。
この私とベルゼーブをつなげてくれた勇者ジャジャには感謝しかないでゲフ。
あとはファーナス王妃が肯定すれば……。
「デデドン、この件は保留にしたはずです。予算が残るうちは民間には頼らず、騎士団のみで対応する。そうですね、ビル騎士団長」
「は!! 必ずや、必ずやこの命令成し遂げるべく、全力で挑みます!!」
ち……糞女め。
まあいいでげふ。
そう遠からず、必ず私のおもちゃにしてやるでゲフ。
***
〜勇者ジャジャ視点〜
「やっとここまでついたし……」
「ジャジャ様、この私が宿を取ってくるのじゃ」
ラズビィとガートルがなにか言ってやがる。
言葉がはっきりと頭に入ってこねぇ。
「ああ」
適当に相槌を打つ。
これまで最悪のことが起こりすぎて、怒りの頂点が過ぎ去り、自分の中のすべてが燃え尽きちまったようだ。
「ねえジャジャさあ。あたしと魔王って、どっちが好みぃ?」
「何を言っとるか、ラズビィ」
「えーだってさぁ、魔王があんなでっけぇおっぱいの女なんて思わねえじゃん! びっくりっしょ」
俺らはダンジョン攻略に失敗したあと、魔王城まで連れてこられた。
そして、俺様の最強の力のすべてが奴らに奪われた。
平凡な人間以下の弱っちい雑魚に俺様はなっちまったわけだ。
でも俺様は死ぬわけにはいかないから、魔族と手を組みそうなバカ貴族、デデドンを紹介した。
俺様の目論見通り、デデドンは魔族と手を組み、俺らの命は助かり、魔王城から追い出され、野生のモンスターにビクビク怯えながらやっと人の街についたわけだ。
「まあ、あたしのほうが最先端でイケイケっしょ! ねー、ジャジャ?」
「ああ、そうだな。ラズビィ」
魔王城に待っていたのは、魔王と魔族宰相ベルゼーブ。
ベルゼーブは俺たち人間の間では、糞山(くそやま)の王と呼ばれていた。
その名の通り、本当に気持ち悪いやつだった。
そして、魔王はダイナマイトな衣装に身を包んだナイスバディな女だった。
がしかし、眼が死んでいたし、生気のかけらも感じない。
人形のようなやつだった。
「ラズビィのが100万倍ましだ」
「きゃー! うれしい! ジャジャマジイケメンー!」
「おほん……ジャジャ様はお疲れじゃ。宿の準備が出来ました。さあ、ジャジャ様、早くお体をお休めください」
「ああ」
俺は歩いて宿へと向かおうとした。
すると、紙が俺様の前に飛んできた。
「ん? 新聞か?」
俺は新聞に掲載されていた文章が目に入った。
〜号外、新たな勇者の誕生〜
〜その名はビアンカ・ノノ、小学6年生の女子〜
〜なんと元勇者ジャジャが攻略できなかったAランククエストをクリアしたのだ!〜
「あ――――?」
一体、何だこれは?
新たな勇者が、子供?
俺様を差し置いて?
そして、俺は更に信じられない文字を目にした。
〜そして、彼女を教えた先生は、ラクロア魔法学園初等部教師のツクモ・イツキ、元ジャジャのパーティーメンバーだった男〜
〜実力派のポーターであるキッシュ氏によれば、真の実力はジャジャよりも遥かに上の存在とのこと〜
俺は、スカスカの灰になっていた何かが突然、怒りのマグマになって溢れ出した。
「ああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
許せない。
俺様をこき下しやがって。
「ツクモ!!!!!!!!!!! イツキィィいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
***
〜魔王城〜
暗い部屋。
階段の上には玉座。
魔王が座っていた。
魔王は美しい女性。
その目には虚空を写していた。
その表情からは、感情という一切が読み取れない。
その玉座のよこには、また別の椅子があった。
座っているのは、ムキムキの上腕筋に、下半身だけ女性のように細く締まった体つき。
化粧をした男。
魔族宰相ベルゼーブだ。
「それでぇ? 作戦はどぉんな感じ〜?」
女性のような口調。
いわゆるオネエのような口調で話していた。
話し相手は魔族師団長、ゾフィー。
ゾフィーは、ユーフォリア王国に侵入したモンスターの大群を率いており、遠距離の通話が出来る水晶をもちいて、報告していた。
「は、まずまずかと」
ゾフィーはそう答える。
一部、帰ってこない軍もあるが、騎士団の攻撃からはうまく逃れられている上、予定通りの数の人間を捕らえていたからだ。
「あ、そ。じゃ、楽しみにしてるわね」
そう言って、水晶の通話を切った。
「んんんんん〜ボクチン楽しみぃ〜! 早く、たぁくさんの人間を、あの魔力溶鉱炉に突っ込んであげたいなぁあああああああ!」
魔力溶鉱炉。
部屋のすみにある直径3メートルの球体のことだ。
ここに溶かされた生物は、魔力に変換される。
「ねえ魔王様。確かに今はボクチンより魔王様のほうが強いから、この玉座に座ってられるんだよね?」
魔王とは、魔族最強の称号である。
この魔王より、ベルゼーブは弱いということだ。
ゆえに、ベルゼーブは魔族宰相を名乗っていた。
「でもねぇ、たっっっっっくさんの人間をボクチンの力にしちゃえばぁ、魔王様なんかすぐに超えちゃうよぉおお?」
ガッ。
ベルゼーブはその足で、魔王の顔を踏みつける。
「最強ってのはね、最後に勝つ奴のことを言うのよ。……そう、最強なのはこのボクチン――ベルゼーブ・バアルゼブブのことだよぉおおおおおおおおおおおおおおぁあああああああああああひゃひゃひゃひゃははははは!!!!!!!!!!!」
魔王は笑われる。
魔王は踏みつけられる。
魔王は、それでも無表情だった。
〜ツクモ視点〜
「ツクモ先生、そして皆さん」
シィはかしこまったように、俺とGクラスのみんなに言っていた。
「どうしたの? シィ?」
「親友のディアにも黙っていたことがありました。――けど、今どうしても伝えなければなりません。驚かないように聞いてください」
俺は神妙に、シィの言葉を聞いた。
「わたくしは、シィ・ケープという名前ではありません。――本当の名前はシィファ・ライトニング。本来ならすでに死んだはずの、第一王女なのですわ」
「「…………え?」」
俺も、みんなも、突然の告白に、口をぽかんと開くだけだった。
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