第23話 大虐殺される村(※敵が)

「今、この国に危険が迫っている」


 俺は一つの部屋にGクラスを集め、開口一番に言った。


 彼女たちも危機感を持っており、静かにこくりとうなずいた。


「入り込んだ魔族は、大量のモンスターを引き連れてこの国のどこかに潜伏している。

 王国騎士団はこれを殲滅するために動いたが、敵を見つけることすら出来なかった、とのことだ」


「……」


 そう、見つけることすら出来なかった――


 これには一つ、大きな理由がある。


 透明化魔法である、インビジブルの存在だ。


 軍勢すべてを透明化することで、その姿を目視出来なくさせているのだ。


「そして入り込んだモンスター共はこそこそ逃げ隠れながら各地の町や村を襲撃している。人々を殺し回り、誘拐までしているそうだ」


 ここまで話を聞いていたビアンカは真剣な表情で言った。


「先生! 私達にできることがあるならやろうよ!」


 ここまでのことを聞かされて心動かぬ者などそうはいない。


 ビアンカだけでなく、この場の全員の意思は同じだ。


「そうです! ツクモ先生ならば、この状況を打開できるだけの力があるではございませんか! 今ここで動かずじっとしているなど出来ません! 民草の安全を考えて出来ることをするべきです!」


 シィは俺に訴えた。


 正義の怒りだった。


 俺はシィの人を動かす力――彼女のカリスマ性を見抜いた。


 シィが人の上に立つことがあるのならば、きっと皆が信頼するリーダーになるに違いない。


 おっと、つい関係ないことを考えてしまった。


 俺は、シィの質問に、こう返答した。


「いや、もうすでに手は打ってある」


***


〜ある辺境の村〜


 たった300人程度の平和な村に、モンスターの大群が押し寄せてくる。


 それはまさに突然現れた。


 最初に気がついたのは、ウシやヤギなどの家畜を放牧していた男だ。


「モンスターが来たぞ!!! 今すぐ逃げろ!!!」


 その言葉を聞いて、皆が驚く。


 そして、男が示した方角を見ると、この村の規模を超えるほどのモンスターの大群――ゴブリンやウェアウルフ、そして特に、15メートルを超える巨体を持つ単眼の怪物サイクロプスがいた。


「なんであんなモンスターの大群が!??」


「こんなに近くに?? なんで今に至るまで誰も気づかなかったんだ??」


 誰もが反対の方へ走り出す。


 しかし、もうすでに手遅れであろうことは誰の目にも明らかだ。


 馬にでも乗らなければ逃げることなど到底出来ない。


 それほどまで、モンスターと人間との間には身体能力の差があるからだ。


「ぐへへへへ。人間、殺せるぅ……殺せるぞぉう!!」


 サイクロプスの下卑た笑い声が響く。


 このサイクロプスは、小さな生き物を潰すことにとてつもない快楽を感じていた。


「サイクロプス、全員は殺すなよ。生きの良い人間は捕まえて、ベルゼーブ様に捧げなければならんからな」


 サイクロプスに話しかけるのは、このモンスターを率いる司令塔、闇の魔導師だ。


 上級モンスターであり、高レベルの魔法を使うことが出来る強敵だ。


 そして、透明化魔法インビジブルを使用して、この軍勢を隠していたのも、闇の魔導師の仕業だった。


「ぐへへへへへ!!!! ぐへへへへへへへへへへへへへへへ!!!!」


 サイクロプスは走り出す。


 レンガや木で出来た家が立ち並んでいるだけの村。


 特徴といえば、王国で信教されている女神ククリの石像があるのだが、それだけだ。


「やった、こども」


 サイクロプスは、転んで動けない子供を見つけた。


 何も出来ずに泣き叫んでいるだけだった。


「助けてぇええええーー!!! ママぁあああーーー!!!」


「これ、ポイントたかい」


 サイクロプスは、命で遊んでいた。


 子供を潰せば、高得点。


 親子を殺せば、高得点。


 たくさん人を泣かせれば、高得点。


 決して人とは相容れることの出来ない、最悪の価値観を持っている極悪のモンスターだった。


「せぇえの!!」


 びゅん。


 サイクロプスは飛んだ。


 そして、子供のいる位置へ、巨大な足の裏に、全体重を載せて、叩きつけた。


「しねぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!

 ――――――――――――え?」


ずる


「え?」


 サイクロプスは、突然足を滑らせた。


 丸いものを気づかずに踏んでしまったかの如く。


 子供を踏み潰すはずだった足は、地面を見失っていた。


「うっ!」


 サイクロプスは転んだ。


 勢いよくころんだ頭の先には、女神ククリの石像があった。


 ごんっ、と鈍い音がしたあと、サイクロプスはもう二度と動かなくなっていた。


 石像にクリーンヒットして、頭が砕けたサイクロプスは、あっけなく、無意味に死んでいた。


「さ、サイクロプス……?」


 一部始終を見た闇の魔導師は、突然の出来事にただ目を丸くするのだった。


***


〜ツクモ視点〜


「王国の国民のすべてに、強化魔法を付与した」


「え」


「これで、モンスター相手に殺される者は出ないだろう」


「ええええええーーーー!!!!」


「なぜそこまで驚く」


「だってそんなことできるわけ無いですよ!」


「うん。前代未聞」


 無口なディアでさえ驚いており、シィに至っては口をぽかんとしたまま動いてない。


 自分で言っといてなんだが、確かに魔法を多少かじった者なら驚くのは無理ないかもしれないな。


「とはいえ、強化魔法にも色々ありますよね」


「そのとおりだ。アドリー」


「何を付与したんですか?」


「それはだな――」


***


「無能のデク野郎が!!! 恥晒しめぇええええええ!!!!」


 闇の魔導師はすでに死んでいるサイクロプスに罵詈雑言をぶつける。


 こんな死に方、どう報告すればいいのだろうか?


 そもそも必ず勝利するこの作戦で、犠牲者が出てしまうことがありえない事態だ。


 こいつの恥によって、自分たちの評価が下げられることにつながればもう二度と魔王軍の中で出世することなどできなくなるだろう。


「一匹でも多く人間をベルゼーブ様の元へ連れていく。そうしなければならん!」


 闇の魔導師は、手下のウェアウルフ、ゴブリン達に命令する。


「人間どもを捕らえよ!!」


「「ぎゃおおおおん!!」」


 モンスター共は一斉に人々の元へ走る。


「くそっ! モンスター共め!」


 数人の男が、桑や木の棒を持って抵抗を図る。


 一秒でも妻や、子供や、年寄りが逃げる時間を確保するため。


 だが多勢に無勢、1分とて持つはずがなかった。


「ぐるぁああ!」


「!? しま――」


 ウェアウルフが筋肉で膨らんだ右腕で男を叩き飛ばし――


 スカっ


 男を狙った攻撃は完全にスカした。


 攻撃の軌跡が突然、明後日の方向へと向かったからだ。


「わう!?」


「今だ!」


 桑がウェアウルフの頭に突き刺さる。


 ウェアウルフは死んだ。


「なにが、どうなっている……?」


 これを見た闇の魔導師は、周囲を観察する。


 どうしてか、手下が人間相手に傷一つ付けられない様子を見て、異常事態だと気づく。


「もしや、【物理攻撃回避】が付与されておるのか」


 それならば、今までの話を飲み込める。


 おそらくこの村には優秀な魔法使いが隠れており、村人たちに強化魔法を付与しているのだろう。


 物理攻撃回避ならば、魔法以外の物理攻撃は当たらなくなる。


 殴る蹴るなどの攻撃だけでなく、押し倒したり、縄で縛ったりする行為などもできなくなるので、生け捕りにすることができなくなる。


「ハイサーチ……くそなぜ見つからない!」


 索敵する魔法を使ったが、術者が見つけられなかった。


 それもそのはず。


 ツクモ・イツキはこんな辺境の村の近くにはおらず、馬車で移動して数日かかるラクロア魔法学園にいるのだから。


(恐ろしい魔法使いだ。ここまでしっぽを見せないなんて――ならば強硬手段だ)


「この村の連中を殺してあぶり出してやる!! 我々をコケにした罰だ!! 上級魔法グレーターファイアボール!!」


 巨大な火球が村人に当たる。


「ぎゃ!! ……? あれ、熱くもなんとも無いぞ」


「!? 効かないだと!! まさか攻撃魔法無効まで付与してるのか!?」


 闇の魔導師は、シワシワの額から汗がにじみ出る。


「くそったれが!!! であればこれならどうだ!!! 超級魔法ブレイクスペル!!!」


 闇の魔導師は、魔法を消す魔法、ブレイクスペルを放つ。


「これならどうだ――……なに、失敗した……?」


 ブレイクスペルを使った者は、成功したか失敗したかが分かる。


「まさか、強化解除無効まで付与を……」


 闇の魔導師は、この瞬間――もうすでに自分たちには何一つ活路が無いことを直感した。


 そしてその直感が真実であることを、目の当たりにすることになる。


「「ぎゃあああああああああ!!!!!」」


「「いてええええええよおおおおおおおおおお!!!!!!」」


 突然、手下のモンスターたちが苦しみだす。


 そして、次々とその肉体が塵になって消滅する。


「どうした!!? ――もしやこの村に、【破邪の結界】が貼られているのか?!!」


 破邪の結界は、範囲内のモンスターの体力を少しずつ奪い続ける魔法だ。


 低レベルのモンスターであれば、3分程度で消滅する。


「ああ、我が軍勢が……!」


 ゴブリンは完全消滅、ウェアウルフも体力がほとんど奪われ、動くことも困難。


「ああ……あああああああああーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


 黒の魔導師は、発狂した。


「一体何が起こってるんだ……?」


「モンスターがこっちに襲いかかって来ないよ」


 逃げ惑っていた村人たちは、モンスターの状態に気づく。


「なんか知らねぇけど、奴ら、ほとんど全滅してないか?」


 村人たちは、逃げるのをやめて、観戦モードになっていた。


「あ! あれを見て!」


 村人の一人が指を指す。


 ずどどどどどどどど。


「あれは、村一番の暴れウシじゃねえか!!」


 この村ではみんなが知っている、村の家畜であるウシの中でも特に丈夫な体を持つ暴れウシが全力疾走で走り出した。


――闇の魔導師を目掛けて一直線に


「んもおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!(ぶっ殺してやるクソ野郎!!!!!!!)」


「ひぃぃっっ!!! なんだあのウシは?????」


 あれにぶつかればただでは済まない。


 闇の魔導師は逃げる決断をした。


「もう撤退だ! 超級魔法インビジブル!! ……あれ、発動しない??」


 闇の魔導師はパニック状態になっており、自分の魔力切れにすら気づかなかった。


「中級魔法フライぃぃいいいいいい!!! ファイアボールぅぅううううううう!!! なんで使えないんだよおおおおおおおおおおおおあああああああああああ!!!!!!!!!!」


 闇の魔導師は、ウシに激突した。


「ぐわあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ズドオオオオオオオーーーーーーーーーーン


 闇の魔導師は絶命。


 体力が無くなったモンスターも一人残らず全滅した。


 そして村人の犠牲者は、0人だった。


「……一体、なにがおきたんじゃ……?」


「さあ……女神ククリ様の思し召しかも……?」


 村人はみんな、唖然とするだけだった。


***


〜ツクモ視点〜


「俺が王国国民全員に付与した魔法は――物理攻撃回避、攻撃魔法無効、食いしばり、デバフ無効、状態異常無効、必中攻撃無効、貫通攻撃無効、HP自動回復、強化解除無効――そして人の集落にはすべて破邪の結界を張ってある……どうした? みんな目を丸くして?」


 全員、なんだか宇宙の真理を見たかのような表情をしている。


 ああ、そうか。


 俺の生徒とはいえ、まだまだ素人たちだ。


 エキスパートの力を見せつけては自分たちの実力の足りなさに思い悩むかもしれないな。


 俺は皆を励ますつもりで言葉をかけた。


「君たちも将来的にはできる」


「「無理です!!」」


 全力で言い返されるのであった。



―――――――――――――――――――


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