第21話 思い
「す、すげえ……これがあのダンジョンに眠っていたというのか……」
ギルドは騒然となる。
宝玉のあまりの美しさに、みんなが見入る。
そして、それよりも驚いているのは、その宝玉を持ち込んだのは小学生(エレメンタリー)の女の子であるビアンカだったことだ。
最初は嘘を疑われたが、ロイが詳細な情報をあれやこれや報告するうちに、真実であると誰もが認めることとなった。
受付嬢はビアンカに言った。
「クエスト達成を確認しました。すごいですね! あなたのような年齢でAランククエストを攻略したのはこれまでの記録には存在しません! 史上初ですよ!」
「いやぁ、私を教えてくれた先生のおかげですよ! あはは」
ビアンカはそんな謙遜を言った。
顔を赤くし、照れているようだ。
「確かにダンジョン攻略のイロハを教えたのは俺だ。けど、それを自分の強みに変えたのはビアンカの力だ」
「先生……」
「よく頑張ったな。100点満点だ」
俺はそう言って、ビアンカの頭をなでた。
ビアンカの実力は、凡人程度が用意した成績表では表しきれないことが明らかになった。
俺はこれからの新しい魔法教育に向けて、新たな成績の基準を作ることになるだろう。
自分で自分の仕事を増やすなど滅多にしないことだが、彼女たちのためだと考えれば力が湧いてくる。
「新たな勇者の誕生に乾杯だ!!」
ギルドの中にいた冒険者たちは勝手に酒盛りを始める。
俺に対しての悪評も払拭され、勇者の先生と呼ばれていた。
まあ悪くはない。
「それじゃあ、私は帰ります! お兄ちゃんが待ってるんで!」
ロイは俺たちに言った。
「あ、なら私もついていくよ。キッシュさんにお礼を言わないと」
「いいよそんなの。私からお兄ちゃんに言っとくよ」
ロイは、ニヤニヤしながらビアンカに言った。
「そんなことよりも、ツクモ先生とビアンカちゃんの時間をお邪魔するわけにはいきませんからね!」
「ちょっとー、ロイったら!」
ロイは俺とビアンカを好奇な目で見る。
ビアンカは俺のことをどう思ってるかははっきりとは知らないが、流石に男女の特別な関係では……
「……ねえ、先生」
ビアンカは顔を赤くして俺に言った。
「……」
なんだか、黙ったまま、言い出せない様子だ。
俺は、ビアンカが求めているであろう言葉を告げた。
「すぐに帰るのは惜しい、一緒に街を歩いてから帰ろう」
「え、いいの!」
「俺たちを待ってくれているアドリー達に土産の一つでも買わないといけないしな」
「うんうん! そうだね! じゃあ早速いこうか!」
そう言って、走るビアンカに俺は少し速歩きでついていくのだった。
***
二人で街を回る。
美味しいものを食べ、たくさん買い物をした。
クエストの報酬はたんまりあって、それらをまるで使い切らんかの勢いで遊び尽くした。
金遣いが荒くなるぞ、と注意したが、「大丈夫! また一緒にお金稼ぎしたらいいんだから問題ないよ!」というのだ。
なかなかに楽しい時間が過ぎていった。
***
「おかえりなさい! ビアンカ、先生!」
「ただいまアドリー!」
「って、なんなのその荷物の量! すごく多すぎない?!」
寮に帰りつく頃には、たくさんのお土産をアドリー達用に買っていた。
我ながら買いすぎたと思う。
「お土産もあるけどさ、いろんな土産話も用意したよ」
「え! どんな話?」
「私が新しい勇者になったって話」
「どういうこと!?」
「まあまあ、夕ご飯まで待って。シィとディアがいる時に話すよ」
そんなこんなで、寮に帰った後は、いつもどおりの騒がしい日常が戻ってきたのだった。
***
夜。
寝る直前に、ドアがノックされる。
「先生、起きてる?」
「ああ、どうした?」
ドアが開けられる。
ビアンカが入ってきた。
「遊びにきた」
「遊び……?」
そう言って、俺が横になっているベッドに座る。
「冗談だよ。……実は先生にお礼、ちゃんと言いたくてさ」
「……」
「わたしってさ、なんだかから回ってたよね。自分にはさ、他の人たちと比べて実力も才能もないって思ってた。だから、おちゃらけて周りを和ませるようってそんなことばかり考えてた。それが才能のない私の存在する意味のような気がして……」
俺は静かに聞く。
「今はわたしに実力も才能も無いなんて思ってないよ。……先生が教えてくれたから。ありがとう」
「ああ、どういたしまして」
「……どうして、先生は私を見てくれたの? バカっぽい子だったわたしを」
「バカっぽい?」
俺はキョトンとする。
「最初に会ったときから今まで、バカだとは少しも思わなかった」
「え……」
「強いて言えば、最初に胸元をチラチラ見せてきたことだけはバカっぽかったかもしれない」
「うう!」
酸っぱい顔をするビアンカ。
「だが、それは初めて会った俺が、君たちに害する存在かどうか試しただけの行為――みんなを守るためだったのだろ」
俺は優しく語りかける。
「君の学習の姿勢、頭の速さ、それにGクラスのみんなを思いやる心はとうていバカにできるようなものではない」
ビアンカのことを見てきた俺の本心だった。
ビアンカは瞳を涙で濡らしていた。
「ツクモせんせぇ、ありがとね……!」
抱きつくビアンカに、俺はそっと肩を抱き寄せる。
俺はビアンカが落ち着くまで、俺は抱きしめるのだった。
***
ビアンカはすっかり眠っていた。
俺のベッドの上で。
俺もビアンカのとなりで横になっていた。
……どこかのタイミングでビアンカを元の部屋に戻さねば。
そう思った瞬間、ドアが開け放たれる。
また誰か来たようだ。
「んもう、ビアンカが部屋に帰ってこないって思ったら、先生と寝てる!」
アドリーのようだ。
ジロジロと俺たちを見る。
俺はとっさに目を閉じており、寝たふりをしていた。
……なぜそんなことをしたのかは、特に理由は無い。
「先生も寝てる……」
ビアンカはキョロキョロ見回して、こっそりと忍び足でベッドに近づいた。
「私も一緒に寝ようかな」
なんてことを言ってるんだ、アドリーよ。
「ビアンカだけだったらずるいもん。……けど二人じめなら……うん、大丈夫」
何が大丈夫なのだろう?
そうして、アドリーは俺の隣で横になった。
俺を真ん中に、川の字で眠る。
ふたりとも、寝てる時の横顔が天使のように可愛らしい。
そして、肌のぬくもりを感じるだけでも幸せな気持ちになる。
……業が深くなるのを感じたが、流石に気のせいだろう。
俺も、彼女たちの暖かさを感じながら眠りにつくのだった。
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