第19話 メタルゴーレムの昇天
夜。
キッシュとロイの兄弟のご厚意に甘え、二人の家に泊まることになった。
「ロイ、ツクモさん達のことは頼んだよ。僕はどうもかなり疲れてるみたいだからすぐに休むよ」
そう言って、すぐに自分の部屋に入って出てこなくなった。
家には、すでに眠ったであろうキッシュを覗いては、俺、ビアンカ、ロイだけだ。
「お二人の寝る場所ですが、私と同じ部屋で構いませんよね」
「うん! 一緒に寝よう!」
「いやいや、即答しないでくれ。こういうときは男女で分かれるものじゃないか」
「えーいいじゃん。先生も一緒に寝ようよ!」
そうなると、俺は二人の異性と同じ部屋に寝ることになる。
不用意に手を出さないようにするのは当然だが、なかなかまずいのではないだろうか。
「ツクモさんも出来れば、というかむしろ一緒に寝てほしいです!」
「いいのか……?」
ロイの発言に、俺は少しだけ驚いた。
「私もツクモさんとビアンカちゃんともっとお話していたいです! お二人がどんなふうに過ごしているのかとか、学校がどんなところなのかすごく気になりますので!」
「なるほどな」
ならば俺も断る理由がない。
「それじゃあ決まり! ちょう楽しみだね! 先生!」
ビアンカはすごく嬉しそうにしていた。
「でもお兄ちゃんには内緒ですよ。お兄ちゃんシスコンなところあって、私に近づく男の人を追っ払おうとするんですよ!」
どうも彼は妹相手に心配性なところがあるようだ。
「それに、わたしが無防備だから危なっかしい、みたいなこと言って脅かそうとするんです! ツクモさんはどう思いますか?」
プンプンと、怒った時、ロイは体を揺らす。
ロイの胸が大きく一緒に揺れた。
いや、俺と同じ部屋で寝ようとしてる時点で、だいぶ無防備なのでは、と思ったがいい感じにごまかした。
***
俺は二人としばらく話した。
率直にいえば、たわいのない話。
流行りのアクセサリーだとか
どんな友達がいてどんな話をするだとか
まあ、そんな話をした。
少女とはいえ、異性。
内心、意識しながらも、彼女たちに見透かされないように受け答えする。
……というか、なぜ俺はこんなにビアンカ達のことを意識してるのだろうか?
心当たりはある。
俺は子供時代に、同世代のやつらとは、ほとんど話をしたことが無かった。
グレゴーラ達にいじめられていたから当然だ。
初等部を退学してから、俺はずっと大人としか交流が無かった。
師匠とは二人きりがほとんどで、別れたあとはずっとソロの冒険者として活動して、ジャジャのパーティーでも全員が俺よりも年上だった。
まあ、要するに、もし普通に青春が送れたならきっと、今のような感じで、きっと誰かに普通に恋したのではないか、と俺はそう思った。
「ぐう……すや……」
「むにゃ……むにゃ……」
時間はある程度経った。
ビアンカとロイは寝ていた。
幸せそうに眠るびあビアンカに、俺は小さな声で語りかける。
「ビアンカ、君には君だけの輝きがある。俺にはないものを、ビアンカは――Gクラスのみんなはもっている。だから俺は、その輝きをもっと光らせる。もし叶うのであれば、君たちにも、君たちが持つ輝きを信じてほしい」
「むにゅむにゅ……」
「ん?」
ビアンカは寝たまま、俺の寝間着の袖を掴んだ。
そして一言だけ、言葉を発した。
「ツクモ先生ぇ、だいすき……」
俺は自分の顔が緩むのを自覚した。
***
朝。
目が覚めると、両腕に、ビアンカとロイの胸の感触があった。
どうやら二人はいつの間にか俺のそれぞれの片腕をだきまくらにしたらしい。
「つ、ツクモさん?! なんで僕の妹とハーレムやってるんですか?!」
「これはその、冒険する仲間として信頼を深めるのは当然だからだ」
その光景を見たキッシュに色々不信感を覚えられたが、なんとか言いくるめた。
……正直苦し紛れ感がすごいが、まあいいだろう。
今日はダンジョンに向かう日だ。
俺とビアンカとロイは、起きて準備を済ませて、ダンジョンへと向かった。
***
「罠探知、発動」
ビアンカはスクロールの呪文を唱えた。
これによって、フロア全体の罠の場所が明らかになる。
「よし、進もう」
俺とビアンカ、ロイの3人は慎重に進んだ。
ロイの手にはランプがあるが、布を覆い被せ、かなり光量を落としていた。
その上、3人は体にニオイ消しの塗り薬を使い、敵に見つからないようにした。
そうして進んで行くと、先頭のビアンカは突然手を挙げる。
目の前にモンスターがいた場合の合図だ。
すぐさま俺たちは物陰に身を潜める。
そしてロイはランプの光が見えなくなるまで、更に布を覆い被せた。
目の前にはモンスターであるゴブリンが通り過ぎていく。
自分たちには気づかないままゴブリンはどこかに行った。
ビアンカは周囲を確認した後、俺達に合図して先に進んでいった。
***
狭い通路にまでたどり着く。
今までは自分たちが横並びしても余裕がある広さだったが、この先は一列で進むほかないだろう。
この場合だと、自分たちよりも体の小さい敵がより脅威になる。
このあたりに、ヤミコウモリというコウモリ型のモンスターが潜んでいると、キッシュの記録には残っていた。
ビアンカは、ヤミコウモリが潜んでいるであろ通路の前に立ち、ファイアショートソードを向けた。
「魔力注入っと……」
剣の刃に、熱が発せられる。
そのまましばらく時間が経過する。
すると、熱に反応したコウモリの大群が、一斉に襲いかかってくる。
だがしかし、その大群は通路から一方通行のため、魔法一つで一網打尽にすることができる。
「よし、ファイアボール」
ぎゃおおおおお!
通路先のコウモリはすべて焼け死ぬことになった。
俺たちは先へと進んでいった。
***
そして俺たちは、グールの大群が潜んでいるとされている通路へとたどり着いた。
「じゃあ、作戦通り……グールをできる限り倒していこう」
ビアンカは、グールの群れに気付かれないように、スクロールから魔法を放った。
「ストーンウォール」
グールの群れから、手前の10匹とを隔離させた。
グールの群れは、何か攻撃されたことに気づくが、石の壁が立ちふさがり、俺たちの元に向かうことが出来ない。
そして、手前の10匹と俺達の間には壁はないため、そいつらがこちらに向かって突っ込んできた。
「「ぎゃおおおおお!!!」」
「よし、このまま――」
そして、先頭のグールがある場所を踏んだ瞬間、その地面は崩れ落ち、そのままグールも地面に落ちていく。
落とし穴だ。
そして、落とし穴の中には、長い刃が突き立てられており、グールの体に次々と突き刺さる。
「作戦通りぃ……!」
小さな声でガッツポーズを取る。
「すごいです、ビアンカちゃん!」
ロイもそう褒めた。
もともと、この落とし穴はすでにあったものだ。
それをビアンカは利用し、また、グールにもダメージが通るように、落とし穴の刃に火属性を付与するなど工夫していた。
次第に、グールは落とし穴の中で灰になっていった。
「よし、この作戦を繰り返していこう」
そうして、ストーンウォールで分断したあと、グールを落とし穴へ誘導して、倒す。
これを繰り返し続けた結果、全てのグールは消滅した。
「よし。これで敵はいなくなったし、たくさんのグールの素材が集まったね」
ビアンカはそういった。
そして、落とし穴から、倒したグールの灰を取り出した。
手にはグローブを付け、体につかないように慎重にそれを行う。
「アイテム錬成、ゾンビパウダー」
ビアンカは、俺が授業で教えた【アイテム錬成】を使用し、激レアアイテムであるゾンビパウダーを生成した。
「こ……これがゾンビパウダーですか……」
「ああ、間違いない。肉体に触れた者はゾンビ――人であればグールになってしまうアイテムだ。絶対に素肌で触れるなよ」
ロイを脅かすつもりはないが、危険なのは事実だ。
「ひぃ! 怖いからやだ! 持ちたくない!」
「まあまあ、ちゃんと袋で2重に縛ってるから大丈夫だって!」
ビアンカはなんとかロイを諭す。
しぶしぶだがもってくれるようだ。
「これで最後のアイテムは揃ったね。それじゃ、ボスの元へ――」
ぐー、とお腹のなった音がした。
「はうー、お腹がすいちゃいました……てへへ」
ロイがそういった。
「それじゃあ、まずは休憩しよう」
俺たちは休憩を取ってから先へ向かうのだった。
***
「ピポポポポ。侵入者発見、危険度C。排除モードに移行する」
「ようし、ボスのお出ましだね」
俺たちは最後の階層へとたどり着いた。
メタルゴーレム、かなりの強敵だろう。
直接戦えばビアンカに勝ち目はない。
それどころか、この周囲一帯に、【マジックカウンター】が施されている。
魔法を使えばそのままダメージとして跳ね返る。
そして、メタルゴーレムは物理ダメージを無効化することができる。
上級の冒険者ですら攻略が困難であろうと思われた。
「それじゃあ、ロイちゃん。盾の準備はいい?」
「はい! いつでもいいです!」
「よし、それじゃあ、やっちまいましょうか!」
ビアンカは叫んだ。
ぎゅいいいいん。
メタルゴーレムはこちらに向かって加速した。
「そりゃ!」
ビアンカは袋を投げつけた。
「!!」
袋はメタルゴーレムの体にあたり、破け、白い粉が空中に舞った。
「問題なし。ニンゲンの悪あがき。問題なし」
白い煙が舞いながらも、目を光らせたメタルゴーレムはこちらに向かって突進した。
「早く盾の後ろに!」
ロイの合図を聞き、ビアンカはロイが構えた盾の後ろへと隠れた。
この盾は強力な一品だが、あまりの大きさと重さのため、これを装備したままの戦闘はほとんどの者はできない。
しかし、盾を地面に置いて構えるだけならロイでも可能だった。
たったの一発だけなら防ぐだけならば全く問題なかった。
「ニンゲン、終わりだ」
メタルゴーレムはその巨大な拳をこちらの盾目掛けて、拳を打ち込んだ。
拳と盾がぶつかり合う。
「終わりだね。ゴーレムくん」
同じ鉄同士。
ぶつかった瞬間に、火花が飛び散る。
その火花が周囲に舞った白い粉に飛び散り、誘爆する。
大爆発。
「!!?」
粉塵爆発という科学現象だ。
巨大な炎がメタルゴーレムを包み込む。
「ピポッっ、ぽぽぽ、ぴぽ……損傷率30%」
俺とビアンカとロイは爆発が終わった後、盾から出る。
ボロボロの装甲。
だがメタルゴーレムはまだ停止していないようだ。
「……まだ動ける……この程度の損傷は問題な――」
「いいや、どう見ても終わりだね」
「!? なに……」
ボロボロの装甲から、新しい金属が不規則に出てくる。
例えるなら、怪我した時に出てくるカサブタの代わりに、尖った石が出てくるかのような状況だ。
メタルゴーレムは、全身から金属が突き出てきて、それが体中の関節と干渉して、全く動けなくなる。
「あの白い粉、ゾンビパウダーを使ったのさ。今のあんたはメタルゴーレム・ゾンビってわけ」
「そんな馬鹿な」
「先生が教えてくれたよ。ゴーレム相手でもゾンビになるって。――ゾンビの特徴は、急激な肉体の劣化と急激な肉体の再生。普通の動物の肉は伸びたり縮んだりするから多少体の形が変わっても動ける。だからゾンビ化して体が壊れようが再生しようが、どうなろうとも問題ない。けどあんたの体は金属でできてるから、少しでも形や大きさが変わるだけで全く動けなくなるってわけさ」
ロイはビアンカに小瓶を手渡す。
「はい、ビアンカちゃん」
「ありがとう」
ビアンカは動かなくなったメタルゴーレムに、向かってその小瓶の中身をかけた。
「!?、もしやこれは……聖水……そんな物が効くはずがな――ぐぬあああああーーーーーー!!!!」
「残念、ゾンビだから聞くんだよねぇ」
「損傷率が70%を突破――データ更新、このニンゲンは危険すぎる!! 危険度Cから危険度SSSへ!! 申し訳ございません――イビルワン様ぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
そうして、メタルゴーレムの体は消滅――昇天していった。
「いやったーーー!! 勝利ーーー!!」
「やりましたね! 私達!!」
二人は大喜びした。
こうして、ビアンカはAランクのクエスト――勇者が突破出来なかった最大の難問を見事に突破したのだった。
―――――――――――――――――――
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
と思ったら
下にある☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星3つ、まあまあ読めたら星2つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
フォローもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます