第16話 勇者、魔族に命乞いし人々を売る

「よし、ここが目的の階層だな」


 ジャジャ、ガートル、キッシュの3人は階段を降りた先に、広いフロアに出た。


 地図にはここが最下層と記されていた。


 依頼の目的である秘宝があるはずだ。


 しかし、この先を簡単に進めるはずも無い。


 フロアの奥には、5メートルは超えているであろう巨大なメタルゴーレムが佇んでいた。


 メタルゴーレムの体は鋼鉄で出来ており、通常の石で出来たゴーレムとは完全に別物であろう防御力があることはすぐに分かる。


 そして、おそらくこのメタルゴーレムの先に、依頼の目的であるお宝が眠っているのであろう。


「ようやくボスのお出ましだ。さっさとぶちのめしてやる」


 勇者ジャジャは魔剣リベリオンを抜いた。


 ジャジャは、ここに来るまで、モンスターと何度も戦闘を行ったとは思えないほどの余裕さを見せていた。


「ピポポポポポ……侵入者確認」


 メタルゴーレムは目を光らせ、言葉を発する。


 メタルゴーレムには口は無く、表情も無い。


 無機質な人形そのものだ。


 勇者パーティーをその機械的な目でにらみつける。


「危険度レベル測定……危険度レベルS。――警戒度レベル最大に設定。即時排除を開始する」


 メタルゴーレムは動き出した。


 こちら目掛けて走るメタルゴーレムに、竜の勇者は吠えた。


「俺様に逆らうとはいい度胸だ! 覇王級魔法フレアドラゴニックフォーゼ!!!」


 ジャジャが、【竜の勇者】と呼ばれる所以は、人間の父と、フレアドラゴンの母との間に生まれたハーフだからである。


 普段の姿は人間であるが、この魔法を使用することで、30分間だけ、フレアドラゴンになることが出来るのである。


 フレアドラゴンは最上位クラスのモンスターであり、この姿になったジャジャにもはや敵などいないのだが――


「【マジックカウンター】発動」


 何者かが、あるトラップを発動した。


 誰にも見えない場所で、勇者たちを覗きながら、きひひ、と不気味な笑い声を上げる。


 その瞬間、ジャジャの体に激痛が走った。


「ぐは……!?」


 突如、ジャジャの変化が止まり、人間の姿のまま、苦しみだす。


「なんだこの痛みは……? 全身が熱い……!」


 膝をつくジャジャに、メタルゴーレムは殴りかかった。


「ぬごっ!!」


 ジャジャは大きく殴り飛ばされる。


 なんとか魔剣リベリオンで受け止めたため、体はバラバラにはならずに済んだ。


「クソ!!!!! どういうことだ!!!!」


 叫ぶジャジャ。


 ガートルはこのジャジャの痛みの正体に気がついた。


「これは……【マジックカウンター】じゃ……」


「マジックカウンター?」


 キッシュは尋ねる。


「この部屋全体に掛けられとる魔法じゃ」


 ――マジックカウンター


 この魔法の効果は、『範囲内にいる者は敵味方問わず、魔法を使うとダメージを受ける』


 そのダメージ量は使用した分の魔力量に比例する。


 強力な魔法を使う者であればあるほど、不利を強いられる。


「良くも俺様をコケにしてくれたな!! だったら俺様の剣でなぶり殺してやる!!」


 魔剣リベリオンを人間の姿のまま構えたジャジャは、メタルゴーレムに一撃を叩き込んだ。


 ガキン、と大きな音が鳴り響く。


「効いてないだと!?」


 全くダメージを受けていないメタルゴーレム。


 それを見たガートルはメタルゴーレムを観察する。


「ま、まさかこのメタルゴーレム、物理攻撃無効が付与されとる……!」


「な、何?!」


 物理攻撃が効かない以上、魔法を使うしか無い。


 しかし、魔法を使えば、ダメージが自分に返ってくる。


 こちらの手数では、相手に何も手が出ない状況だった。


「ピポポポポポ!」


 ギュインギュインと、メタルゴーレムは目にも留まらぬ速さで動き始めた。


 そしてジャジャに体当たりを仕掛けた。


「ちぃ!!!!」


 なんとか見切って避ける。


 しかし、何度もメタルゴーレムは体当たりを仕掛ける。


 規則的にかと思えば、時には不規則にフェイントを入れており、ジャジャは避けるので手一杯になる。


 攻撃が直撃するのは時間の問題だった。


「おい! ガートル!」


 ジャジャは叫ぶ。


「お前が目的のアイテムを奪いに行け!!」


 メタルゴーレムはジャジャに集中攻撃している。


 今ならフロアを超えて、目的の秘宝を奪えるはずであった。


 ガートルはすぐに動いた。


「このガートル、命に替えても目的のアイテムを奪ってみせますぞ!」


 意気込むガートルに、キッシュは言った。


「待ってください! まだ何かトラップがあるかもしれません! ここで愚直に突っ込むのは危険です!」


「黙れ!!! 若造!!!」


 ガートルはブチギレた。


「お前はジャジャ様にどれだけ逆らえば気が済むのだ!!! あのゴミツクモと全く変わらぬではないか!!! わしが貴様に求める役割はただ一つ――勇者ジャジャ様の冒険譚を盛り上げるだけの、ただの笑える道化役じゃ!!!」


「はあ???」


 キッシュは明らかに混乱していた。


 道化?


 一体何を言っているのだ、と。


 あんな大きな大人が、まるで子供のようにピエロが必要だと言うのだろうか?


 キッシュにとって、全くその理由がわからなかった。


「ようし!! 今じゃ!!!」


 ガートルはジャジャがなんとか切り開いた活路を通り、フロアを駆け抜けた。


「ようし! たどり着きましたぞ!」


 なんと、キッシュが危惧した、トラップには引っかからず、ガートルは目的の場所までたどり着いた。


 そして、ガートルは目の前に、自分の腰の高さほどの大きさの台座を見つけた。


 そしてその台座の上には、手の平よりも一回り大きい宝玉が埋め込まれていた。


「これじゃ!! これが目的のアイテムじゃ!!」


 非常に価値のある宝玉なのはひと目で分かった。


 場合によっては、国を傾かせるのでは、と思わせるほどの美しさが秘められていた。


「これで、目標は達成じゃ!!」


 これを持ち帰り、脱出すればメタルゴーレムは倒せずとも、依頼は達成できる。


 ラズビィを失ってしまったが、また仲間は探せば良い。


 とにかくこれで、勇者ジャジャの名誉を汚さずにすむ。


 そう、ガートルは考えながら、宝玉を手にとった――


 ガタガタガタ


「へ?」


 トラップが発動した。


 ジャジャ、ガートル、キッシュは、ダンジョン全体で異変が起きてることに気づいた。


「こ、これは……! ダンジョンの構造が、変わろうとしている……!」


 キッシュは叫んだ。


 彼の言う通り、ダンジョンの通路やフロアが次々とスライドして、構造が入れ替わった。


「ジャジャさ――」


「ガートル!!」


 そして、ガートルはダンジョンの変化に巻き込まれて、ジャジャとキッシュとは別の場所へと離れ離れになってしまった。


***


 ダンジョンの変化が終わり、残されたジャジャとキッシュは周囲を見回す。


 これまで戦っていたメタルゴーレムは目の前にいるが、攻撃をやめ、佇んでいた。


「何もしてこない……?」


 なぜ動かなくなったのか分からないが、逃げるチャンスは今しかない。


 しかし、勇者はそれを許さなかった。


「あのクソゴーレム!!! 今こそぶっ壊す!!!!」


「やめてください!! これでまた動き出したらどうするんですか!!!」


「んだよ!!! ゴミクズが俺様に何指図してんだ!!!! 役立たずのお荷物野郎が!!!!!」


 勇者は、自分のことは一切顧みず、キッシュにわめきちらす。


 その瞬間、キッシュの堪忍袋の緒が切れた。


 そしてキッシュは、これまで溜まっていた鬱憤のすべてをぶちまけた。


「ゴミクズはあなた達そのものだ!!!!」


「……な?!」


「そもそも何なんですかあなた達は!!! 本当に勇者なんですか??? あなた達は人を何だと思ってるんですか!!! 無茶な命令に、人の言葉を聞かないし、あなた達のあまりの幼稚さに反吐が出ますよ!!!! あなた達はそんな態度を人に取っていいなんて本当に思っているんですか???? だとしたら、この世の中のためにここで死んでくれる方がマシですよ!!!!!」


「雑用係ぃ!!!!! テメエ何生意気な口聞いてんだコラァ!!!!!! 勇者ジャジャだぞ!!!!!! この世で一番強い最強の、竜の勇者ジャジャに逆らって生きて帰れると思っているのか!!!!!」


「はあ???? 何か言われた程度で人を殺そうっていうんですか??? とても勇者の言葉とは思えませんね!!!! まるでブタ箱に入ってる、ゴミ野郎のいいそうな言葉だ!!!!」


 キッシュの怒りは止まるところを知らない。


 キッシュは勇者パーティーに期待していたのだ。


 噂のとおりなら、何度も苛烈な戦いを切り抜けてはたくさんの人々を魔族やモンスターの恐怖から守り抜いた伝説のパーティーであるはずだからだ。


 だが蓋を開ければ、ご覧の有様。


 伝説は噂だけで、自分を含めた、たくさんの人々が騙されているのだと、キッシュは体の芯にまでわからされた。


「ぬぎぎぎぎぎ!!!! 殺す!!!!!! 殺す!!!!!!!!」


 そう言って、ジャジャは剣をキッシュに向けようとした瞬間――


 ボトリ、と剣を手から落とした。


「え……」


 キッシュは呆然とする。


「な、なぜだ? 力が抜けていく……」


 ジャジャは自分の体の異変に気づいた。


 ありふれた力のすべてが、体から抜け落ちるのを感じた。


 おそらく今のままでは、これまで扱ってきた剣術のすべてが使えないどころか、剣を振ることさえ怪しいに違いない。


「はっはっは――」


「誰だ!!」


「私は、ここのダンジョン・マスター。イビルワンと申す者」


 その者は突如として現れ、勇者達の前にいるメタルゴーレムの肩の上に立っていた。


 魔族だ。


 人と同様に、手足があるものの、肌は灰色、目は赤く、昆虫のような羽を持ち、そして、紳士が着こなすようなタキシードを着ていた。


「おいテメエがここのボスだな。何をしやがった?」


「贋作・リゾーバーパワーリング――この指輪の名前です」


 イビルワンが差し出したのは、粉々に砕けた破片だった。


「これを使えば、相手の力を奪うことが出来るのです。……ただ、コピー品、つまり贋作であるがゆえの使い切りのアイテム。なのですでに砕けてしまってますが」


 そのアイテムの力を使って、ジャジャの力を奪ったようだ。


「ぐぬぬぬぬぬ――クソが!!!!!!!!! モンスターごときが生意気な真似をぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」


 ジャジャは叫んだ。


「エアスラッシュ!!!!!!! 3連爆走斬!!!!!!! フレアドラゴニックフォーゼ!!!!!! ……ヌガああああああああああーーーー!!!! 何も出やがらねえええええええええええーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


 ジャジャはむしろ、叫びすぎて息を切らす始末である。


「もうあなた達パーティーに戦う戦力はありません。派手な女の騎士も、魔法使いの老人もすでに捕らえられています」


 仲間は戦えないキッシュを除いて全滅。


 勇者は力を奪われ、戦うこともままならない。


 もうおしまいだった。


「お別れですね、ジャジャさん」


「は?」


 そう告げたのはキッシュだ。


 そして、荷物から一つのスクロールを取り出した。


「そ、それは……! 帰還アイテムか!!」


 帰還アイテム。


 使用することで、どんなダンジョンからも、近くの街まで戻ることが出来る希少なアイテムだ。


 キッシュは、貴重であるがゆえに、ここぞという時のために大切に保管してきた。


 ただし、そのアイテムには一つ問題があった。


 それは、たったの一人だけしか使用できない、という制限があることだ。


「でかした!! それを俺に寄越せ――ぐはぁ!!!」


 ジャジャがキッシュに手を伸ばした瞬間、キッシュはジャジャを蹴り飛ばした。


「邪魔をするなああああああああ!!!!!!! これは僕の帰還アイテムだああああああああああああ!!!!!!!!!」


 キッシュの全力の蹴りをみぞおちに喰らい、呼吸困難に陥るジャジャ。


「かはっ、かはっ……ま゛、ま゛っ゛で……!」


 そんなジャジャに見向きもせず、キッシュは帰還アイテムを使用して、ダンジョンから脱出した。


 ジャジャ一人が、このダンジョンに取り残されたのだ。


「ああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」


 喚き叫ぶジャジャに、イビルワンはつぶやいた。


「全く、負け犬の遠吠え以下ですね、これは……とはいえ」


 イビルワンは、不思議そうな声で言った。


「確かに、奪った力の量を考えれば、あなたが勇者で間違いなさそうですが……噂とは違いますね」


「う、うわさだと?? どういうことだぁ???」


 ジャジャは、気が動転しながらも、イビルワンに質問した。


 その問いに、イビルワンは正直に答えた。


「ええ、私達魔族が住んでいる国、魔国ベルフォートには、あなた達勇者パーティーの情報がまとめられています。もちろんあなた達の活躍を目の当たりにした者もいます。それらの情報を統括すると、【勇者パーティーの最も恐るべき点は天才的頭脳を持つ司令塔がいるということだ。隙が一つもないほどの緻密な作戦を練り、また、どれだけこちらが周到に準備しても、それを上回る準備と判断によって、どんな状況からでも逆転されてしまう】と」


「……は?」


 ジャジャには、なんのことか理解できなかった。


 司令塔だと? 作戦だと? 準備だと?


 どれも自分に心当たりが無かったからだ。


 ――正確には、とある一人の男の顔が浮かんではいたのだが、ジャジャは信じたくないのだ。


「事実、我々魔族は計14回、勇者パーティーに襲撃を掛けたが、その敵ながら鮮やかと称賛したくなるような作戦によって、そのすべてが返り討ちになったという記録が残っています。……それらの作戦を指揮したと思われる人物の名前は確か――ツクモ・いつ」


「ふざけるなああああああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」


 ジャジャは、我を忘れて叫んだ。


「あのゴミ野郎が称賛だとおぉおおおおお!!!!!!!!!!! んなわけねえええええーーーーだろうがあああああああああ!!!!!!!!!!」


 ツクモへの憎しみがジャジャを真っ黒に塗りつぶす。


「クソがああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!! ツクモイツキ!!!!!! ツクモイツキ!!!!!! ツクモイツキ!!!!!! ツクモイツキ!!!!!! ツクモイツキ!!!!!! ツクモイツキ!!!!!! ツクモイツキ!!!!!! ツクモイツキ!!!!!! ツクモイツキ!!!!!! ツクモイツキ!!!!!! ツクモイツキ!!!!!! ツクモイツキ!!!!!! ツクモイツキぃぃぃぃいいいいいいいいいいーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


 あまりの無様な姿に、イビルワンはつぶやいた。


「全く、負け犬の遠吠え以下……いいえ未満ですねこれは」


 イビルワンは、手をジャジャに向け、魔法の詠唱を始めた。


「もうあなたに興味はありません。このまま死んでください」


「は、はひぃ……!」


 もうジャジャには、逃げることすら不可能だった。


「イヤだ! 死ぬのはイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ――イヤだ!……っは!」


 しかし、極限の窮地において、ジャジャの脳みそが突然、フルに活性し始めた。


 これまでは脳筋でしかなかったジャジャは、今、この瞬間において、人並み以上の知能を発揮したのだ――


「お前ら魔国の偉いやつと話がしたい!!」


 突然、話し合いという言葉が出たことに、イビルワンは魔法の詠唱を止め、首をかしげた。


「どういうことですか?」


「俺には、王国の政治を担っているある人物とコネクションがある」


「……ほう」


「断言するが、そいつは自分の為なら、国民の命すら売り飛ばすことが出来るクズ野郎だ。――もしそいつと手を組めば、お前達魔族にとって、とても都合がいいんじゃないか?」


「ふむ」


 イビルワンは数秒だけ悩んだ後、こういった。


「いいでしょう。その話、私達魔国を治める者の一人、魔国宰相ベルゼーブ様にお伝えしましょう。もちろん結論が出るまではあなた達勇者パーティーの命は保証しましょう」


 勇者ジャジャは人類を裏切った。


 そして、邪悪な心の持ち主たちが結束し、人類にとって最低最悪の同盟を結ぶことになったのであった。



―――――――――――――――――


星評価、フォロー、感想、お待ちしてます!!!!


新作書いたのでよろしくです!


すでに死んでるけど、タタリ神ちゃんに好かれすぎてやばい

https://kakuyomu.jp/works/16816452219719234488

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