第15話 ラズビィ、散る
結論だけ言えば、勇者パーティーは壊滅した。
〜壊滅1時間前、勇者パーティーのダンジョン探索〜
「ぎゃーーー!」
ラズビィがトラップに引っかかった。
飛び出てきた矢が、腕を刺さる。
「マジいてええええええし!!!」
「その悲鳴だと、なんだか大したこと無いように聞こえますね……」
「はよ治せや!! ボケナス!!」
雇われポーター兼、雑用係のキッシュはポーションを取り出し、ラズビィの怪我に掛けた。
その後、5秒もしないうちにラズビィはキッシュに文句をつけた。
「なにこのポーション? 治すのめっちゃ時間かかるくない?」
「え、いやいや普通のポーションなんて、こんなもんじゃないですか……ハイポーションでも無いかぎり、怪我が消えるのは30分以上はかかりますよ」
キッシュは常識をラズビィに語ったが、ラズビィは反論した。
「だったらさぁ! ハイポーション使えや!!」
「そ、そんな高級品、ポイポイ使えませんよ!」
「きんも! マジてめー頭おかしい!! 前の雑用係だったらすぐに治せてたし!!」
前の雑用係とは、ツクモのことである。
(嘘でしょ、そんな怪我にハイポーションなんて使ってたの?!……いやもし、そのツクモって人がアイテム錬成を使えるなら――)
アイテム錬成は、素材さえあれば特定のアイテムを作ることの出来るスキルである。
ハイポーションを作ることも出来るが、相応のスキルレベルが必要である。
もしツクモが高レベルのアイテム錬成を使えるのであれば、確かに辻褄は合う。
そうキッシュは考えた。
しかし、そんな有能なメンバーをなぜやめさせたのだろうか、と一瞬キッシュの頭の中をよぎったが、その答えは明白だ。
(なんだよこいつら、馬鹿すぎるだろ)
そんなことを考えながら進んだ先に、分かれ道があった。
「おい、どっちが正解の道だ?」
ジャジャはキッシュに尋ねた。
キッシュは、先遣隊が必死に書き起こしたものであろう地図を見て言った。
「右の道の方は、地図に何も情報がありません」
地図にない道、この場合、2つの可能性が考えられた。
一つは単純に、先遣隊がその道を探索してなかった可能性。
もう一つは、新しく作られた道である可能性だ。
前者の場合は、そもそも地図に補足としてそう記載する場合がほとんどなので、後者が理由として考えて間違いなさそうだった。
「右の道には入らないように――」
「じゃあ、右に進むぞ」
「え!?」
この男は自分の話を聞いてなかったのだろうか、とキッシュは思った。
「勘だ。俺様の勘が右だと言ってるんだ。何か文句があるか」
「文句ありますよ! どこかに潜んでるダンジョンマスターが作った道かもしれないんですよ!! トラップだらけに決まっています!!」
ダンジョンマスターとは、ダンジョンを作り、管理する者のことだ。
そして、ダンジョンマスターはただのモンスターではなく、人類と敵対している種族――魔族であることがほとんどである。
「だったら右に進む。俺様たちがトラップをバリバリ破壊しながら進む様を見せつけて、生意気なダンジョンマスターを震え上がらせてやるのだ!! がっはっは!!」
「えぇ……」
困惑するキッシュだったが、結局パーティーは右の道へと進むことになった。
***
進んだ先は、グールの巣穴だった。
「エアスラッシュ!!」
「オラオラ!!! 死ねやキモゾンビ共!!!」
ジャジャとラズビィは必死に大量のグールを切り伏せる。
「さすがですジャジャ様ー! ファイトですジャジャ様ー!!」
魔力がほとんど残っていないガートルは戦闘に参加せず後ろから声援を送っていた。
「さすがだ、じゃないですよ……」
キッシュは今の状況をよく思っていなかった。
確かにグールの体は次々と勇者たちによって体を切断されて、倒してるかのように見えるが、しかし――
ブクブクブク。
切断面から新たな肉体が生成され、グールは元の姿へと戻っていく。
「再生を止めるには、火属性魔法を使うか、聖水を使うしか無いですが、今の準備じゃどちらの作戦も不可能です!」
火属性魔法のスクロールも、聖水もあるが、敵の数に対して明らかに量が足りていなかった。
「ああ?? うるせえ!! 突っ込んでなぎたおしゃ問題ないだろ!!」
そういうジャジャは、自分の背丈よりも遥かに大きい、使えば死ぬと言い伝えられる魔剣リベリオンを振り回し、グールを薙ぎ払っていた。
がしかし、一方のラズビィはというと
「うげえええええええ!! 噛まれたし!!!」
グールを抑えきれず、1匹のグールに噛まれてしまう。
ラズビィはキッシュの方を向いて叫んだ。
「おい!!! ハイポーションもってこいや!!!」
「――ええい、仕方ないですね」
キッシュは、本来ならハイポーションを温存しておきたかったものの、このままラズビィに倒れられればグールは自分たちの方へとなだれ込んでくるのが目に見えていたので、使うことにした。
「言われたらはよもってこいや!! ……くはーーー!! きっくぅうううう!!」
ラズビィはハイポーションをキメた。
「というか、パラディンなのに、なんでそんな軽装なのですか?」
パラディンという職業の大半の人達は頑丈な鎧に身を包んでいる。
無論すべてがそうなっているわけではなく、軽装したパラディンもいる。
その場合は回避重視のタンク役になる。
だが、ラズビィはそこまで素早く動けてるとは客観的に見ても思えない。
その上、足も腕もお腹も鎧に包まれておらず、ビキニアーマーにあろうことか金銀、宝石の装飾品ばかり埋め込まれた派手派手な格好をしている。
これではパーティーを守れるとは思えない。
「はあ? 君正気? この格好見て分かんねえとかマジ受けるんですけど?」
「は、はぁ……」
「この格好がまじでイケイケのちょ―流行りの最先端なわけだから! モンスターとかもさ、みんなあたしをガン見してくんの!!」
「はぁ……」
「それ実際やってることパラディンじゃん!! みんなの気をひいちゃうあたし、ちょーヤバくない??」
「……んん?」
「やば!! あたしってば絶対パラディンじゃん!! チョー受けるし!!! だからあたしパラディンやってんの!!! わかる??」
「……えぇ」
やばい、言ってることがあまりにも理解できない。
そう思うキッシュだった。
「それじゃあ、また死体ぶっ飛ばしてくるわ」
意気揚々とグール達に突っ込むラズビィ。
「ぎゃーーー!! また噛まれたし!!」
だが、10秒も持たずにラズビィはやられてしまった。
「くそう、こんなバカなんかにハイポーションを……」
自分を呪うキッシュであった。
***
「あーもう!! めんどくせぇ!!」
グールは何度も再生して、こちらを襲い続ける。
そのせいで先に進められず、ジリ貧になっていた。
「くそ、だったら、フレアドラゴニックフォーゼを使って――」
フレアドラゴニックフォーゼ。
勇者ジャジャの最強魔法の一つであるが、ここで使うにはある一つの問題があった。
通路が狭く、仲間を巻き込む危険性があること、である。
「ジャジャ様!! でしたら他にいい案がございます!!」
ガートルはジャジャに、こういった。
「ラズビィにはグールを引きつける囮になってもらい、その間に我々だけでも先に進むのです!」
「ふむ。そうだな」
ジャジャがその案に納得する。
「は!!?? それあたしチョー最悪なんですけど!!!!」
「ラズビィ……気持ちは分かるがのう。勇者の勝利のためには、時として犠牲が必要なのじゃ。大人しく受け入れよ」
「はああああああああーーーーーーーーー??????? だったら、雑用係か、テメーが自分でやりゃいいじゃん!!!!!」
「わしらでは、たったの10秒とて、あの数は耐えられまい。お前しかおらん」
ガートルのその一言が、勇者ジャジャに決断させた。
「だったら決まりだな。ラズビィ、あんたのことは嫌いじゃなかったぜ」
「そそそそっそそっそそ、そんなあああああ〜〜〜〜〜ジャジャぁああああ!!! ジャジャ様〜〜〜〜〜〜!!!」
そして、全員に対して、ジャジャは号令を掛けた。
「ラズビィはデコイのスキルを使って敵をおびき寄せろ!! そして俺たちがスキを見て敵陣を突破する!!!」
「ひ……ひぃいいいいいいいいん!!」
ラズビィは作戦通り、敵を引き連れて走って逃げていく。
「ラズビィ……俺が忘れるまで、お前のことは忘れないからな……」
「おぬしはジャジャ様の伝説を彩るにふさわしい盛り上げ役じゃった……惜しい仲間を失くしたが、必要な犠牲じゃった」
ジャジャとガートルは、先に進んだ。
「……」
キッシュだけは、ラズビィのことが(絶対に理解し合えない人間だと思っているが)気の毒で仕方なかった。
そして、このパーティーにいる勇者達には、人としての血が通っているとはとうてい思えず、彼らのあり方そのものに、到底理解が及ばなかった。
すぐにでもこのバカ共を殴り飛ばしたい気持ちでいっぱいだった。
しかし、それでも今は危険なダンジョンの中だ。
故に仕方なく、勇者の後ろに付き従うのだった。
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