第14話 一方その頃、勇者ジャジャは

〜勇者ジャジャ視点〜


「ようし、これでゴミツクモの代わりは見繕えたな」


 竜の勇者ジャジャである俺はユーフォリア王国の王都ブライトにて、そう口に出した。


 世界最強と名高い俺様は、パラディンのラズビィと、魔法使いのガートルを率いて勇者パーティーを組んでいた。


 実は、ポーターをやってたツクモって名前のムカつくやつが俺様のパーティーにいたが、使えねぇゴミカスだったから追い出してやった。


 だからその代わりとなるポーターを仲間に募集した。


 もちろん俺様、勇者ジャジャのパーティーが仲間を募集した、と王都中すぐに話が広まり、たくさんの雑魚どもが殺到したが、まあ一番マシそうなのを見繕った。


 ポーターとして優秀だとギルド長からのお墨付きだ。


 そしてそいつが今、目の前にいる地味キャラのことだ。


「ええ〜なんかこいつちょー大真面目そうじゃん! やば、吐き気する」


「なんで僕を見て吐きそうになるんですか?! やめてくださいよ!」


 ラズビィのやつが早速新人イビリを始めやがった。


 まあ止める理由は無いけどな。


「まあラズビィよ。こんな若者でも大切な荷物運びじゃ。それに、こやつが雑魚カスであればあるほど、ジャジャ様の引き立て役に適任だしのぉ」


「……え、引き立て役ってなんですか? ガートルさん」


 ガートルは耳が遠いのか、その質問を無視した。


「それに僕にはキッシュというちゃんとした名前があるんですよ! ねえ、聞いてますか!」


「おいおい、荷物運びが名前なんてどうでもいいんだよ」


「……」


「なんだその目? 俺様の言葉がテメエの気にでも障ったか?」


「……いいえ」


 クソ雑魚の生意気な態度はいい加減うんざりだ。


 ツクモのそれは特に最悪だった……まあいい、奴はグレゴーラにコテンパンにされて奴隷にでもなってるか、あるいは首でも吊ってる頃合いだろう。


「てめえら、これからAランククエストを受ける」


 久しぶりのクエストだ。


 そこそこ長い休暇を取っていたが、そろそろ俺様の凄さを見せつけておかないと、バカ共がめんどくさいイチャモンをつけて来るからな。


「おお!! 素晴らしい!! これぞ勇者!! 自らを率先して困難なクエストに立ち向かう姿はまさに勇敢そのものじゃ!!」


 俺はガートルの言葉に気分を良くした。


 やっぱ勇者はこうで無いとな。


「ああ、そうだろ。俺様が直々に大活躍してやる。……それじゃすぐに行くぞ」


「え、なんも説明なしですか? 場所とか目的とか……?」


 俺は雑用係をにらみつける。


「あ? 北に最近出来たばかりのダンジョン探索して奥のお宝を取るってのがクエストの内容。……これで十分か?」


「ええと……それをもっと具体的――」


「これ以上俺に無駄話しろってか? 空気読めよカス」


 目の前の雑用係はものすごく困った表情をしてやがった。


 俺様が説明してやったのに、ありがたみすら感じやがらない。


 最低な態度のやつだ。


「だ……だったら準備する時間をください! 最低半日ほど――」


「身の程をわきまえい!! このカスが!!」


 ガートルが叫んだ。


「ジャジャ様はなんとおっしゃられた? 今すぐ、と言ったのだ。だったら今すぐに出るのが当たり前じゃ! 貴様ごときがジャジャ様に意見などするでない!!」


 そう押し切られて、雑用係は言葉を返すことなく沈黙した。


 ち、やっとおとなしくなりやがった。


「そんじゃ、荷物まとめてすぐに出るぞ。……おい雑用係、何ぼーと突っ立ってやがる」


「……え? なんでしょ――」


「馬車だよ!! 馬車!! お前以外に誰が準備するんだよ!!」


「わ、わかりました」


 雑用係は急いで馬車を用意するために駆け回る。


「ねえ! 雑用くん! もちろんあたしたちの荷物も運んでくれるんだよね! いっぱいあるからすぐに宿まで取りに行ってよね!」


「そ……そんな今言われても……!」


「さっさと足動かせぇよ! のろまダサ男!!」


「ひ、ひぃ!」


 ラズビィは雑用係に命令した。


 ったく、こんなの言われずともやりやがれよ。


 俺様の時間を、有象無象の凡人が奪うんじゃねえよ。


***


 北の迷宮を俺らパーティーは進んでいた。


 雑用係に松明をもたせ、列の一番うしろに突っ立ってる。


 そして、ラズビィが先頭に立ち、そしてラズビィのすぐ後ろからガートルが魔法を放った。


「超級魔法サイクロンウェイブ!」


「ギャオーーー!」


 ガートルが強力な魔法を放つたびに、ダンジョンに住まうモンスターを倒し、またダンジョンに仕掛けられたトラップも破壊していった。


「す、すごい……」


 雑用係がガートルの活躍に驚いているようだ。


「あんな強力な魔法を連発してダンジョンを突破していくだなんて、これまで見たことがありません」


「がっはっは! まあそうだろう。俺ら勇者パーティーは、こうやっていくつものクエストを突破してきた」


 俺たちの作戦はこうだ。


 群がる雑魚どもはガートルの魔法で蹴散らす。


 その時ついでにダンジョンの罠も吹き飛ばして進む。


 残った敵がいた場合はラズビィが倒す。


 そしてボス戦では力を温存していた俺様が切り伏せる。


「まさに完璧な作戦だ」


 俺はいい気分になっていた。


 今回のAランクの依頼も俺様にかかれば楽勝も同然だ。


「おーい、若者よ。そろそろ魔石をくれないかのう」


 ガートルはそう雑用係に言った。


 魔石は、使用することによって失った魔力を回復することが出来る貴重なアイテムだ。


 ガートルが魔法を放ちまくる以上は、この魔石がそこそこな量必要になるが、枯渇する心配はもちろんない。


 我がパーティーには、たとえ貴重な魔石でも大量のストックがあるからだ。


「え、魔石……?」


 雑用係はキョトンとしてやがる。


「あ? 俺らの荷物にいっぱいあっただろうが、それをよこせって言ってるんだ」


「魔石がいっぱい? ……そんなの入れた覚えが……」


 雑用係は、でかいリュックの中を漁るが、見つからないようだ。


「これはどういうことだ? 荷物全部持てって言っただろうが。てめえは何か俺らに嫌がらせでもしてえのか……!」


「ち、違います本当にそんな……あ、そう言えば……」


 雑用係は思い出したかのように、一枚の紙を取り出した。


「あなた達の荷物のところに、書き置きが残されていたんです。急いで探索の準備したものですから、中に何が書いてあったのか読めてませんけど……」


「なんだと、貸せ!」


 俺様はこの書き置きを残した者の名前を見て、「ハァ?!」と口に出していた。


「ツクモ、だと?」


 俺はその本文を読み進めた。



 君たちのパーティーを抜けてしまう上で、これだけは伝えておきたく、ここに書き置きを残した。


 直接会うと君たちの機嫌を損ねかねないので、仕方なくだ。


 これまでパーティーで使用してきた魔石はすべて俺の所有物であるため、俺が持って帰った。


 勘違いしないでほしい。


 決して、君たちの荷物をこっそり奪おうというものではなく、本当にこの魔石は俺が自分のお金で買ったものになるからだ。


 俺は再三忠告した。


 魔石が使いたいなら、パーティーのお金で買い揃えるように、と。


 その言葉を無視して、君たちは、命令だ何だのと言って、俺の魔石から勝手に拝借して使ってきたに過ぎない。


 本当なら使った魔石の分、お金を要求するところだが、まあ過去のことだ、水に流そう。


 無論、魔石が無くなってしまえば、君たちは途方にくれることだろう。


 そう、どれだけ知能が低くとも一番安定して勝利できるであろう作戦。


 ――ガートルが魔法で殆どの敵とトラップを破壊し、ラズビィが残敵を倒し、力を温存したジャジャがボスを倒す。


 その作戦の立案者は俺であり、そして、その作戦によって様々な戦いを切り抜けたことを知っているからだ。


 その作戦にはどうしても大量の魔石が必要になることも当然理解している。


 故に、俺は、魔石を取り扱っている商会や、採掘ギルドを君たちに伝える。


 ここと交渉すれば、安定して、かつ格安で貴重な魔石が手に入る。


 ぜひとも役立ててくれ。


 〜〜商会


 〜〜ギルド



「あの野郎!! よくもやりやがったな!!」


 俺はブチギレた。


 前々からあのいけすかねえ野郎に何度も気分を害されたが、ここまでクソな真似をされたのは初めてだ。


「んもうチョー最悪。マジあいつKYの自覚ないよね〜」


「情けない、勇者に逆らいよるなぞ、魔王の手先に他なるまい。この依頼が終わり次第、このことを王国へ報告し、処罰を受けてもらわねばわしらも気が済まん」


 ラズビィ、ガートルもツクモの行動にうんざりした様子だった。


 そんな中、雑用係は言った。


「でも魔石がないままではもう作戦を続けようがありません。一旦街まで戻りましょう」


「は?」


 俺は雑用係に問い詰めた。


「何を寝ぼけたことを抜かしてんだ、おい」


「え? 当たり前じゃないですか! 先程の作戦はもう使えないんですよ! また準備してから挑まないと――」


「勇者がおめおめ逃げ帰れるか!! タコ野郎!!」


 俺はこの馬鹿で無能な雑用係に怒鳴る。


「俺様がその程度の理由で逃げ帰るだと? 納得できるか馬鹿野郎! そもそもそんな作戦があろうが無かろうが――ん?」


 俺ははたりと、突然、あることに気づいてしまった。


 そして数秒ほど考え込んだ。


「――そもそもこの作戦、考えたのは誰だ?」


 その疑問を口にした瞬間、ラズビィとガートルは、ビクンと震え上がった。


「おかしい……さも当たり前のように、俺様はこの作戦で戦ってきたが、一体いつからこの作戦で戦い始めた……? そうだ、ツクモがパーティーに入ってしばらく経った後、ツクモが何かごちゃごちゃと、俺様に言った覚えがある。『道中の雑魚は仲間達に任せよう』だっけか? あのときは奴も少しは気の利いたことを言うようになったものだとばかり思っていたが……もし、それがやつの策略で、俺様がまんまと言いなりになっていたとしたら……」


 バラバラになっていたピースがどんどんつながっていく。


 ……いやまさか、俺様の想像通りの答えが真実だなんてことがあってたまるか――


 そう思おうとした矢先、さも当たり前な様子で、雑用係が言った。


「え……? 書き置きを呼んだ限り、この作戦を考えたのって、ツクモさ――」


「ジャジャ様です!!!!」


 ガートルが割って入った。


「この作戦はジャジャ様が考えた作戦です! わしがそう覚えてるのだから間違いございません!」


「そーそー、めっちゃわたしも覚えてるし! ジャジャが言ってたの! まじわたし記憶力いいからまじで間違えないし!」


 ……そうか。


 なるほどな。


 この二人がそこまで言うのだ、間違えないだろう。


 確かに俺がこの作戦にしようと言った覚えがある。


 間違いない、そうに違いない。


 もし、俺様がゴミツクモなんかが考えた作戦で戦って数々の勝利を収めてきた、なんてことがあれば、この世を滅ぼすほど暴れまわるに違いない。


「まあ、俺様が考えた作戦なのは間違いなさそうだな」


 俺はそう結論づけた。


「ただし、今後この作戦は使わないようにする。念の為にな」


「ははっ! ジャジャ様の仰せのままに!」


「それじゃあ、先に進むぞ」


 そして俺らパーティーは、ダンジョンの最奥を目指し、突撃した!

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