第11話 おぞましき狂人の理想、打ち砕きし怒りの鉄拳
グレゴーラは負けを認めた。
そして、その言葉に続いて、観客みんなに聞こえる声で語り始めた。
そして、俺との約束――観客全員にお前の計画のすべてを語れ――をどうやら守るようだ。
「……私は悪くない……私は悪くないの!! 私は作り上げたGクラス――私の理想の教育は完璧だったのよ!!」
私は悪くない、か……。
正直とんでもない言い訳が出てきそうで怖くなってきた……。
そして、グレゴーラは自身の過去を語った。
「そう、あれは10年前――」
〜グレゴーラの過去〜
私は差別主義者だった。
特に弱い人間はこの社会に不要なゴミとしか思えなかったわ。
故に私は自分の担当したクラスにいた一人の少年――ツクモくんを、徹底的に懲らしめたわ。
魔法の一つも使えない落ちこぼれだったツクモくんに対して、周囲のクラスメイトが彼をいじめるように徹底的に差し向けた。
ツクモくんがミスすると、私は徹底的に暴言をぶつけた。
ツクモくんへの悪評を周囲に言いふらし続けた。
他の子のいたずらをすべてツクモくんのせいにして、誰も彼の言うことを信じさせなくさせた。
そして私は最後に、ツクモくんを退学へと追い込んだ。
弱いゴミが排除されるのは当然の摂理だと私は思ってた。
このときまでは、私は間違いなく正しい行いをしているのだと信じていた。
しかし――
「グレゴーラ先生!! あなたのクラスの生徒みんなが問題しか起こしとらん!!! 器物破損や暴言、挙句の果てに暴力行為!!! 一体どういうことだね!!!」
たくさんの人達から私のクラスの生徒達の問題行動について苦情が来た。
信じていた私の生徒たちは別人へと豹変したかのように、蛮行に走った。
私自身も徹底的に言い聞かせようとしたのだが、彼らは誰の言うことも聞かなくなっていた。
「へへ! また誰かに魔法をぶちこみてえなぁ!!」
「あはは! あの頃のツクモを思い出すだけで笑いが止まらねえよ!」
「だったら、そのへんの奴らで良くない? 例えば成績一位で調子こいてるあの眼鏡!」
「いいねえ! ――ファイアーボール!!」
「ギャハハ! 俺も!! ビッグストーン!!」
ゴミだった少年――ツクモくんをいじめていたときは、みんな仲良しクラスだった。
その面影は既に微塵も無く、クラスメイト同士での殺し合いにまで発展した。
「や……やめなさい!! お願いだからやめて!!!」
私は彼らを止めようと何度も説得したが無駄だった。
最終的には警察に逮捕される生徒まで現れた。
卒業するまでの半年の間――学級崩壊という地獄が続いた。
***
「――そして私は、卒業式の日、クラスメイト全員がボイコットしてだれも来なかったあの日――」
「ぶっ……!」
いかん、想像しただけで笑ってしまった。
あいつら、俺の知らない間にこんなことになってたのか……。
なんとか咳払いでごまかし、グレゴーラの言葉を聞いた。
「私は気づいたの――ツクモくん! あなたのような強者に虐げられられるべき生け贄が必要だったと!! あなたを追い出したのは私の間違えだったと!!!」
グレゴーラの目は本気だった。
「みんなのクラスがまとまった理由は、常に自分の下に存在し続ける誰かがいたから! 自分の後ろにああいうゴミがいるだけで、皆が前を向き、授業に精をだすのよ! この分かりやすい手本があるおかげで、生徒皆が、あいつのようになりたくない一心で、真面目に授業に取り組んでくれるのよ! だからGクラスを作ったの! 皆からバカにされ続けるGクラスをね!」
グレゴーラは衝撃の真実を、みなに語った。
「ただ、Gクラスのメンバーに、ただ成績が低い者では不適格だった――」
? どういうことだ?
Gクラスは出来損ないを集めたクラス、とグレゴーラは言っていたはずだが?
「Gクラスになったあと、すぐに心が壊れてだめになってしまっては意味が無かったから」
「は?」
「Gクラスにふさわしい子はどんな子なのか? 数年掛けて調査し、適切な人間を選びに選びぬいた。潰しても問題ない程度の才能を持ち、潰しても問題のない血筋と家柄であり、潰しても壊れないだけの精神力の持ち主を――!」
――努力家で、困難に立ち向かえるアドリーを。
――能天気で、前向きで明るいビアンカを。
――気高く、誰かのために体を張れるシィを。
――無垢で、いつも自然体のディアを。
「私は彼女たちを選んだ!! 第2のツクモくんとしてね!! そして彼女たちにはこの学校にいる間はずっとゴミを演じてもらうつもりだった!! 中等部(ジュニア)に行っても、高等部(ハイ)に行ってもね!!」
俺は、怒りで体が震えていた。
潰しても問題ないから選んだ、だと?
どれだけ彼女たちを侮辱すれば気が済むのだ、この女は。
「だけど、私の理想にはまだ遠かった!!! まだたったの4年しか経ってないのにもう心が壊れ始めやがった!!! 内心期待はずれだったと思ったよ!!!」
グレゴーラは俺に指を指した。
「ツクモ!!!! お前を呼んだのはそのためさ!!! 彼女たちの心を支え、耐え難き差別から一緒に耐え続けるのがお前の役目だった!!!! なのに!!!!!! うわあああああああああん!!!!」
グレゴーラは涙を流して同情を誘った。
何も知らない人が見ればやさしくするかもしれない。――だがそんな偽善者はこの場には一人もいなかった。
会場の観客は、文字通り絶句だった。
シィだけは、口から言葉がでた。
「おぞましい……なんて醜い女なの……」
観客すべてがその言葉に同意することだろう。
グレゴーラは校長が座る席に向けて、大声で叫んだ。
「ムシュー校長!!!!! あなたも私の理想に賛同してくれましたよねぇ!!!!」
校長に助けを求めた。
「来年度はGクラスを全学年に用意するんでしたよね!! 私は教頭になって、私が中心となってみんなを指導してほしいって言ってましたよね!! そのために莫大な資金を用意していただきましたよね!!」
次々とスキャンダルが暴露される。
「校舎の改築時にもご考慮頂いて、Gクラスの教室は汚いまま残していただいたり、新しい寮にはGクラスの生徒を入居しないようにして頂いたのはムシュー校長の発案じゃないですか!!!」
更にグレゴーラは他の教師陣にも助けを求める。
「あなた達も、私の計画に賛同してくれたはず!! 私と共に、Gクラスの生徒に、お前たちは出来損ないだと教育してくれましたよね!! そして、他の学年の生徒にもGクラスには関わらないようにと教えてましたよね!! ゴミが伝染するといけないからって!!!」
身に覚えのある教師達は、次々と顔を青くした。
「あの糞女!! わしの名前を出しよって!!」
ムシュー校長はグレゴーラを睨みつけ、そう口に出した。
俺はその言葉を聞き逃さなかったし、他の観客たちにも聞こえていた。
校長にも観客の目が向く中、校長は小さな声で「しまった」と口からこぼれた。
おほん、と咳払いした後、立ち上がり、グレゴーラに向けて話し始めた。
「6年1組担任、グレゴーラ・カズール。今日でお前を解雇処分とする!」
「あ……ああ……」
校長の言葉を聞いたグレゴーラは地面に手をつけ、うずくまった。
「この偉大なるラクロア魔法学園初等部にて、教師の立場を悪用し、未来ある4名の子供を不当に虐げた! その上あろうことか私達ラクロア魔法学園の教員に対し、無実の罪をなすりつけようとした! 真のゴミはお前に他ならない! ゴミにこの学園の敷居をまたぐ資格はない!!」
まるで死刑宣告を受けたような絶望が、グレゴーラの顔からにじみ出る。
無様なグレゴーラの姿。
顔を真っ赤にした校長。
俺はくだらないやり取りにただただ呆れ果てていた。
こんな馬鹿げた解雇処分に一体なんの意味がある。
「早く立って帰れ――」
「話を勝手に終わらせるな!!!」
その場にいた全員が、俺の方に顔を向けた。
校長の言葉を止め、大声で叫んだのは、俺だからだ。
「俺からグレゴーラに伝えたいことがある」
俺はグレゴーラを見る。
はっきり言えば、この女が憎い。
俺がこの学校に入学してから退学にされる日まで、俺からすべてを奪った。
そして、Gクラスの大切な生徒たちを虐げ続けた。
故にこの思いだけは、やつにぶつけないと気がすまない――!
「グレゴーラ、お前の言ったことは正しい」
全員がこの言葉を聞いて、驚いていた。
「常に自分の下に存在し続ける誰かがいるだけで、人は安心を得られる。――こんなのは下の立場にいたものなら誰にだってわかる人間の本質だ」
「……ツクモくん……」
グレゴーラは顔を上げた。
意外なところに理解者がいた事に、グレゴーラは驚いているようだ。
「だけど――」
俺は力強く拳を握りしめた。
これまでの怒りと、これまでの悲しみと、これまでの無念を、心の中で燃やし、拳に込めた。
「人から、おもちゃにされた人はな、心が傷つくんだ!! その心の痛みの苦しさを教え諭すのが教師だろ!! いいか、グレゴーラ。お前は人をもてあそんで楽しんでるだけのクソ野郎だ!! お前が語っているのは理想なんかじゃない!! 一生自分の手の平の上で、誰かをいじめ続けたいと願っている、ただの狂人の妄想だ!!!」
「なんですって……!」
そして、俺は、グレゴーラに近づき――
「これがおもちゃにされた俺の――俺たちの怒りだぁあああああああああああ!!!!」
グレゴーラの腹部を殴った。
「ぐぬあああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
グレゴーラは空高くまで、飛んでいった。
観客席はだいぶ広かったものの、それすら上回り、グレゴーラは飛んでいった。
「すっげぇ、場外サヨナラだ」
観客の誰かが能天気にそう口に出した。
***
――ねえ、師匠
――ん? どうした?
小さな俺は、師匠に尋ねた。
――どうして師匠は魔法が使えないのですか? ココアを助けたときは神級魔法リザレクションを使ったのに
――まあ、訳ありでな。私が最後に使える魔力はあれっきりだったのさ
どうして師匠の魔力が無くなったのか、今の俺も知らない。
――だけどな、ツクモ。私にはまだ、最強の魔法が使える
――え?! まだそんなすごい魔法が?!
――ああ、それは、この拳さ
そのときの俺はキョトンとした。
――思いを込めた拳こそ、私が使える最強の魔法さ!
***
「師匠……あなたのおかげで勝つことが出来ました」
自分の拳をみる。
師匠、これまで頂いたすべてを、やっと自分の物にすることが出来ました。
「せんせー!」
アドリー、ビアンカ、シィ、ディアが、俺のもとに駆け寄った。
「みんな……やっと終わったよ。これまでよく頑張ったな」
俺は4人を抱きしめた。
パチパチパチ
小さな拍手はやがで大きくなった。
会場の誰もが俺たちの勝利を祝福したのだった。
―――――――――――――――――――
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