第12話 夜、アドリーと同じ部屋で

 魔法対抗戦のあと、グレゴーラは逮捕された。


 あれだけひどい体罰を行ったのだ、当然だろう。


 そして、グレゴーラの証言によって、関係者が浮き彫りになり、ムシュー校長含めた、Gクラス問題に関わった教員にも厳重な罰が与えられ、そのすべてが退職となった。


 当然、残された教員は俺を含めて大忙しだったが、なんとか今日を持って、人員が確保出来たので一安心だ。


 そして6年1組の担任は、元副担任だったユウ先生になった。


 『ツクモ先生のような先生になりたい』と言っていた彼女の努力が実ったのか、少しずつだが生徒から信頼を得られているようだ。


 そして俺は、徐々に学校全体の雰囲気が良くなったのを実感していた。


 これまでバカにしていたGクラスに謝りたい、と申し出る生徒もいた。


 俺やGクラスの活躍に感動した、という生徒もいた。


「俺、ここに来て本当に良かったよ」


 俺の部屋で独り言をつぶやいた。


 今は夜、もうみんな寝てる頃合いだろう。


 物思いにふけるのをやめて、俺はランプを消そうとした。


 コンコン


 ノックの音だ。


 俺はランプを付けたままにして、ドアを開けた。


「アドリーか」


 アドリーは寝間着姿だ。


 以前、部屋に入ったときと同じだ。


 薄い布地だけの、風通しが良く、動きやすくて、何より無防備で、可愛かった。


「先生……遊びにきちゃいました」


 照れくさそうにアドリーは言った。


「先生と私の二人だけで……いいですか?」


「ああ、もちろんいいよ」


 俺はアドリーを部屋に招き入れた。


 アドリーと俺は、ベッドを椅子代わりにして、横に並んだ。


「先生……」


「ん?」


「先生は夜に、私の部屋にこっそり入りましたよね?」


 ……どうやら魔法対抗戦の前日に、アドリーとビアンカの部屋に入ったことはバレているようだ。


「……まあそうだな」


「夜這いですか?」


「いやいやそれは……」


 それはさすがに違うぞ……


 アドリーは可愛らしいが、彼女を傷つける真似はしたくない。


「冗談ですよ。先生」


 アドリーは俺の目を見つめた。


 そして、俺の手を、その小さな両手で握る。


「私の手を握ってくれたんですよね」


 アドリーが向ける、俺への眼差しには、言葉で言いようのない、なにか特別なものを感じた。


「先生がそうしてくれたから、私は最後まで頑張ることが出来ました」


「そう言ってくれて、俺も嬉しいよ」


「それでね、先生……」


 アドリーは顔をより赤らめながらも、最後まで言った。


「わ……私を、抱きしめて……くれませんか……?」


 俺の胸が高鳴った。


 ……おそらくハグするってことなのだろう。


 誰だって人肌寂しくなることはあるさ。


 俺はそう自分に言い聞かせた。


「……ああ、分かった」


 アドリーは俺が抱きしめやすいように、座っていた俺の、股の間に入り込んだ。


 アドリーの後頭部がちょうど俺の鎖骨あたりにある。


 俺は、彼女のお腹周りに、腕を回した。


 彼女は暖かかった。


「ねえ先生」


「ん?」


「今すごくうれしいです。ただ、ですけど……あの時の……あれと同じことがしたいです」


 あの時のあれとは何だろうか?


「最初の授業、私を抱きしめて、私の魔力を先生が使ったときです……その時、先生と一つになったような感じを、またやってみたいんです」


 あの感じか……終わったあとに幸福感が来るあの感じだな……。


 確かに、アドリーがくせになるのも分かる。


「けれど、ここで魔法を使うわけにはいかないな……」


「うーん。……あ、だったら、これはどうですか?」


 アドリーはなにか思いついたようだ。


「先生と私が服を脱いで抱きしめ合うんです。だったら、今よりももっと一つになる感じになると思うんです」


 それ以上は、さすがにまずいかもしれない。


 俺はアドリーに尋ねた。


「俺に見られても恥ずかしくないのかい?」


「恥ずかしいかも……けど先生なら、見てもいいですよ」


 彼女は微笑んだ。


「最初に見た時――きれいで可愛らしいって言ってくれたじゃないですか」


 俺は、自分の体が熱くなるのを感じた。


「先生……」


「……」


 俺は数秒だけ、沈黙した。


 そして、答えた。













「大人になったらな」


「ええーそんなぁ」


 俺はアドリーと、熱い夜を過ごした。



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