第10話 ツクモVSグレゴーラ、決着

〜ツクモVSグレゴーラ〜


「先生……」


 観客席からアドリーがつぶやいた。


「大丈夫だって! 私達の先生だからね!」


 ビアンカがアドリーを励ました。


「……うん!」


 そして、アドリー、ビアンカ、シィ、ディアの4人は俺が観客の前に出るのを見守った。


 俺と、グレゴーラは、大舞台に立ち、お互いを睨んだ。


 審判は観客に、冷静な声で説明した。


「予定した試合はすべて終わりましたが、最後に一戦だけ特別試合を行います。6年1組担任――グレゴーラ・カズールVS6年Gクラス担任――ツクモ・イツキ」


 会場は、まさかの教員同士の試合にどよめいた。


「あのグレゴーラ先生が本気出すの!?」


「ああ、この試合は荒れそうだ!」


「グレゴーラが勝つんじゃないの?この学校の先生の中でもグレゴーラはダントツに強いはずだよ」


「いいや、ツクモ先生の実力は未知数だ。それに、あのGクラスを完全勝利に導いた実績がある」


 色んな声が聞こえる。


 しかし、今集中すべきは、目の前のグレゴーラだろう。


 何をしてくるかは、分からないが――予想はつく。


 グレゴーラも、俺も、黙って、開始の合図を待つ。


「それでは――試合開始!」


 その言葉を聞いた瞬間、グレゴーラは魔法を詠唱した。


「――超級魔法」


 観客は、その言葉に戦慄した。


 超級魔法――上級よりも上位に当たる魔法であり、このレベルの魔法が扱えるものは魔法使いの中でも上位層のみといわれている。


 しかし、それだけが、驚く理由では無いに違いない。


――グレゴーラは俺を殺す気だな


 魔法対抗戦において、防具として扱われている魔障壁は、(一般的な魔法使いが放った場合の)上級魔法までしか防げないのだ。


 故に、俺が何も対抗策を用意しなければ、死ぬ。


「ファイヤーフレア!!!! 死ねよおおおおおぁああああああああああああああ!!!」


 凄まじい炎が、俺を包み込んだ。


 普通の人なら間違いなく死ぬだろう。


 ……まあ正直なところ、予想の範囲内だったがな。


 会場は騒然として、グレゴーラは目を見開いて驚いた様子だ。


「ば……ばかな……」


 なぜなら、超級魔法を食らったはずの俺が無傷のまま、立っているからだ。


「何故かって? スプラッシュウォーターで炎を相殺したからだ」


「は……? ただの中級魔法が、そんなの出来るわけ無いでしょ……」


 グレゴーラはまだ何もわからないようだ。


「ふむ、まだ気づかないか」


 グレゴーラは、怒りに身を任せ、新たな魔法を放つ。


「ああああああああーーーーーー!!!! 糞が糞が糞が糞が糞が糞が!!!!! 超級魔法!!! クリスタルジャベリン!!!」


 光り輝く石の槍が、俺目掛けて飛ぶ。


「初級魔法ファイア」


 俺の手の平から、たったの10センチほどの火が灯る。


 俺はその手の平を横に振り、クリスタルジャベリンに火をかすらせた。


 すると、クリスタルジャベリンが、まるでバターのように一瞬で液体になっていき、俺に当たることなく、地面に染み込んでいった。


「は………………………………?」


 2度も自分の超級魔法をかき消され、呆然とするグレゴーラ。


 観客にもよく分かってないようだ。


「なら、解説することにしよう。理屈は簡単だ。実のところ、4属性の初級魔法と中級魔法は、上級魔法と同じ威力が出る」


 全員が俺の解説を聞き、その事実に驚愕していた。


 ばかな、そんなの初耳だ、という声が聞こえるほどだ。


「魔力コントロールが優れていればいるほど、威力が上がる。アドリーのように、上級魔法を中級魔法で止めたりすることだって可能だ。――初級、中級、上級それぞれのはっきりとした違いは、射程範囲と詠唱時間とリキャストタイムだけだ」


 グレゴーラにとっても、その理屈を全く何も知らないようすだった。


 俺は更に、グレゴーラにとっては残酷な真実を告げる。


「そして超級は本来であれば、上級魔法を凌ぐ威力が出せる。しかし、それは実力が対等である場合の話だ――つまり、グレゴーラの超級魔法は、俺の上級以下の魔法にすら敵わないほど実力が離れているということになる」


「う……うそよ……嘘……」


 グレゴーラは狼狽していた。


「私が魔法で負ける……? あんなに魔法が使えない……ゴミカス同然の劣等生だったあなたに……?」


「昔の俺と同じように考えてるからこうなる」


「……くっくっく……うふふふふ……」


 グレゴーラは、突如、不気味に笑い出した。


「素晴らしい成長よ、ツクモ先生……でもね、一つ教えてあげるわ――上級魔法グレーターサイクロンウインド!!」


 突風が会場に吹き荒れた。


 しかし、その突風は、俺に直接放たれたものでは無いようだ。


「目隠しか」


 そして、突如、グレゴーラが俺の目の前に出現した。


 その手には、剣が握られていた。


「ツクモくぅん!! 魔法に思いあがる魔法使いの末路はねぇ!!! 剣による敗北なのよ!!!!」


 グレゴーラは、物を透明化する魔法――超級魔法インビジブルによって隠し持っていた剣を俺に向けた。


 魔法対抗戦では武器禁止にも関わらず、俺を倒すための真の切り札として用意したようだ。


「私の剣術の腕前は、王国騎士にも勝り、そして――世界最強と名高い、竜の勇者ジャジャに私の剣を指導したこともあるほどよ!!」


「え――」


 かつての勇者パーティーのことを思い出す。


 お前らが知り合い同士だったのかよ――!


「これで死ね!! 3連爆走斬――グレゴーラスペシャル!!!」


 グレゴーラ渾身の必殺技――。


 確かに見事なものだったが、俺には当たらず、空をスカしただけだった。


「は―――?」


 なぜなら、3連撃の最初の1段目の時点で、俺の手を横に振り抜き、グレゴーラの剣の刀身を折ったからだ。


「俺は、師匠から魔法だけじゃなく、格闘術も教わってある。対剣士、対魔法使い、対モンスター戦用――まあ何が相手でも使える格闘術だ」


 俺は、誰にも見えないほどのスピードで足を回し、グレゴーラを蹴り込んだ。


「ただの回し蹴りだ」


 そしてグレゴーラは試合場の端まで飛んでいった。


「ぎゃああああああああああ!!!!」


 壁に体を打ち付けるグレゴーラ。


 腕を痛めたのか、刃の無くなった剣を落とし、のたうち回っていた。


 グレゴーラのその様子を見て、審判は声を上げた。


「し、試合終了!! 勝者はツク――」


「負゛け゛て゛な゛い゛!!!!!!!!!」


 グレゴーラはバカでかい声で、審判を威圧した。


「負゛け゛て゛な゛い゛!!!! 負゛け゛て゛な゛い゛!!!! 負゛け゛て゛な゛い゛!!!! 負゛け゛て゛な゛い゛!!!! 負゛け゛て゛な゛い゛!!!! 負゛け゛て゛な゛い゛!!!! 負゛け゛て゛な゛い゛!!!!」


 グレゴーラは、負けてないと連呼した。


 あまりの醜い姿に、俺含め、会場はドン引きした。


 そして、それが30秒以上続いたため、ヤジがグレゴーラに向けて飛ばされた。


「いい加減諦めろよグレゴーラ!!」


「そうだそうだ!!」


「雑魚教師!!! これまで偉そうにしやがって!!!」


 ……本当にそのとおりだと思う。


 これだけ、圧倒しても負けを認めてくれないのはさすがに予想外だ。


 ならば仕方ない。最終手段だ。


「グレゴーラ先生、これをあなたに見てもらいます」


「ああん!!?」


「俺だけが使える魔法――神級魔法を」


「……は? ……神級……ですって……?」


 超級魔法の上には覇王級魔法が存在する。


 使えるものはこの世界でごく少数、指で数えられるほどとされる。


 そして、その覇王級より更に上位の魔法こそ、神級魔法と呼ばれる。


 伝承の中にしか存在しない、伝説の魔法――今の世の中に使えるものはいないとされた魔法だ。


「まあ見ていてくれ。初級魔法――ファイア、ウォーター、ストーン、ウインド」


 4つの初級魔法を同時に唱えた。


「バカな! 4つもの魔法を同時に詠唱するですって!?」


 同時詠唱するだけでも、かなりの魔力コントロールと、力加減が求められる。


 それを俺は難なくこなす。


「本番はここからだ。――火、水、土、風は互いに相互し、相反す。けれどその力、対等に調和せしとき――4属性(エレメンタル)すべてを凌駕する。――これが新たなるエレメンタルの再誕」


 完璧とも言える魔力コントロールを行い、ファイア、ウォーター、ストーン、ウインドを手の平の上で、一体化させた。


 ピカリ、と大きな光が俺の手の上で輝き始める。


 グレゴーラも観客も、俺の生徒たちもその輝きに見とれた。


「神級魔法――ハイパーエレメンタル」


 手の平を上に向け、その輝きを放った。


 大きくて、巨大な、光の柱がまっすぐ空を貫いた。


 超級魔法ハイパーエレメンタル――4属性と称される火、水、土、風を一体化することで生まれた新たなる元素を放出する魔法。


 すべての属性を兼ね備えてるが故に、弱点は無く、おそらく地上にあるほぼ全ての物質は、ハイパーエレメンタルの光に飲まれた瞬間に崩壊し、この世から消滅する。


 これまでの常識を超越した光の柱が、たくさんの人々に目撃された。 


 そしてその輝きは、ありとあらゆるすべての魔法を凌駕していることを、皆が理解した。


 グレゴーラは空を見つめたあと、膝を付けた。


 そして、声を振り絞って、言葉にした。


「わたしの……負け……です…………ツクモ……せんせい……」


 その言葉を聞いた俺と、Gクラスのみんなは安心した笑みを浮かべた。


―――――――――――――――――――


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