第2話 Gクラスの生徒達
「……そして、この先にあるのがGクラスの教室になります」
「……ここだけ古びてるな」
俺はユウ先生に学内を案内してもらっていた。
学内が改築されており、10年前とは違い、廊下も教室もきれいで新品のようになっていた。
しかし、今目の前にある、Gクラスの周辺だけは全く手が加わっていない様子だ。
「Gクラスに使う予算は最低限に、と学校の方針で決まっているのです……本当にとてもいい子たちなのに……」
ユウ先生は憂いてる様子だった。
「なるほど、そんないい子たちなら早く会ってみたいものです」
「ええ! 私、実はツクモ先生にはとても期待してるのです! ……私じゃどうにかすることなんて出来ませんでしたし……」
ユウ先生がぽつりぽつりと、Gクラスの惨状を語った。
Gクラスは4年前――当時の新2年生に1クラスだけ、実験的に作られたのが始まり。
担任の教師すらおらず、授業の殆どは自習を命じられた。
時々、毎回違う先生が交代で来ては、出来るわけのないテストを命じて、それがなぜ出来ないのかと徹底的に罵倒した。
そして、他クラスの子は、Gクラスの子と親しくすることは暗黙的に禁止され、上級生も同級生も下級生の全てがGクラスを軽蔑し続けた。
それが今日まで行われ続けてきた、ということだった。
「……そうか」
俺はそれを聞いて、ここに来たことが間違いでなかったことを悟った。
「Gクラスのことは任せてください」
俺はそう答えた。
僕の言葉に、ユウ先生は嬉しそうに顔を赤くして答えた。
「じ、Gクラスの生徒は4人で、みんな6年生の女の子です!」
「そうですか」
「たぶん最初はみんな、先生のことを怖がったりするかもしれませんけど、きっとツクモ先生のことを、す……好きになってくれると思います!」
「ああ、そうなってもらえるように俺も努力するよ」
信頼関係が構築できなければ指導は上手く行かない。
それもあるが、何より、彼女たちの力になれるように頑張ろうと思った。
「あ、あと、ツクモ先生用に寮の部屋があります。明日からそこに住んでもらいますので、今日だけは宿に泊まってください!」
「わかった」
「それと、その寮はGクラス専用の寮になってますので、彼女たちと仲良く暮らしてくださいね!」
「え?」
男と女、一つ屋根の下……
考えるのはやめたほうがいいな……
***
俺はユウ先生と別れたが、まだ学内にいた。
「トイレの場所を聞きそびれるとは」
覚えがあるところにいったものの、校舎の改築のためか、なぜか場所が変わっていたのだ。
そして俺はここだと思う扉を開けた。
「ん?」
「……へ?」
胸を隠す白の下着。
裾が短く動きやすい紺色のズボン。
細身の体。
なにより、可愛らしい童顔に、青みがかった髪が肩まで伸びており、恋愛小説のヒロインを思わせる乙女であった。
「きゃあ!」
少女は手に持っていた、脱いだばかりであろう体操服で体を隠した。
「すまない!」
俺は急いで扉を閉めた。
俺は間違えて入った女子更衣室の前で立つ。
がちゃん
扉から、初等部の制服を着た少女出てきた。
俺は彼女に頭を下げた。
「驚かせて済まなかった」
「ええと……私は気にしてないので大丈夫です……」
少女は、顔を赤らめながらも俺を許した。
「許してくれてありがとう。……あと、ついでに申し訳ないのだが、トイレの場所を案内してもらえないかい?」
「え……うん。いいですよ。こっちです」
彼女に案内され、廊下を二人で歩いた。
「……」
彼女は沈黙したまま黙々と歩く。
大人相手はやはり緊張するのだろうか、と思ったが、彼女をよく見るとそれが間違いだったことに気づいた。
俺は彼女に、気づいたことについて、問いかけた。
「……魔法の練習をしていたのかい?」
「え……? なんで分かるんですか?」
首をかしげる少女。
彼女が着替えてた体操服だけ見たなら、運動していると普通は思うはずだろう。
「魔力切れ状態で、更に魔法を酷使したときには手首のあたりに黒いアザが浮かび上がってくるからな」
「あ……」
俺は少女の両手を握った
少女の手首には黒いアザがあった。
「過酷で無茶で、あまり意味のないトレーニングだと思うからやめたほうがいい。上級魔法リラクゼーション」
「あ……これは?」
「少しは楽になったか?」
「なんか疲れが和らいで……ほんとだ! 体が軽い!」
少女の表情が明るくなっていた。
「これだけでは心もとないから、俺がマッサージを……ん? どうした?」
少女の顔がだんだんと赤くなっていく。
その視線の先には、繋がれたままの彼女と俺の手があった。
「あっあっ、あのその……あ、ありがとうございました! と、トイレはこの突き当りを右……じゃなかった左にあります! それではまた! 失礼しましたぁ!」
彼女は逃げ去るかのように走っていきました。
「可愛らしい子だった」
俺はそうつぶやいた。
しかし、それとは別に引っかかることがあった。
「今はもう放課後で、それもこんな時間まで魔法の練習をするなんて……彼女……あまりに自分を追い詰めすぎじゃないか……」
明日、彼女に会って話をしよう、そう俺は思った。
***
日が昇り、次の朝が来た。
俺は、Gクラスの教室の扉の前に立つ。
呼吸を整え、そして扉を開けた。
「おはようございます」
挨拶したあと、俺は教室を見回す。
席を立って会話していたであろう4人の少女がいた。
その中のひとりの少女と目が合った。
「……ああっ!」
「ん……君は昨日の……」
昨日、一緒に話したあの子だった。
彼女はGクラスの生徒のようだ。
「新しい先生だったんですね……」
彼女は嬉しそうに言った。
「今日からGクラスの担任になったツクモ・イツキです」
「わ、私はアドリー・サシャです!」
「よろしく、アドリー」
アドリーと俺の自己紹介のあと、一人の少女が手を挙げた。
「はい! ツクモ先生! 私はビアンカ。ビアンカ・ノノです!」
明るい声だった。
赤みがかった黒髪で、ポニーテールが特徴的な少女だった。
身長やスタイル的には、アドリーより一回り大きいと言ったところだ。
「アドリーの着替えを覗いたって本当ですか!」
どうやら更衣室に俺が入ったことは、このクラスではもう広まってるらしい。
「ちょっとビアンカ……。私はそんなの気にしてな――」
「聞き捨てなりませんわ!」
アドリーの言葉を遮り、声を挙げた少女がいた。
金髪ロングであり、このクラスの中では一番背が小さいことが特徴的だった。
俺に怒り顔で見つめているものの、少なからず、気品さを感じさせた。
「わたくしはシィ・ケープです。も……もし、わたくしの仲間に下劣な行為を行うのなら……」
「……?」
何故か分からないが、シィの言葉の最初の勢いは、だんだんとたち消え、涙顔になった。
「わたくしと、このディアが相手になりますわ!」
シィはディアと呼んだ少女の後ろに隠れる。
ディアと呼ばれた少女は銀髪でショートヘア、そしてクラスの中では一番背が高いのが特徴的だった。
何より、この中では誰よりもおとなしい様子で、4人の中では一番大人びて見えた。
「……ディア・カレンです。先生、よろしくおねがいします」
ディアは、とくに抑揚のない声で、普通に自己紹介していた。
一番小さいシィ、一番大きいディア。
並ぶと姉妹のようだった。
「……まあ、確かに俺は間違えて女子更衣室に入ってアドリーの着替えを見てしまったのは事実だ」
俺はみんなにそういった。
アドリーは顔を赤らめ、下を向いていた。
「ひゅーひゅー! アドリーの裸はどうでした? ムラムラしましたか?」
ビアンカはハイテンションで、そう俺に聞いた。
「ムラムラというよりは、きれいで可愛らしいと思ったな」
「ッッッッ……!」
アドリーは変な声を挙げて顔を机に突っ伏した。
シィは驚いた様子で、ディアはクールな表情のままだった。
ビアンカはにぃ、と笑うと自分の制服の襟を握った。
「――だったらこれはどうかな!」
「……む、これは」
チラリ、チラリと自分の胸元を広げた。
「私の胸はどう? エロいでしょ!」
ビアンカの挑発、だったのだろう。
だが俺はそんな考えは頭になかった。
正直な感想が口に出た。
「とてもきれいだ」
「……え……ええっ!」
ここに来て初めて驚くビアンカ。
俺はビアンカに近づき、その肩をつかんで言った。
「男として見せてもらうのは正直嬉しい。だが、やすやすと、自分以外の男には見せてほしくないと思う。約束してくれるか?」
「う……うん……。約束するよ、ツクモ先生……」
ビアンカは顔を赤らめていた。
そして彼女は自分の制服を整え、席に座った。
「あのビアンカが大人しくなるなんて……」
アドリーはそうつぶやいた。
俺は教室を見回す。
可愛らしい乙女のアドリー
元気だが少し型破りなビアンカ
真面目で正義感に強いが、気弱なシィ
クールで物静かなディア
4人が席についたのを確認した俺は言った。
「これより、Gクラス最初の授業を始める」
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