第8話 Reflect
「いい加減飽きろよ。こんな夢の中を探索してもキリがねえって分からねえの?」
「何もやらないより良い」
夢の中の、退廃した黒河高校内にて。
窓越しに、後ろにいる兄の姿を眺める。なまずの面が相変わらず存在を主張していた。
(どうして酷いことをしたがるんだろ)
予想した所で結果に繋がるとは思わない。なら、訊かなければと悟った。
(……教えてくれない気もするけど)
無い訳ではない可能性にかけようと、溜息を吐いてから口を開く。
「どうして君は、私を危ない目に合わせようとする? 君は、殺したいのか?」
私は振り返り、なまずの面をじっと見つめた。
「……君は、以前魔物に襲われかけて避けなかった。最悪死んじゃうと分かってる筈」
相手は沈黙しか返さない。静寂の空間が、ただ広がる。
「……まるで、死にたがってるみたい。どうして?」
今此処には、私と兄と、鏡の中の反映者達しかいない。
「どうして詰って、私を追い詰めようとした?」
なまずの面の下から、何よりも暗い瞳が覗いている。
「兄ということを黙ってまで。どうして絶望させたいと願うの?」
それなりに重い兄の鞄がゆっくり均衡を失い、力が抜けた私の手から落ちた。
気にせず彼を睨み、私は言い続ける。
「言葉は嫌いだけど、意味が無いとは思ってない。どうしてその言葉で、他人も自分も痛むようなことをするんだ」
「さっきからうるせえ」
ふと、地鳴りのような音がした。
音の方向へと振り返るより早く、兄が私を蹴り倒す。咄嗟に兄の胸倉を掴んだ私は、足払いをして彼の均衡を崩した。
二人で廊下に倒れる。
窓から見える夕暮れの世界に、大きな魔物が顔を覗かせた。
「お兄ちゃんのそういう所、やっぱり嫌いだ」
体を起こし、スピーカーハンマーを取り出しながら、魔物に視線を向けた。
(たたかわなきゃ)
兄を見て、スピーカーハンマーの柄を握り締めながら唾を飲む。
魔物と戦っていたら、きっと彼は邪魔するだろう。でも、彼と闘っていても、魔物は絶対大人しくしてくれない。私にとってどちらも意志に背いてくる敵だった。
魔物は倒さなきゃと思う。けれども、目の前にいる兄をほったらかす訳にもいかない。壊そうとして、理由を口にしてくれない、顔を隠した彼とも戦わないと。
「誰かを壊したり命を犠牲にしようとする行為が、許されると思ってるのか」
「別に、許されるためにやってねえよ」
可笑しそうに笑う兄のことはやっぱり理解できない。
彼を睨みつつ、動く気配のした敵に意識を集中させた。
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