第7話 Bonds
『妹って』
やたら詰ってきたなまずのお面の男が兄だと知った場合、どう受け入れたらいいだろう。
――波事要哉。旧姓、七実要哉。
時々目の前に現れる、黒河高校の制服を着た男。無意味やたらと言葉で攻撃しては、人を傷つけようとする彼のことが私は大っ嫌いだ。
その嫌いな変人が兄という、衝撃的で頭を抱えたくなる事実を知ってしまった。
(びっくりしすぎて帰っちゃったけど……どうしよう)
自室のベットで、私はうなり続ける。
その結果、次の日に私は再び黒河高校へと足を運ぶことになった。
「は?」
待ち合わせたなまずの面の彼が、嫌そうな声を出す。詰ることしかできない彼と言い合っても、無駄だということはもう分かっていた。
だけど、私は彼と向き合う。
複雑な心情で睨み、少し躊躇ってから、必要な言葉だけ発する。
「お兄ちゃん」
違和感が、拭えない。
向こうも戸惑っているのか無表情に沈黙している。
私は力を抜くように息を吐いて、続けた。
「一緒に、夢を見よう」
「はあ?!」
益々嫌そうな態度を見せる彼に近付き、私は問答無用で足払いを繰り出す。
咄嗟に腕を引っ張ろうとしてきた兄をかわして、腹に蹴りをくらわせた。
寝転びながらむせる兄を無視して、彼の鞄を拾って言う。
「行こ」
起き上がった兄は、呆れ混じりの溜息を吐いてくる。物を奪ったら取り返しに来る筈だ、と私はそのまま歩き出した。
けれど、少しして、遠慮のない一蹴りが背中に訪れる。
前のめりに転びかけた身体のバランスをうまく保って、私は振り返りながら回し蹴りを与えた。
僅かだけ動いた兄の胸倉を掴んで引き寄せ、頭突きを繰り出す。
「っ……さっきから痛えんだけどお前は!」
そう怒りを投げかけた彼の言葉には珍しく煽りが含まれていなかった。
容赦はしない、私は再び兄を睨む。
「なら大人しくしていてよ。永遠と喧嘩するなんてめんどくさいだけ」
「最初にやったのはアンタだろ。人のせいにする訳? もっと自分見直せよ」
「君は人のこと言えない」
手を放し、そのまま黙って歩き出す。
変わらず罵声はとんで来たけど、全て聞こえないふりをした。
鞄を持っている限り付いてくる筈だが、一緒に行動するだけでも一苦労だと溜息を洩らす。
それでもやめる気はない。
嫌い、で終わりたくなかった。
どんな人だろうと、離れ続けていた兄だと言うなら、歩み寄れる限り歩み寄って、今までの空白を埋めていきたい。
いつか分かるかもしれないし、いつか分かってくれるかもしれないから、できる限り側にいてみようと思った。
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