第4話 Irregular

 ある日、気付いたら夢の中にいた。


(直ぐに戻るのもなあ)


 そう思ったから、しばらく歩き回ってみることにした。

 寂れた世界だ。他の人は見当たらない。夕暮れ空が広がっているけれど、現実は昼ご飯の時間の筈だ。あまり長居はできないだろう。

 そう思っていたのに。

 学校の門前の道路に、魔物を前にして笑う男の姿があった。

 何とも言えない独特ななまずの面を付けている。しっかりと着られた制服は黒河高校のものだ。


(何で彼が夢の中に……)


 覚えている、彼は以前喋らない私をひたすら詰った。怒ったら笑うし、私はあいつが嫌いだ。あの面も二度と見たくもないと思っていたのに、まさかまた会ってしまうとは。

 魔物は全長五メートル程の巨大な手で、男に向かって攻撃を繰り出した。

 避けると思ったが、彼は一歩も動かない、まるで攻撃を待っているかのよう。

 私は咄嗟に跳び出し、彼を突き飛ばした。


「っ……!」


 魔物の指が背中を擦って痛い。けど、構っている暇はなかった。

 魔物は待ってくれない。身を起こし、もう一度攻撃を繰り出そうとする。

 私はスピーカーハンマーを召喚して、魔物の腹に思いっきりそれを突き刺した。

 痛みで魔物は身をよじらせる。大きく動いた後こちらの方に手を向けて制止した。


(……何)


 掌に口があったら喋り出しそう。

 そう思っていると、魔物は平手打ちを仕掛けて来た。

 当たる前に、私はスピーカーハンマーを振り、魔物へと攻撃をぶつける──


 筈だった。


 痛みが襲ってきたと思ったら、身体が空中を舞い、勢いよく木の茂みに突っ込んだ。幹の一部に身体を打ち、皮膚が葉や枝で擦れた。


(先手を打った筈なのに……どうして……)


 色んな所が痛いけど、今は驚きの方が勝る。状況を把握しようと身体を起こした。

 最初の傷しかない魔物と、私を見て笑う男の姿がある。男の周りには何かが浮いていた。

 どこかで見覚えがあるものだ。もしかして、家庭用ゲーム機についているボタンじゃないか。

 男は黄色のボタンをつついて不敵に笑う。


(あのなまず面、魔物の味方をした……?)


 困惑した頭の中で、男が邪魔だということだけ察する。

 彼を睨んで指を差し、口を開いた。

 言霊なんて、使いたくなかったが仕方ない。


「『巨大羊羮を召喚』!」


 男が動きを見せるより早く、突然現れた巨大な羊羹が男を押し潰す。


「ごめんね……!」


 私は木から降り立ち、急いで魔物の元へ駆け出す。ボタンを押す音が聞こえ、巨大な羊羹が一瞬で消え失せる。

 私は下から上へとスピーカーハンマーを大きく振り上げ、魔物を真っ二つにした。

 魔物は消失する。

 辺りに静寂が戻っても、不穏な存在は背後にいた。

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