第40話 ネズミ捕り、その後

実際には、苦戦というのか、それとも何と言えばいいのか、自分には判らない。


餌を仕掛けた、その日と翌日は、一切ネズミの音はしなかった。

三日目になって、夜中の三時半に、ネズミの足音が天井を揺らし、眼が覚めた。

やっと、反応があったのか? 等と思い寝直すと、五時半にまたしても、ネズミだ。

それで起きてしまう。


それから、やっと二時間ほど寝て、八時にアラームで起こされる。

まあ、ゴミ出しの日だ。忘れるな! っていう意味で、ゴミ回収の曜日には、八時でアラームが鳴るように、スマホにセットしてある。


ゴミ出しついでに、天井裏に仕掛けた餌を見てみる。

少し減ってる。三〇個の小さなパン切れが数個減っていた。

もう、乾燥しているがもう一日様子を見る事に。


それから、夜も深夜も早朝も、ネズミの音がしない。

やれやれ、避けられているのだろか。


エンドックスは、無味無臭。天井裏なので光もなし。青い粉だが、たぶんネズミにはその色はあまり関係がない。

この青い色は、人間向けなのだ。危ないよっていう。

流石に青い粉が塗されていたら、人間ならこれは何か、やばいって考える。

そう言う色だ。


翌日。天井を揺らしたのは、たぶん別のネズミである。音がやや小さかったのと、通るルートが異なったからだ。


とにかく更に二日みてみる。

餌は減った。が劇的に食べた、とかそういう減り方ではないのだ。


翌日。

しょうがないので、この餌は処分。

ポリ袋に入れて、厳重に縛り、ごみ袋に捨てた。


今度はパンを思い切って、小さくしてみる。縦横に七回、包丁を入れた。

つまり八×八で六四個。

大分小さい。小さいさいころくらいの大きさになった。

これに、やはり五グラムのエンドックス。


で、スチロールのお皿に載せて、天井裏。


すると、その日はやはり、音がしない。


次の日に天井を揺らしたのは、更に別のネズミである。音が相当小さかったのと、通るルートがやはり異なったからだ。

この音の大きさだと、イエネズミかも。


次の日に見てみると、やはり、餌は少し減っている。

このまま、もうしばらく放置。


しかし、ネズミは来ない。


◇◇◇


どういうことか、判らない。最初に闖入ちんにゅうしてきた、大きかった個体は、もう天井裏にいないのは確かである。次の個体も、いるのかどうかわからない。

小さい、イエネズミかもしれないと思った足音すらしない。


もう、完全に足音がしないのだが、いつまた、足音がするか判らない。


こんな事は、今までになかった。

ネズミが天井裏に入り込んだ時は、毎日の深夜が大運動会だったからだ。


そして、エンドックスのエサを仕掛けると、七日から十日で、全部いなくなる。(勿論、仕掛けた餌は、全てモリモリ食べていく)


で、しかたなく、懐中電灯で天井裏をかなりチェックすると、かなり以前の回収していないビニールの皿が、奥にあった。それも三つも。


たぶん、ネズミが出なくなって、回収を忘れたのが三度あったと言う事だな。

そのうちの二つの皿は餌が無かった。

一つだけ、半分ほど残っていて、がっちがちのパン。カビも生えないらしい。

取り合えず、全部回収。


もう一度、エンドックス付きのパンを載せた皿を置く。


エンドックスは即効性ではなく、遅効性だ。ネズミの体内に蓄積していき、臨界に達する少し前には、足取りがおかしくなっていて、天井を駆け回る足音が、リズミカルではなくなる。三、四歩に一歩は、踏み外したような足取りの音になるのだ。


臨界点を超えるとネズミは、多分肺の機能が目に見えて落ちる(はずだ)。つまり息苦しくなっているはず。

次にネズミに自覚できるのは、目が殆ど見えなくなる。で、光を求めて外に行き、そこで力尽きる。

そういう薬なのだが。


今回は明らかに、新しい餌を、そこまで量を食べていない。(筈だ)

なのに、ネズミは入れ替わっている。

と言う事は、あの古いほうの皿にあった、がちがちの、いつ乗せたのかすら不明なパンの方を食べたのだろう。かじった後の粉や、欠片がだいぶあったので、いつのネズミが食べたのかは不明だが。


天井での音が、まったく聞こえなくなって、既に四日。

何が起きているのか。私には判らない。


大きいドブネズミも、そこから比べたら少し小さいネズミも、かなり小さいイエネズミみたいなやつも、みんな消えたのか。

深夜に徘徊するネズミが居なくなったのだけは確かである。



今回は、今までのネズミ捕りとは全く異なる様相で、私も困惑している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る