第38話 ネズミとネズミ捕り

 いや。車の方じゃない。

 我が家の天井裏に、久しぶりにネズミが出てしまったらしい。夜中に音がする。


 これは、冬になる前にいい場所を見つけたと、入って来たドブネズミがいるのに違いない。それにしては、音が小さいが。

まあ、そのうち餌を食って、大きくなるのだ。


 これがイエネズミの小さい奴だと、かなりまずい。

小さい奴はかなり神出鬼没。駆除もドブネズミと比べたら、コストがかかるのだ。


 母が入院した時の事を思い出す。

母のいる部屋は小さなイエネズミが一杯いて、それが私の部屋にまで来るので、閉口していた。

母が入院した後、母の部屋に置きっぱなしの炬燵をまず、除去してびっくりした。

炬燵の中央の下は、畳が食い破られて、イエネズミの巣となっていたのだ。

そこに居たまだ生まれたばかりの小さいネズミたちは黙って全てビニール袋に入れて始末した。

 Ω\ζ°)チーン


 それからが大変だった。まず、畳のあちこちに穴が開いていて、下まで貫通していて、その下の床板も穴が開いている。

畳を上げて、その穴を上から全て塞いだ。

とはいっても、板を張り替えた訳ではない。薄いが板を置いて、ガムテープでがっちり貼った。


 畳の方が問題だった。

部屋の隅の方の状態がいい畳と位置を入れ替える。

で、ほじられたり、穴が開いてる畳は、そこにウレタンを詰めて、両面、ガムテープを張った。

ほじられている場所もそうした。新しい畳を買えばよいのだが、そんな予算は無かったからだ。


 さて、巣は完全に駆除したが、イエネズミはあちこちに散らばり、壁の中にまでいる。


 こういう小さいイエネズミは、餌での駆除が簡単ではない。


 ネズレスーXのような、食べて、割合すぐ死ぬような餌は、相手が一匹しかないか、二匹しかないと分かっている場合、なおかつ、それがどこで死んでも構わないという場合でしか使えないのだ。

こういう強烈な毒のエサは使える条件が極めて限られている。

これは、ネズミの臆病さと関係がある。まず、新しい餌は、すぐには食べてくれない。


 一匹が、その餌を食べて、平気だった場合、他のネズミもやって来て食べる。

この、平気だった場合、というのは四時間から半日程度の時間である。

もし、食べた仲間が死んでしまうと、その餌に近寄らなくなる。

これが、なかなか忘れてくれない。最低一週間から十日は無理なのだ。

場合によってはもっとだめな場合もある。その場所に来なくなるからだ。


 一匹、やっと駆除したものの、それが、凄い隙間で死んでいて、それを取り除くのに苦労した。

腐敗臭もすさまじく、それの所に除菌スプレーをかけて、暫くの間かけ続けて蛆の発生を防ぎつつ、乾燥するのを待った。一か月くらいだろうか、やっと表面が乾燥したので火箸の様なやつで取り出したのを思い出す。


 それでもう、こういう餌は止めようと決心し、粘着シートの方式に切り替えた。

こんなの全然だめだという人がいるが、そう言う人はコツがわかっていないのだ。

粘着シートのネズミ捕りを使う場合、設置場所をまず慎重に選ぶ。

それと、段ボールなどを使って、その上に被せてやる屋根を作る。

これは暗い場所を作る必要があるのだ。


 次に、中央についている匂いのプラスチックの奴なぞ、殆ど役には立たないと知るべきだ。

私は色々試したが、これが一番効くというのを見つけた。


 それはピーナッツクリームを真ん中に小さじ半分ほど、あるいはもう少し少なく、置くのだ。

そして、ピーナッツを潰して、すこしフライパンで炒ってやり、それをピーナッツクリームの所に少量のせる。

これのいい所は、比較的Gを呼ばずに、ネズミが来る。

ピーナツの匂いで、やられるのだ。


 置く場所だが、必ず、ネズミが出た部屋の壁際におくこと。そしてその上などに、段ボールを置いて周囲を暗くしてやる。

段ボールで暗くしてやることで、粘着シートの表面は一切見えないし、壁際の狭くて暗い通路は彼らの好みである。ネズミは簡単に踏み込んでくる。

 これで一匹捕まえると、だいたいネズミが啼くので、他のが来ることは少ない。

たまに二匹、同時に捕まえていることもあるが、一匹粘着に捕まっていたら、それはもうそれでお役御免だ。ビニール袋に入れて、ゴミ袋行きである。


 これでそこにネズミが来なくなったら、別の場所に仕掛ける。

ネズミが一か月たっても捕まらないようなら、根絶したと思っていいだろう。

ピーナツの匂いで、近寄ってこないイエネズミを私は知らない。

(この方法で私は、実に三十匹程のイエネズミを駆逐した。粘着シートは業務用を買わねばならなかったほどである。)


 さて、大きい方は、これじゃダメなのだ。

仕掛けた粘着シートごと、引きずって脱走する。

こういう大きいネズミには、餌だ。


 我が家がやるネズミ駆除は、母が三十年以上前に知り合いの米屋に来ていたネズミ駆除専門業者に教わった方法である。


 それは、簡単に言えば『エンドックス』という青い粉である。

その当時は薬局でしか買えなかった。今と違って便利な通販なぞ無い。

(今はアマゾンの通販で買える。)

なんでも興味もって、首を突っ込み、会話する母らしく、業者とだいぶ話したらしい。

業者の人は、兎に角依頼が多くて、忙しすぎて個人宅までは回れないから、自分で出来るから、これでやってほしいと教わったそうである。

母は、「業者専用の秘密の餌とか薬があるの?」とか聞いたらしい。

業者は笑いながら教えてくれたそうだ。

その当時は薬局でしか扱っておらず、大人じゃないと売ってくれない薬で、しかも一キログラムの缶だった。

当時は実印を持って買いに行ったそうである。


 それが、殺鼠専用の青い粉をパンに塗布するやり方である。

パン一枚を、まず包丁で、サイの目状にきる。(パンの耳も必ず使う)

三十個ほどだとやや大きいが、もう少し包丁を入れて三十六個でもいい。この数は覚えておくこと。

 私はキリのいい三十個でやっている。

次に、その当時はコンビニの袋を使えと教わったそうだが、今はなかなか、コンビニの袋も有料だったりして、貰わない人も多いだろう。

半透明か、透明の捨ててもいいビニール袋にこの切ったパンをいれ、五グラムのエンドックスを入れる。

 今買うと、エンドックスの粉に計量スプーンが付いてこないので、百円ショップで小さじを一個買うといいだろう。

で、口を軽く縛って、振り回す。一分間シェイクしろと教わったそうだ。

振り回すか、ゆすり続けると、粉がパンの方に十分まぶされる。

で、五グラムだと、粉も余らない。

 これを、お総菜などを買うとついている発泡スチロールの皿に載せ、屋根裏に置くのだ。

 あとは二日待って、置いたパンを見てみる。

数が全く減っていない場合、仕掛けた場所が失敗である。

ここで数が減っている場合、その数を数えておく。

もう二日ほど、様子を見るのだ。


 ガビガビに乾燥してしまうと、ネズミが食べてくれないので、また作る。


 もし、餌が全部無くなっているのなら、置いた場所が正解である。

またそこに作っておいてやる。


 これを三回から、多い場合でも五回繰り返すと、急にぱったりと食べなくなっている時が来る。(つまり、開始して一週間から十日後である)

これは、ネズミたちが死んだのである。


 パンではどうにもうまくいかないという場合は、魚肉ソーセージでエンドックスを塗布する。コストがパンより高いが、これはかなり成功率が高い。

焼いたソーセージに粉を塗らずに、粉を塗った奴のすぐ横に3個くらい置いてやると、これも効果が高い。粉を塗ってある方も、必ずガツガツ食べるのだ。

(魚肉ソーセージを、出来るだけ三十個から四十個程度になるよう、五ミリから六ミリくらいで、多数用意する。で、エンドックスを塗布する)



 犬や猫を飼っている家では、特に注意が必要である。ただ、猫がいる家ならネズミは来ない。


 このエサは遅効性でこのパンに塗った薬が体内に蓄積すると、ネズミの血液が次第に凝固する。

そうなると、毛細血管に血が巡らなくなっていく。しかし、ネズミには自覚症状が一切出ない。ここがポイントである。

(なお、蓄積性の毒なので、耐性が付いたりはしない。)

ネズミたちは、遅効性の毒が回って来てる等、全く知らずに餌を食べ続けるのだ。

そして、限界を迎える。

するとネズミは走るようになり、よろめきながら、『必ず光を求めて』家の外に出るのだ。そして死ぬ。

(壁の中とか、倉庫の箱の中とか、天井裏で死んだりしない)


 ネズミは、全くの闇の中では、死なないらしい。目が見えなくなる前に、必ず光を求めて、外に出るのだという。

しかし、このネズミの体内からは水分もかなり失われてきており、血液はほぼ凝固寸前。死んだネズミはほぼ腐ることもなく、ミイラになる。見つけたらごみ袋に入れて回収に出そう。


 母はこのエサで死ぬ瞬間のドブネズミを見たという。

何度も話してくれたので覚えている。

ネズミは外に出て、地面の明るい場所で二本の足で立ち上がり、くるくると舞ったという。

両手を体の前に持ちあげて、両足でくるくる回り、それから急に血を吐いたという。

血は、かなりドロドロだったらしい。

そのままネズミは倒れ、絶命していたそうだ。


 たぶん、腸などの消化器官の毛細血管が詰まり、内出血から、胃にまでそれが溜まって、口からはいたのだろう。

その時にはたぶん、ネズミは外の景色は見えていなかったと思われる。

網膜の毛細血管はとっくに詰まっていたはずである。

もう、ほぼ本能だけで家の外に出て、光を求めたのだ。



 話しが長くなってしまった。

今回、パンを一枚切ってエンドックスを塗布し、発泡の皿に載せて天井裏に置いた。

数日、様子を見てパンを追加していくことになる。

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