第18話 著作権の事


 最近、いくつかのコンテストの応募を真剣に読む機会があった。

そんな中で、著作権の事で、気になるコンテストも散見されたので、その事について書いておきたいと思う。




 『出版・公衆送信及び二次的利用にかかる権利(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)を主催者(公募している会社)が独占使用できるものとし、応募者はこれに完全に同意するものとする』



 最初に応募要項や応募規約、或いは注意事項に書いてあり、応募の時点で、これに了承したものとする。というコンテストがしばしばみられます。

モノによっては、この時に著作権は弊社が指定する会社に譲渡され、二次的利用されるものとする。などと書かれていたりする。

さらに読んでいくと、著作者人格権の不行使もこれを了承したものとするとあります。

これは、要するに自分の著作物の著作権を、応募の時点で丸々譲渡するのと同じ行為だという事です。


 自分が心血注いで作り上げた作品で、自分で作った「読んでほしい部分」は譲れないと思うなら、少なくとも、こういうコンテストに出してはいけません。

※小説の場合でも、本になる際には改稿が当たり前ですが、その作業は著作者が行います。


 自分の作品が、編集の目に留まって、何かの形で世に出るならそれでもいいんじゃないの? と思うのなら、「あり」ではありますが、どの様な変更をされるかは、分かりません。

更に出版社側の要請する変更に、必ず協力しなければならない。と書かれている場合だと、協力しない場合には出版社側で変更を『勝手』に行い、その出版物には原作者クレジットされず『勝手』に発売されることも(規則的には)あり得ます。

(応募者は著作権を譲渡しているので。)


 この場合だと、受賞した時の賞金しか貰えないで、印税は入ってこなくても、これが違法ではない(つまり訴える事は出来ない)という事に注意が必要です。

つまりアイデア料だけ払ったよ。という事も、あり得ます


 27条、28条、著作者人格権の不行使の3つをセットで要求しているコンテストは、基本的にこういう事が『恣意的』に可能だという事は、覚えておくべきことです。


 こういう3点セットは、原作者(作家)は受賞作を自分では利用できない契約上の義務を負います。

もう、応募時点で譲渡しています。

逆に主催者は受賞作を独占利用できる上、二次創作もその展開もすべて独占できます。(ストーリー大幅改変、場合によっては、大幅なエロ路線に傾倒、あるいは主人公の変更等の大幅改変をしてのコミカライズとかもその中に入ります)


 応募後作品撤回できないとか書かれているコンテストは特に注意が必要です。

大抵こういうコンテストには「著作人格権を行使しないことに同意したものとする」という事が書かれています。


 漫画の原作になるようなコンテストの場合は、特に注意する必要があります。

流石に小説のコンテスト単体で、ここまで、強引なのはあまり見ませんが、コミカライズの場合は派手なコンテストの影に、いくつもの規約、注意事項がある場合、必ず読みましょう。


 これは漫画原作となる場合には、共同作業が前提で、ある程度の改稿、改変が必須ですので、こういう著作者人格権の不行使に同意っていうのが、入っていると思われます。

コミカライズの時点で多くの人の手が係わるので、原作者一人の我がままで、全てが吹っ飛ぶのは、出版社側としてはあり得ないので、こういう規約を入れるようになったものと思われます。


故に、コミカライズ原作募集コンテストでは、こういう規約が入っているのが、最早普通になっているようです。


※これは、こう言っては何ですが、お子様な原作者が駄々をこねた場合に、出版社が苦労して根回しした部分や、漫画作者を用意した事前準備が全て吹っ飛んでしまう事態は避けなければならないからでしょう。

(たぶん過去に何度かあった事と思われる)



著作者人格権

これは著作権の一部であり、著作物の創作者である著作者が精神的に傷つけられないよう保護する権利の総称である。


1.公表権(自己の著作物を公表するか否か等を決定する権利)

2.氏名表示権(自己の著作物に著作者名を付すか否か、どのような名義を付すかを決定する権利)

3.同一性保持権(自己の著作物の内容や題号をその意に反して改変されない権利)

4.名誉声望保持権 (著作物を適切な場所に展示するなど、著作者の社会的評価を守る権利)

5.出版権廃絶請求権 (著作物の内容に確信を持てなくなった際に著作物の複製をやめるよう求める権利)

6.修正増減請求権 (改めて複製する際に修正バージョンを適用するよう求める権利)


特にこの3.が問題になる。


 3.はかなり難しい問題となっている。(1,2も作者にとっては問題ではあるが。)

著作者に許可なく、フリガナを振ったり旧字体を常用漢字にするなどは認められており、同一性保持権には違反しない。

 どこからが改変にあたるのかは難しい。コミカライズの場合、二次著作物となるため、原著作者の主観的な意思が最大限、尊重されなければならない。

つまりコミックにする都合上とかで、大幅にストーリーをカットしたり、順序を入れ替えたりすることは、この「同一性保持権」に違反する。

その為、著作者自身が、原作を変更することを認め、自分で原作を変更するか、またはそのコミック用に改変した別バージョンを用意するか、或いは著作権法第59条と共に著作者人格権を放棄して、出版社に著作権を譲渡していなければならない。


 4,5,6は、ライトノベルにおいて、原著作者がこれを訴えることはほぼないであろう。


 著作権法第59条

 著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡することができない。


という著作権法があるために、「著作者人格権の不行使」を約束させる事で第59条並びに著作者人格権を事実上放棄し、著作権を相手側に譲渡させる、というものである。


付録

著作権法第27条

 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。


著作権法第28条

 (二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)

 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。



 何かの役に立てば幸いです。


追記:

 コンテストが終わった後でも、その主催者が、応募作品すべての著作権を有していると解釈するのはさすがに無理があるため、この点は裁判で争う事が可能であろうと思われます。(優越的地位の乱用)

コンテストが終了した時点で、作品は作者に戻されると解釈できます。


ただし、コンテスト受賞しなかった作品の原作者には知らせずに、かなり改変された作品に仕立て上げて、原作者に連絡も無しに別の作品として、別の作者を立てて商業作品として成り立たせてしまう事(アイデア盗用)が可能なので、注意が必要という事です。

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