第6話 梅雨の中休みのある日
梅雨らしい雨は、前半だけで半ばに入ると暑い日々と時々叩きつけるような雨が降る。
暫くの間、エッセイは書かないでいた。
色々思う事があった。
自分の書いている異世界物は、いわゆるテンプレもののようでいて、そこからは外れているのだけど、他の人が見たら同じなのかもしれない。
そう思い始めるとボールペンが止まってしまう。
先の展開が、自分で書こうと思う部分と、そこまで書いた部分とでは乖離があるので、繋ぐ必要がある。しかし今まで書いてきた調子で繋ぐには、かなり丁寧に描写して行く必要があって、退屈な展開に成りかねなかった。
思い悩んでいると時間はどんどん過ぎていく。
………
その間に庭には様々な花が咲いていたのだった。
5月には庭に作ってある小さな水辺で水生植物の
5月半ばになると、その小さな水辺に
その周りには
母が欲しがったのでわざわざ京都の園芸店に頼んで取り寄せた植物だった。もうかなり増えて茫々と生えている。とはいえ、あまり大きくはならない。大きくはならない種類なのかも知れない。
母の思い出話ではこれが昔はどこの田圃にも、
私はこの草の花が咲いた所を見た事がない。夏に淡黄褐色の花が咲くらしいのだが。
さらにその周りに
本当なら母がだいぶ欲しがった
そして
とにかく水を好む草で、これも昔は田圃の畦や用水の脇に多数自生していたらしい。黒褐色の節が出来て、そこに
木賊は黒褐色の節の先が濃く灰色になるとそこは枯れていて、取らないとだんだんと下まで枯れて行くのだという。母が手でその灰色になって枯れている部分を全て千切っていたのを思い出す。
取ってやると、そこに黒い土筆のような物が出来て、また伸びるのだと言う。
夏から秋には蜻蛉がその先端に止まったと話す母はだいぶ前に認知症になっており、子供の頃に見た風景がひたすら懐かしいらしい。
そういう景色を、庭に出来るだけ再現してやろうと考えた私はこうした草花を植えた。もうそれから8年ほど経つ。
母が好きだった
それで数年前に母が暫く入院した際に鉢植えは全滅してしまった。
私も病院に何時も母の見舞いに行っていたが、鉢植えの面倒を見てやるような心の余裕がなかった。母の病が酷く重かったからだ。
……
雨が降ったり止んだりしているそのある日に、東側にある木の陰でアマリリスが大輪の花をいくつも咲かせていた。これも10年ほど前だが、母が大好きで植えた花だった。大きく育っていた。
ヒガンバナ科の多年草で、毎年大きな花が咲く。花は白の中に緋色。
なぜ、こんな目立ちにくい場所に植えたのか、私には分からない。
そして
そういった花や植物、山野草が好きだった母が逝ってもう1年半たった。
……
6月も半ば。外の小雨の中、
母が大好きで植えたカサブランカ、の先祖返りとそれから白百合、これまた好きで植えた
カサブランカは人工的に造られたオリエンタル・ハイブリッド種で、他の百合と混ぜるとあっという間に先祖返りするのだという事を色んな種類、多数植えた後になって知った。
元々が山百合に鹿の子百合等いくつかをかけ合わせた品種だったのだ。
その為に、植えた最初の年と次の年しかカサブランカではなかった。
本来は温室などで1品種のみと言う保護をしないと、直ぐに元に戻るデリケートな百合だと言う。
それで3年目からはただの百合になっていた。
本来、カサブランカは真っ白な大輪の百合で、「百合の女王」と呼ばれる。
もうそれから5年。
先祖返りしたカサブランカは白い山百合の物と、鹿の子百合の物に戻っていた。
他にも咲き始めたのは
そういうものなのか。
庭には百合の香りが濃厚に漂っている。
そしてもう6月も終わり。
もう完全に夏の暑さ。空も夏だった。そしてこの日は夕方から雨になった……。
土砂降りのような雨が降っていた。
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