第4話 槍は斬る物ではなく、通すもの
槍は斬る物ではなく、通すもの。
この話はNHKーBSにあった「心に沁みる夜汽車」だったか。たぶん。
ずいぶんたくさん録画した番組があって、未視聴が溜まっていた。
それで適当に整理する際に、見たものの1つである。
とある女性が着物姿で特急列車に乗って、彼氏の待つ彼の実家に向かう。
何とかして、彼氏との見合いを成功させて結婚したい。その為には彼の実家に行ってご両親への挨拶が必須だ。
しかし、途中で吹雪となってその特急列車が先に進めなくなり、行程は半分ほど進んだところだったが、列車は引き返すことが決まってしまう。
彼女が、「これは、やりきれませんね」と呟いたのだ。
そうすると、横に座っていた老紳士が、こう言った。
「お嬢さん、槍は斬るものではなく、通すものですよ。」と。
もちろん、老紳士は「遣り切れない」のなら、方法を変えて「遣り通しなさい。」という意味だったのだが。
「遣り切れない」の反対語として「遣り切れる」と言う言葉がある。
連語。(期限に対して、またはある条件に対して)「やり遂げることが出来る。」という意味である。
だが。「遣り切る」という言い方は、少なくとも辞書にはない。
実は誤った用法だ。
ゆえに老紳士は「きるものでない」と言ったとも捉えることが出来る。
「遣り切れない」は(間に合わず、あるいは条件を満たせず)「やり遂げることが出来ない」と言う時に使うか、我慢できない。または、耐えられない。という時にだけ、用いる。
「遣り通す」とは、最後までやる。やり遂げるの意味だ。
そして、「遣り通せる」と言う言い方は辞書にはない。
これも実は誤った用法。
「やりぬく」と「遣り通す」が同義語である。
件のストーリーは、老紳士が、別のルートを教える。それで遣り通しなさいと。
しかし、彼女は彼氏の実家の電話番号を知らず、大幅に遅れることを連絡できない。
なにしろ50年以上前の話だ。田舎の各家庭に黒電話があったかすら疑わしい。
そこで駅で彼氏の実家の住所に向けて電報を打つ。
「何があっても行きます。待っていてください。」と。
彼女は老紳士に教わった経路で、列車を6本も乗り継ぎながら、彼氏の実家に向かう。
殆ど一睡もできずに。
そうして三日後。
着いた改札に正装姿で彼氏が迎えに来ていた。彼女の電報を信じて待っていたのだという。
そして駅舎には彼氏の父親、母親が正装して待っていたという、ストーリーである。
彼女は無事、両親のお眼鏡にかなって、その後、程なくして結婚に至ったという。
『槍(遣り)は切るものではなく、通すもの。』
この言葉が胸に刺さって、このストーリーは忘れられない。
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