第2話 春雨と苦い記憶。
春雨と苦い記憶。
その日は、酷い雨が降っていた。
一向に降りやむ気配が見えない。
それどころか、雨脚は強くなっていく。
庭の畑は、もう何年も前から放置されていて、今や
そこに雨が降り注いでいた。
もう、完全に放置されたこの畑は、数年以上耕作していないのだ。
去年までは植えて咲かせていたチューリップを今回は植えなかった。
その場所に、貧弱な葉っぱが出ていた。
1度花を咲かせてしまうと、球根は一気に萎んでしまうから、翌年はほぼ、咲かない。
鉢に入れたクリスマスローズが、こんな時期に咲いていた。
菖蒲の葉っぱが伸びている。
百合は全く手間いらずで、毎年この時期に一気に伸びてくる。
母は花が好きだったから、毎年植えていたが、去年にその花を見ることなく、亡くなった。
体の古傷が傷む、こんな日は嫌いだ。
随分と昔の怪我なのだが、こんな日は折れた場所が軋む様にして痛む。
そしてこの激しい雨は、母が完全に倒れた日を思い出させて、憂鬱な気分にさせる。
予兆はあった。
確かに普段と違う感じがしていた。何かがおかしい。
介護をずっとしていたので、毎日記録していた。
体温と血圧は必ず、朝晩2度づつ計って記録していたのだ。
そして日記帳は毎日の介護内容と母の様子で埋まっていたからだ。
2週間くらい、そんな様子を見ていたが、その後、母は完全にダウンした。
日曜日で、どうしようもなかった。母は脱水症状を起こしかけてもいた。
介護ベッドに横たわる母にしてやれる事は、水を持って行って少しだけでも飲ませる事と、濡れタオルを変えてやる事くらいだった。
朝になって救急車を呼び、即入院だった。
そこから長い入院になった。
今でも、後悔と共に、唇をかむ。
それ以降、それを思い出させる、この激しい雨が嫌いになった。
外を見ると、この時期は何時ものように庭のはずれのコメ桜が満開だった。
この雨で散ってしまうだろうか。
直ぐ近くの河の土手にある桜並木も、この雨で散りそうだ。
降りしきる雨の中、自分の原稿はちっとも進まなかった。
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