(25)



「少し絞りますね」

「ぐえっ」


思わず出てしまった変な声に、目の前の女の人がくすりと笑った。私は今、ドレスのフィッティングのためにやってきた王都の仕立て屋さんにコルセットの紐を引っ張られている。普段はコルセットなんて着用しないので、これを着てダンスをするなんて拷問以外何があるというのだろうか。私は仕立て屋さんにお願いをして、少し緩めて貰うことにした。仕立て屋さんは『ウエストを細く見せた方が』などと渋っているが、私は断固として譲らなかった。だってこんなに締められていたらいつか気絶してしまう。そのぐらいコルセットをギリギリと締められていたのだった。


「では、このぐらいでいかがでしょうか」

「も、もう少し……」

「はい。いかがですか?」

「このぐらいならなんとか……」


先程よりも緩くしてもらったので、先程までの浅い呼吸が少しだけ深い呼吸へと変わった。あぁ、良かった。これなら初めてのダンスパーティーで失態を犯さないで済みそうだ。


何故私がドレスのフィッティングを行っているかというと、ついにレオンから招待状が届いたのだ。先日遊びに来たレオンが言っていた “王家主催” ダンスパーティーの招待状。お父様と私に宛てられた招待状に、張り切ったのはお母様だった。私以上に喜んで、そして気合が入っていた。


『目一杯お洒落をしなければ』


いや、普通で大丈夫です。と言ってみたけれどお母様の耳には届いていないようで、おじい様から聞いていたらしい仕立て屋さんに連絡をとった。そしてやってきた仕立て屋さんは、以前王都でご挨拶をしたご年配の女性だった。彼女は私を覚えてくださっていたようで、屋敷に到着するなり丁寧に挨拶をされた。その後仕立て屋さんは私の部屋でフィッティングの準備をし、そして今に至るのだ。


「少し右腕を上げていただいてもよろしいですか?」

「はい」


言われた通りに右手を上げる。仕立て屋さんは私の腕を触って『もう少し詰めた方がいいかしら』などとぶつぶつ呟いている。確かに少し生地が弛んでいるので詰めてほしい旨伝えると『えぇ、さすがカーラ様ですわ。そのように致しますわね』と腕の辺りに印をつけられた。

同じように左腕も印をつけられ、今度は裾の長さをじっと見つめている。


「長さは如何致しましょうか?」

「あまり長いと裾を踏んでしまわないか心配です」

「それなら少し短めに……このぐらいではいかがです?」

「はい、そのぐらいで」


ヒールも履くのでその分を加味した長さは、ダンス中に裾を踏んで相手の方に迷惑をかけないで済みそうな長さだ。しかし裾を踏まないということは、裾を踏んでしまったという言い訳ができないということ。ステップを踏み間違えたらなんて言い訳しようかなと考えるが結局思いつくことはなかった。


「パニエはどのような形に致しますか」


ふいに掛けられた言葉に、私は深く考え込む。パニエとは、ドレスの下に着用し、裾をふわっとさせるものだ。その形によってドレスの裾の形も変わるので、どのようなものにするか悩みどころでもある。まぁ、私は子供なので足の長さを考えるとそこまでこだわらなくてもいいのかもしれないが、提示された手前考えないわけにもいかなかった。

あまりボリュームがあるものだとダンスがしづらいだろうし、かと言って少なすぎても貧相に見えてしまうだろう。ならばその中間がいいのかもしれない、と仕立て屋さんに伝えてみる。


「そうですね、カーラ様にはそのぐらいの広がりの方がよろしいかもしれません」

「ではそれを用意していただいても?」

「もちろんでございます」


良かった、どうやら希望通りにいきそうだ。私はほっと胸を撫で下ろし、近くに置いていた椅子に腰掛けた。ずっとフィッティングをしているので疲れてしまった。そろそろ終わりにしたいのだが、フリルの位置決めや刺繍をどこに入れるのかなどまだあるようで、私は束の間の休息を堪能しようと全身の力を抜いてだらんとしたのだった。

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