(24)



「カーラは風属性なんだね」


目の前に座り、カップを傾けるレオンに私は頷いてみせる。応接間にはレオンと私、そして部屋の隅でティリーが遊んでいるだけ。お父様とアレクおじさまは別室で何やら大切な話をしているようだ。


「うん、そうなの」

「扱えるようになってきた?」

「全然。魔導書を読んでいたから少しは扱えるかなと思ったけど、そよ風を出すので精一杯なの」


開花した時よりも弱い風しか出てこない。魔法に関する基本的なことは頭の中に入れていたはずだけれど、実際使うとなると難しいのが現状のようだ。


「ぼくも初めは全然だったよ」

「聖属性は私より難しそうだわ」

「そうなのかなぁ」


間延びした声を上げるレオンから視線を外して自分もカップを傾ける。アールグレイの香りが鼻腔をくすぐった。


「それより、カーラも開花したのだからデビュタントに向けて準備しないとね」

「うっ……」


スチュアートとの苦手なダンスレッスンを思い出してげんなりとする。いずれ私も社交界へデビューすることになる。もちろん憧れはあるが、今まで避けていた他の貴族のご令嬢とも関わりを持つようになるのが面倒だ。


「ぼくもそろそろ開花のことをお披露目しようと思うんだ」

「まぁ、ついに?」

「うん。いい歳だしね」


今までレオンの開花は限られた一部の者しか知らされていなかった。それがついに国民に披露される。となると国を上げてのお祝いになるだろう。


「そこで王家主催のダンスパーティーを開催するつもりなんだけれど、どう?」

「え?」

「デビューにはもちろんまだ早いけど、ただのダンスパーティーだと思ってくれればいいから」


ぱちくりと目を瞬かせる。今彼は何と言った?


「王家主催のダンスパーティー?」

「うん」

「それに私も……?」

「ジェド殿の同伴ということで」

「いやいやいや!」


いくらお父様と同伴のダンスパーティーだといっても王家主催なんてさすがに大きすぎません?


「無理!」

「なんで?」

「そもそもうちのような中流貴族がそんな大きなダンスパーティーになんて参加出来ないもの!」

「そんなことないよ。爵位があるから招待状は届くだろうし」

「でも」

「ぼくはカーラに来て欲しいな」


整った顔で悲しそうに言うのはずるい。本当にずるい。私は『うっ』と言葉を詰まらせ、そして小さく頷いた。


「分かった、お父様に言ってみる」

「楽しみにしてるね。あ、そうだ。今日会いに来たのはそれだけじゃないんだ」

「え?」


レオンは自身の隣に置いてあった小さな箱を私に差し出してきた。なんだろうとそれを見つめていると、彼は小さく微笑んだ。


「遅くなったけれど、カーラへの誕生日プレゼントだよ」

「え、いいのに」

「手紙に今度会った時に渡すって書いたでしょ? それにカーラのために選んだものだから受け取ってほしいな」


差し出されたプレゼントとレオンを交互に見遣り、そして私は手を伸ばしてそれを受け取った。ありがとう、とお礼を述べれば、レオンは『どういたしまして』と目を細めた。


「開けていい?」

「もちろん」


レオンの承諾を得てから蓋を開けてみる。中にあったのは、可愛らしいブレスレットだった。小ぶりの翡翠色の石が付いていて、透明の石と細いチェーンで繋がっている。


「わ、可愛い!」

「気に入ってくれた?」

「もちろん!」

「じゃあ今度のダンスパーティーに付けてきてほしいな」

「ダンスパーティーに?」

「うん」


こんな可愛らしいブレスレットはぜひ付けて行きたい。しかし、にこにこと微笑むレオンがなんだか怪しくてその表情を窺っていると、彼は知らんぷりをして少し冷めてしまった紅茶に口を付けたのだった。

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