(23)



目が覚めた時からなんだか体の調子が悪かった。しかし寝込む程のものではなく、普通に起き上がれたし食欲もないわけではない。ただなんとなく体がだるくて、ぼーっとするのだ。


「そろそろだな」


お父様の部屋で紅茶を飲んでいる私を見ていたお父様が声をかけてくる。一瞬なんのことか分からなくて首を捻ったが、すぐにあの日のお父様の言葉を思い出した。


「魔力の開花、ですか?」

「おそらくな」


あぁ、お父様もこんな感じだったのかと自分の手のひらをじっと眺める。そうか、魔力の開花か。私ももうその歳になったんだなと感慨深くなる。


「今日は色々な感覚が過敏になっているはずだ。大人しくしていなさい」

「あの、お父様」

「なんだ」

「これからどのようにして属性が分かるのですか?」

「それは……説明するよりも自分で感じた方が早いだろう」


ほら、というお父様の声に、私は視線を自分の体へと向けた。先程までなかったはずの淡い光が体から発せられている。色でいうと淡い緑色。ぽわわわーっと広がる光に、お父様が口を開く。


「風か」

「風?」

「あぁ、どうやらお前は風属性らしい」


その瞬間、一際強い風が辺りに吹いた。部屋に置いてある飾り物はカタカタと揺れ、読み途中だった本がパラパラとめくれていく。窓は閉まっているはず。ならばこの風は、私から発せられているということで……。


「えっ、風属性!?」


思わず大声を上げてしまう。だって私が風属性だなんて信じられないからだ。ゲームの中のカーラは “水属性” であった。それなのに私は “風属性” だという。ゲームのストーリー上、私が風属性であってもなんら問題はないと思うが、小さな歪みが胸の奥に引っかかった。


「そうか、やはりお前は風属性だったか」


ぽつりとお父様が呟く。しかし自分のこの状況を整理するので手一杯の私は、お父様が何を言ったのか耳まで届いていなかった。


「お父様、あの、お部屋に戻って休んでもよろしいでしょうか」


自身に纏う風が止んだタイミングを見計らって口を開く。疲れたのは事実だが、それよりも自分に置かれた状況を改めて整理したいと思ったからだった。


「あぁ、ゆっくり休みなさい」


お父様の大きな手が私の頭に優しく乗せられる。それに酷く安心して、ゆっくりと息を吐き出した。


「失礼いたします」


ぱたん、とドアを閉めて一目散に部屋へ戻る。急いで紙と羽根ペンとインクを取り出して机に向かった。

本来ならば私は水属性であったはずだ。それなのに判明した属性は風。別物だ。そもそも魔法属性は、水・火・風・土・光・闇・聖とある。一般的なものは水・火・風・土で、特別なものは光・闇だ。これらは限られた人数しかいない。

光は特に王族の中に多く、現王であるアレクシス国王陛下とレオン王太子殿下に限っては聖属性である。それが直系の証であり、正式な王位継承権を有する。

闇属性は普通では開花しない。元々は一般属性だった人間が魔族と契約し、手に入れる属性でもある。魔族と契約するには対価を差し出す必要があるのだが、その対価とは己の命である。


(クロードというキャラが魔族と契約する一歩手前でシルヴィアが助けるのよね)


オルドフィールドの優等生。しかし優秀であるが故に、常に優秀であらねばならないという多大なストレスから闇魔法へ手を出そうとしてしまうのがクロードだった。


(家が優秀だと大変なんだなぁ)


クロードの家は代々、オルドフィールドを首席で卒業し、そして魔法省のトップであった。彼の父親も現魔法省長で、それ故に優秀を求められているのだが……。


「だからといって魔族と契約なんて」


とある選択肢を間違えてしまってバッドエンドを迎えてしまったことがあるクロードルートを思い出して、私は深く息を吐き出した。

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