(20)
それから私達はメアリのパンを頬張りながら村中を歩き続けた。仕入れは大変だけど日用品を売っているお店だとか、村の真ん中にある井戸は共有していて、でも子供は危険だから近寄っちゃダメと言われているけど私はこっそり覗き込んだことがあるとか。レオンも『覗いてみたい』と言ったので彼が落ちないように服を掴みつつ井戸を覗けば『お嬢様!』と村の人にバレて叱られてしまった。すぐに謝ってその場から逃げ、私達は顔を見合わせて笑った。
「そういえばこの村にも学校があるんだよね?」
「うん」
「アルドヘルム殿が教鞭をとっているとか」
「現役を退いてからね。儂の生き甲斐じゃーって言ってる」
元々この村には学校はなくて、おじい様も学校を建てたかったけれど誰も教師が来てくれなくて(特にお給料の面で不満を持たれる人が多かったらしい)困っていたが、おじい様が現役を退かれる時に『あれ? 儂が教師やればよいのでは?』となったようで、お父様が学校を建てておじい様が教壇に立って今に至るようだ。
「ちょっと覗いてみない?」
「え?」
「学校!」
見学するぐらいならいいだろうとレオンに提案してみる。彼は考え込み、そしてゆっくりと頷いた。
「こっちだよ」
「わっ、待ってカーラ!」
レオンの手を引いて足早に学校へと向かう。ここから西の方角にある建物が学校だ。朱色の屋根が家の隙間から見える。
そこまで距離はないのでレオンと話しながら歩いていればあっという間に学校にたどり着いた。
「ここだよ」
もちろんオルドフィールドに比べたら全然大きくないし、生徒の数だって微々たるもの。だけれど確かに生徒は通っていて、ここで簡単ではあるが魔法の授業が行われていた。
「私もここに通うのかぁ」
ぽつりと呟いた言葉にレオンが『えっ!?』と驚く。まさかそこまで驚かれるとは思ってもみなかったので、私はビクリと肩が跳ねた。
「カーラはオルドフィールドに通わないの!?」
「え? あ、うん。オルドフィールドは学費が掛かるし、私より弟を通わせたいから、私が通うのはここの予定だよ」
「特待生枠があるじゃないか!」
「うん、でも私が特待生として選ばれるはずないもの」
なんだなんだ、レオンの圧がすごいぞ。ぐいっと顔を近づけていた彼の表情はそれはそれはとても不満そうだった。
「ぼく、カーラと同じ学校に通えると思ってたんだけど」
「通えたら楽しかっただろうけど、仕方ないわ」
実際問題、お金がないのだ。私達は村の税金で暮らしている。国からも補助金は出るが、それは全て村の整備に当てている。私達が村の人よりも少しだけ裕福なのはお父様の副業が関係しているらしいが、その副業については知らされていない。一度聞いてみたことがあるが上手く話を逸らされてしまった。
「カーラは通いたくないの?」
「……そんなことはないよ」
例えば無償で誰でも簡単に入れるなら入りたい。だってあのオルドフィールドだ。通いたくないわけがない。
「でもね、いいの。それにオルドフィールドに入らなくたって魔法の勉強は出来るのだから」
「……ぼくはカーラと同じ学校に通いたい」
寂しそうに呟いたレオンに言葉が詰まる。そう言われてしまうと困ってしまうなぁ、と苦笑した。
純粋に私と過ごしたいと言ってくれる友達になんて言おうか考えて、そして彼の手を取った。
「ありがとう、レオン。そう言ってくれるだけで十分よ」
きゅっと力を込めれば、彼は不満そうに、けれど同じように握り返してくれた。
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