(17)



何故こんな所にレオンが、そう問い掛ける前に彼は私の手を両手でぎゅーっと握り締めてきた。


「良かった!」

「レオン、あの……」

「アルドヘルム殿に君がいなくなったと聞いて探してたんだ。君に何かあったかと思って気が気じゃなくて……でも本当に良かった」


矢継ぎ早に話すレオンに驚いて口を出せずにいると、レオンが私の後ろにいるラルフへと視線を向けた。


「彼は……」

「あ、あぁ! 彼は私を助けてくださったの」

「そうなんだね」


ちらりとラルフを見ればフードを目深に被っており、その表情は伺い知れない。そうよね、こんな所でレオンに顔がバレるのはまずいわよね。と妙に納得するが、いやそもそもレオンが王太子だとバレる方がまずいのではないかという心配がふつふつと湧き起こった。


「あの! 改めてありがとうございました! このお礼はいずれ必ず……!」

「ちょ、カーラ」

「それでは、ごきげんよう!」


レオンの背中を押して反対方向へ足を動かす。最後に振り向いて小さく手を振ったが、彼はフードを被り直すだけで手を振り返すことはしなかった。











「どうして勝手にいなくなったりしたの?」


レオンに尤もなことを言われて『うっ』と言葉を詰まらせる。まさかレオンに向かって『乙女ゲームの攻略キャラに似た人がいたから興味本位で路地裏を覗いたら私を誘拐しようとした男に襲われてそれを先程の男の子に助けられた』と全部を言えるわけでもなく、なんて返そうか必死に頭を回転させる。頼む、何か出てきてくれ……!


「…………美味しそうなにおいにつられて」

「は?」


しかし普段から頭を使うことなどあまりしない私には言い訳を考えるのが出来なくて出てきた言葉は『美味しそうなにおいにつられて』だった。自分でも思うけどなんだそれ! ほら! レオンも変な顔してる! こいつ食い意地張りすぎだろみたいな顔してる!


「違うのレオン、あの…………ごめんなさい」


しかし私が勝手にいなくなって周りに迷惑をかけたのは事実だ。肩を落としながら謝れば、レオンにそっと手を握られた。


「王都は昔より治安も随分良くなったと父上は仰ってました。しかしそれでも悪い奴らがいて、特に近年は……いえ、とにかくカーラが無事で本当に良かった」


ぎゅっと、握られた手に力が込められる。それに酷く安心して、私は自然と笑みがこぼれた。


「それにしても、よく見つけられたね。あのお店から離れていたのに」

「あぁ、それは僕の鳥にお願いしたんだ」

「鳥? 鳥って、あのお手紙の?」

「ううん、少し違うんだけど、まぁそんな感じかな。まだ君の魔力を感じられないから探すのが大変だったけれど」


なんとも曖昧な言葉に首を捻る。なんだ、どうやって探したというのだ。しかしレオンはそれ以上口を開かない。笑って誤魔化している。教えてくれたっていいのに、と頬を膨らませてみるが効果はまるでなかった。ちくしょう。


「戻ったらアルドヘルム殿と執事の……えっと」

「スチュアート?」

「そう、そのお二方にきちんと謝らないとダメだよ?」

「えぇ、そうね」


レオンの話によると、おじい様は泡を吹いて倒れてしまい、スチュアートは取り乱していたため私を捜索しようにも上手く出来なかったらしい。レオンが私に会いに来ようとしてくれなければ更に事態は悪化していたと。うーん、本当に申し訳ない。


「ありがとう、レオン」

「どういたしまして」


そして私達がおじい様達の所に戻れば、おじい様は大泣きしながら私を強く抱き締めて、スチュアートには盛大に怒られつつもその目にうっすらと涙が浮かんでいることに気がついたので、私は何度も何度も謝った。もちろん上手い言い訳は思い浮かばなかったのでレオンに話したのと同じ言い訳をすれば更にスチュアートに怒られたのだった。

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